「大将が報告書を演練後に出しに行ってた理由はこれか」
「薬研くん、クロのこと怒らないであげて?クロは…」
「いいよ、シロ。黙ってたら怒られるって覚悟はしてたし」
「でも…」
「待て待て、順番に話を聞こう。薬研だって理由を聞かずして怒りはしまい?」
聞き分けが良すぎる主と、主を庇うシロ。しかしまだその詳細を聞いていない。
薬研も隠されていたことが恋文であったことに多少の文句は言いたそうに眉間に皺を寄せていたが、俺の問い掛けに一つ息を吐いて落ち着くと手紙を元に戻した。
「そりゃな。今だって別に怒ってなんかいないさ。大将が隠してたんだからそれなりの理由ってのはあんだろうし。ちゃんと聞かせてくれるんだろ?」
「はい」
優しく微笑みかける薬研に安堵した主は演練後に何があったのか、全てを語ってくれた。
「最初は演練中…、貴方たちが対戦相手と戦っている最中でした」
順番待ちをしていた男審神者に声をかけられ、「読んでほしい」と手紙を渡されたらしい。主はその場では読まず、帰宅後に一人で読んだそうだ。当然その手紙の文末には「返事がほしい」とも書いてあり、しかし連絡先も知らないため主はどうしようかと悩んだ。
考えに考え込んだ末、次の演練後に真黒にその審神者を呼び出してもらい断りの返事をしたらしい。
「断ったんだな?」
「当たり前じゃないですか。私が好きなのは薬研だけなんですよ?誰かに乗り換えるなんて死んでも嫌です」
「…………」
(すっごく喜んでるね、薬研くん…)
顔を覆っているが赤面が隠しきれておらんぞ?
花弁が舞いそうだな、薬研。
「して、その後はどうなったのだ?」
「その方にも私に好きなひとがいることを伝えましたし、付き合えないとも言いました。理解のある方でしたから後腐れもなく引き下がってくださいましたよ。演練で対戦するときはよろしく、と」
「そうか」
「ただ…」
「ただ?」
「その方とお別れした後に、また別の審神者さんに声をかけられてお手紙を渡されたんです」
「…………」
「それもまた恋文だったので、更に次の演練でも真黒さんに呼び出してもらってお断りして…。そしたら真黒さんから預かりものがあるって、引き出しからまたお手紙が数通出てきて…。だから次でも」
「もういいぜ、大将。もうわかった。要するにそれが延々と続いちまって今に至るわけだな?」
「はい…。ごめんなさい。全員お断りしているのですが、ここまでたくさん手紙が溜まるとは思わず…」
「普通こうはならないし誰も予想できないよ…」
「ははは、主はもてもてというやつなのだな」
確かに主は大人しく色白で整った美貌の持ち主。もて囃されるのも無理もない。そもそも今まで睨まれていたことがおかしいくらいだ。まぁ、それは主の生い立ちや主の力を恐れる政府の対応のせいなのだがな。
主の過去改変事件で有名になったことと無所属の審神者になったことで、主が周囲に認められたからこそのこの人気。主の刀剣として鼻が高いが、ここまで男に集られるのは些か不愉快ではあるな。
「んで?なんで黙ってたんだ?俺に一言言ってくれりゃ、ついてって睨みの一つでも効かせてやったのに」
「その…、それじゃダメかな…と」
「ダメ、とな?」
不満を漏らす薬研を前に、主は葛籠いっぱいの手紙を見つめながら言った。
「薬研に来てもらうことも勿論考えなかったわけじゃありません。一緒にいてくれるだけで心強いですし、隣にいないと逆に落ち着かないですし。寧ろ私は、いつも一緒に来てもらいたくてしょうがなかったです」
「そ、そうか…」
妬けるな、薬研。物凄く想われているではないか。
「でも、この手紙は私を好いてくれた方たちの想いが詰まっていて、どれも本気でした。初めてなんですよ、異性から手紙を貰うなんて。しかも全て真剣だったから…」
「!」
…そうか。故に主は一人で行ったのか。
今までこんなにも愛情を向けられたことなど無かったから、男の真剣な想いに応える為に主もまた真剣に断りに向かったのだな。一対一で、対等の立場で、己の心を告げに…。
「薬研についてきてもらったら、きっと私は私の言葉で伝えられなくなると思ったんです。薬研を盾にはしたくなくて…。ちゃんと向き合って、私も本気なんだってことを伝えてお断りしたかったから…」
「…………」
「ずっと隠しててごめんなさい。怒られても仕方ないって思って…」
「ん?ちょっと待った大将。なんで俺が大将を怒るんだ?」
「え?」
主の言葉を遮り問い掛ける薬研に、主も首を傾げる。
ここからは黙っていた方が良いか。シロと共にじじいは様子を見守ることにしよう。
「怒ってないのですか?」
「いや、だからなんで怒る必要があるんだ?」
「隠しごとをしていたのですよ?貴方に」
「そりゃ誰だって隠したいことの一つや二つくらいあるだろ?」
「……。じゃあ、さっき頭を抱えて眉間に皺を寄せていたのは?」
「ああ、あれか。毎日近侍で部屋に来てる俺に、こんだけ大量の恋文をよくずっと隠してられたなぁと感心半分、呆れ半分って思ってた」
「ふふ、ほんとだよ。私だって毎日遊びに来てるし時々一緒に寝てるのに、さっき打ち明けられて初めて知ったんだから」
「ははは。主は隠すのが上手いなぁ」
面白そうに笑う薬研に俺とシロも微笑する。
前からそうだが、主は隠したいものは徹底的に隠す子だ。それこそ本人が打ち明けなければ誰も気付かない程、見事に隠蔽する。それがもし隠してて問題の無いものなら一向に構わないが、主の身に何かが起こるような火種であれば薬研も怒りを露にしていたことだろう。
「ま、確かにこんだけの男に迫られてたってのはちっと思うところがあるが…。でもな、大将」
「?」
葛籠をずらし主の正面に移動した薬研は、彼女の頬を両手で包み込んで目を細める。
「あんたが多くの男を魅了する女だってこと、俺としては物凄く嬉しく思ってるんだ」
「嬉しい、の?」
「ああ。だってそうだろ?こんだけ男を選び放題な状況になっても全部断るってことは、あんたの瞳に男は俺しか映ってねぇってことなんだから」
「!」
「結構優越感に浸ってんだぜ、俺」
「……そっか」
擽ったそうに、ふふと微笑む主。
薬研と結ばれてからはよく笑うようになったな。俺たちの前でも薬研に対する想いはよく表すようになった。
「ふふふ、クロ幸せそう」
「そうだな。良い笑顔だ」
自然とこちらも笑顔になってしまう。
朗らかなその笑みがいつまでも続くようにと俺も願わずにはいられない。
「私は薬研のこと大好きだから、これだけの手紙を貰ってもこの気持ちだけは全然揺らがなかった」
「光栄だぜ、大将。あんたが人気者になって俺も誇らしい」
「でもさ、クロ。水をさすようで悪いけどこの恋文どうするの?とっとくの?」
シロが指差す葛籠の中身。この恋文を仕舞っておくにしても今後のことを考えるとこの葛籠は少々小さく感じる。何しろ今でさえ溢れんばかりの量が入っているのだから。
薬研も気になったのだろう、チラッと葛籠を見やってから主へと向き直る。すると、主は考える素振りも見せずその葛籠を持って立ち上がった。
「シロ、手伝ってもらえる?薬研と三日月も」