大将とシロが着替えから戻る頃には顔の熱も冷めていた。目が合って「覚えとけよ」と口パクすれば、彼女は俺にしかわからないくらいの微笑を漏らした。
…思いっきり楽しんでやがるなこの状況。

それはさておき、大将たちがいない間に俺たちの様子や本丸の状態を確認していた瑪瑙は、茶を一口含むと机に肘をつき目を細めて笑った。

空気が冷たくなった気がするのは俺だけじゃないだろう。味方でも背筋がゾッとするような笑み。明らかに怒っている。



「俺と翡翠の目を欺くとは…良い度胸してんじゃねぇの」


「おい」


「わかってるって。人様の本丸でブチキレたりしないよ。でも、舐められたモンだよなぁ」



クツクツと鼻で笑う瑪瑙の様子に、普段の優男の面影は無い。大将と違ってこの男は表情があり過ぎて全く掴めない。信用はしているがどこに沸点があるのかもわからねぇ。それ故かこちらからは誰も声を上げられずにいた。

…大将以外。



「何やら楽しそうですね、瑪瑙さん。悪巧みでも?」


「フフ、まぁね。そもそもこうなった原因は見抜けなかった俺たちにもある。クロちゃんたちには申し訳ないんだけどさ」


「瑪瑙さんたちは悪くありませんよ。この程度で済んでいるのですから、寧ろ私は感謝しています。私も何となくはわかっているので仰ってくださいな」


「了解。でも、ここはやっぱりあの人に説明してもらおうか」



どうやら大将たちはもう原因がわかっているようだ。

何が何だかさっぱりわからない俺たちを置いて、瑪瑙は鏡で何処かに連絡を取り始めた。
霊力が籠められた鏡の表面に波紋が広がり、映し出されたのは…



「はい、こちら真黒…」


「せんぱーい?クロちゃんたちの呪いの説明お願いしまーす」



大将たちの義兄で時の政府の役人、真黒だった。

というか…



「「「「「のろい?」」」」」










瑪瑙に怯えつつも俺たちの現状を見て更に顔を青ざめさせた真黒は、震える声でもきっちりと説明してくれた。



「新術開発部の仕業だね…」



新術開発部とはその名の通り新しい術を生み出す部なんだそうだ。時を越える力もこの部が開発したものらしい。その他にも異空間に点在する本丸それぞれに結界を施したり、四季を変える術ってのも…、審神者たちが使う術の殆どがそうだと言う。

で、今回の俺たちの性転換事件については…



「最近開発している術がそれだよ」


「政府は性転換の術なんて開発してんスか?」


「何の為に?」


「黒本丸が増えてきたことと、審神者の大半が女性だってことが問題でね。女審神者では反逆した刀剣男士相手に敵わないだろうってことで考えついたのが、刀剣男士の女士化」



女になれば男よりは筋肉量も減って女審神者たちが避難できる確率も上がる。元はと言えば反逆される審神者がいけないのだが、俺たち刀剣男士は付喪神だ。神の手で死傷者を出すなんてあっちゃならねぇ。

故に刀剣による犠牲者を出さず、黒本丸なんていう政府さえもお手上げな物件を減らすには性転換が最善の手だと考えたらしい。



「まってください!あるじさまたちもおとこになっていますよ?」


「女審神者も男にする術なのか?これは」


「いいや、だからまだ開発段階なんだよこの術。人間の生まれ持った性別まで変えるなんて言語道断だし、このままでは禁術に認定されるってことで更なる研究が進められてたんだけど…」


「開発中なのになんで今この本丸に使われてんだ?」


「それは…」


「コレ、見てごらん」



真黒を遮り瑪瑙が卓上に出したのは破かれた紙切れ。

この形状からすると何かの札か?元は縦長で何か文字が書かれていたらしいが、残念ながら薄汚れていて解読は不可能だ。



「なぁに?この怪しい紙」


「呪符だよ。さっき本丸を調べていて見つけたんだ。この本丸を再建する時に仕込まれてたらしい」


「そんなものどこに?」


「最上階の天井裏。君たちは全部屋使っているわけじゃないし、特に最上階は誰も行くことも無いんだろう?呪符も今まで発動していなかったから、時間差で発動したことでクロちゃんにも発見できなかった」


「すみません…」



見抜けなかったことが悔しいのだろう、大将は拳を握り目を伏せ謝罪する。



「謝らねぇでくれ大将。気づかなかったのは俺たちだって同じだ」


「そうだよ、クロちゃん。俺と翡翠も再建中ずっと見張ってたのにわからなかったんだからさ。
呪符の対象がこの本丸だったのは術を開発してるタイミングに再建するって話が上がったことと、運良く審神者が女の子だったこと。そしてクロちゃんが政府直属の審神者じゃなくなったことで、万が一不具合が起きても政府の痛手が無いってことかな」


「その"万が一"の確率で主たちまでこの有り様ってわけか」


「もっと確率高いと思うけどね」


「ですね。政府から抜けたことが仇になりました」


「もし刀剣男士だけが女士化していたら実験成功ってことで他の本丸にも適用させてたんだろうね。でも実際は大失敗。
…で、さっさと戻してほしいんスけど?先輩?」


「うぅ…っ」



再び黒笑を浮かべて鏡の向こう側を見つめる瑪瑙。冷や汗をタラタラと垂らす真黒が若干不憫に思えてきた。真黒が悪いわけじゃないんだがな。政府の不始末だから仕方ない。


 

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