──数日後。
第三部隊での遠征を終えると、出陣していた第一部隊もちょうど帰城したところだった。見たところ怪我もしておらんようで、誉は薬研か。さすが第一部隊長。
共に報告に行くかと主の部屋を目指し、あと数歩のところでそれは聞こえてきた。
「こんなに隠してちゃダメじゃない」
「だって…」
「!」
どうやら主の妹、シロが来ているらしい。そして珍しく主が口ごもっている。話の内容から察するに主が隠しごとをしていたようで、部屋の一歩手前で足を止めた薬研につられて俺も歩みを止める。
「薬研くんも気にしてたよ?」
「わかってる。済んだことでも言った方が良いんだってことも。でも…」
「済んだことが多すぎて逆に後ろめたくなっちゃったんだね」
「う…ん……」
「ほんと、クロはこういうことに不器用なんだから」
「ぅぅ〜…」
呆れたように、しかしクスクスと笑うシロの声が聞こえる。
主の中では薬研にも打ち明けねばと考えてはいたらしいが、その済んだ内容とやらがあまりにも多く、事後報告をしようにも言えなくなってしまったのだろう。
普段は器用に二十以上の刀剣を束ねているというのに、シロの言う通り不器用な子だ。
「入らんのか?薬研」
「姉妹の悩み相談に首を突っ込めるかよ」
「だが、主の悩みはお前に何かを打ち明けること。出ていけばすぐに解決するわけだろう?」
「話すか黙るかは大将が決めることさ」
…まったく、主については悉く痩せ我慢する男だ。
この二人は互いを想い合い過ぎて己の欲を我慢し過ぎる傾向にある。意見を尊重することも大事だが、それですれ違いが生まれては元も子もないだろうに。
「…今、言ったら…」
「ん?」
「……嫌われちゃう…かな…。遅いって…」
ぽつりと消えてしまうような声音が耳に届いた。紛れもなく主の声だ。敬語を使わぬ主も俺からすれば珍しいのだが、こんなにもか細く弱々しい声は聞いたことが無い。
「そんなこと無いよ。秘密にされてたのは怒るかもしれないけどさ、こんなことで嫌われたりしないって。クロは薬研くんが一番なんでしょ?」
「うん…。一番好き…」
「じゃあ大丈夫だよ!薬研くんはクロが言うの待っててくれてるよ!」
「そう…かな…」
「そうだぜ、大将」
「!?」
ちょうど良いところで声を掛けるなぁ、薬研。
突然本人の声が聞こえて驚いたらしい。振り返った主は薬研の姿に目を丸くした。そんな表情もするのか。成る程、愛らしい。
「や…げん…、三日月も…。いつから…?」
「ちょっと前。シロが大将に隠しごとを咎めてる時だな」
「あらら」
主もシロも俺たちに気づいていなかったか。まぁ、気づいていたならすぐに会話を切り上げていたのだろうが、それほど真剣に話し合っていたということか。
「もう隠せないね」
「…はぁ。まぁ…これ以上は隠せないって思っていたところだし」
「じじいは席を外すか?」
「いえ、いてくださって構いませんよ」
観念したらしい主は俺たちの座布団を用意し、座ったのを確認すると真ん中に大きな葛籠を置いた。猫か犬でも入りそうな大きさのそれだが、主の持ち方からしてそんなに重いものではないようだ。
そっと蓋を開けられ、現れた中身は…
「手紙?」
「はい」
主に宛てられた封筒。ご丁寧に"クロ様へ"と書かれているそれらは、達筆なものから幼児が書いたような曲がりくねった字まで様々だ。
「まぁ手紙と言えば手紙なんだけど…」
「なんだ、もしや恋文か?」
「ご名答です」
「恋文!?これ全部がか!?」
「全部が、です」
「あなや…」
まさか当たりだったとは…。しかもこの量全てが主宛の恋文…。つまりそれだけの男に目をつけられておるわけだ。自分で言っておいてなんだが、じじいも驚いたぞ。
薬研は見ても良いかと主に許可をとり、適当に取り上げた一通の手紙に目を通す。
「………紛れもなく恋文だな」
「そう言ったではないですか。全て恋文です」
「なんでこんなにあるんだよ?まさか演練に行く度に貰ってんじゃねぇだろうな?」
「すみません。そのまさかです」
主の返答に薬研は頭を抱えた。己の女が己の知らぬ場所で男に言い寄られていたなどと想像もつくまい。
否、演練場には薬研も毎回共に行っているのだから知らぬ場所ではないのか。