本丸に戻ると内番していた連中に声をかけ広間に集まる。翡翠もこの現状に溜め息を漏らしたが、すぐに準備するからと言って俺たちの前で札を作り始めた。
「やっと終わりますね」
「だな。…ったく、あんたには振り回されっぱなしだった」
「ちょっと楽しかったです」
「ちょっとどころじゃないだろう、かなり弄ばれてた気がするんだが?戻ったら覚えとけよ?」
「ふふ、勿論」
「できたぞ」
札を作り終えたらしく振り向いた翡翠は、札に念を込めながら印を結び、呪を唱える。
「…解!」
言霊と共に翡翠の霊力が俺たちの身体から何かを裂くようにすり抜けていく。たった一瞬の出来事ですぐには元に戻れたのだと思えなかった。
が、周りにいる連中の見慣れた姿が目に映り、呪いが解けたのだと実感…したのも束の間。
「……ぅ、…」
「クロ!」
「!」
隣に座っていた彼女の身体が傾いで寄り掛かってきた。
「主!?」
「主!どうしたの!?」
「…寝てる」
「限界だな。女の体力に戻って疲れが一気にのし掛かってきたんだろう。霊力使いすぎて眠っちまっただけだ」
心配している連中が集まってくる中、彼女を抱え直すとスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。寝顔なんて殆ど見せないくせに、霊力の乱れは彼女に相当負担を掛けていたらしい。
「部屋に寝かせてくる。ありがとな、翡翠」
「おう」
今度改めて礼をしよう。まずは大将を運ばねぇと。
首と膝裏に腕を回して抱き上げ、大将の部屋へ向かう。廊下に降り注ぐ春の暖かな日差しは俺の睡魔まで呼び起こした。
「昼寝日和だな」
「一緒に寝ますか?」
「なんだ、起こしちまったか?」
「目は開けられませんが…、意識はまだ辛うじてあります」
本当に眠りにつく寸前の状態なのだろう。身体は完全に俺に預けているし瞳も閉ざしたままだ。
部屋に入って彼女を下ろすと、どこにそんな力が残っていたのか俺に抱きつき胸に頬擦りしてきた。
「珍しく甘えん坊だな」
「ん…。男になってみてわかった」
「?」
「薬研を甘えさせるのも…良いなって思ったけど、今は…、薬研に甘えたい」
「!はは、嬉しいこと言うじゃねぇか。じゃ、このまま眠っちまいな。ずっと傍にいてやるから」
「うん…。おやすみなさぃ…」
言った直後、今度こそ本当に眠りについたらしい。傍らに畳んであった袿を手繰り寄せ、掛けてやっても身動ぎすらしない。俺の背に回された腕も解けそうもないことから、彼女が心から甘えてくれているのだとわかる。
「…お疲れさん、夜雨」
やっぱり夜雨は女人の方が良い。
「…可愛い寝顔だ」
男の夜雨も格好良かったけど、女人じゃねぇと可愛いって言ってやれねぇもんな。背も高くて撫でてやれなかったし。
手でそっと髪を鋤いてやると、気持ちいいのか寝顔がふわりと和らいだ。猫耳と尻尾が見えた気がする。
「ゆっくりおやすみ」
…さて、俺もひと休みするか。
彼女を起こさぬよう横になり、額に一つ口付けを落とすと睡魔に抗うことなく眠りの波に意識を沈めた。