パチパチと燃え上がる炎から煙が夕空へと立ち昇っていく。

庭の隅で焚き火の準備をしていれば当然他の刀剣たちも興味を示し、主は恋文の件を皆にも打ち明けた。主自身は薬研に話したことでもう隠すつもりは無かったらしい。

長谷部は「主に言い寄る不届き者はどこのどいつだ?」などと顔を般若にしていたが、主が宥めればすぐに元の忠犬に戻った。扱いに慣れているなぁ主よ。



「わぁ…。"貴女の白魚のような美肌は見たことがありません"だって」


「げ、そんなのあったの?ちょっと鳥肌立った」


「こっちは"演練や会議等でお見掛けしておりました。刀剣たちを労る御心に惚れました。是非お付き合いを…"って。惚れたにしても友達からとかじゃないの?」


「私だったら即お断りするよ」



主の恋文に興味津々な加州は読みたくて仕方なかったらしい。瞳を輝かせる加州に主が頷けば、シロも同じく大和守と共に手紙を漁る。

先程からずっと読み上げられる内容を聞いているが…、何というか飾った文面が多いように思える。
白魚のようなとは何だ?



「クロ、まさかこの文を真に受けてて捨てられなかったとかじゃないよね?」


「そんなわけないでしょ?捨てるなら薬研に言ってからって決めてたし、恋文の廃棄の仕方もわからなかったから」


「考えた結果、燃やすことにしたと?」


「私が頂いた"想い"は全て、私の手で火に焼べようって思って」



主は加州たちが読んだ手紙を受け取り、その文面一つ一つに目を通してから火の中に放る。端からじわじわと焼け焦げては煙になって昇っていく。藤の瞳で見つめるその横顔からは何を思っているのか感情を窺うことはできない。



「…罪悪感か?」



"想い"を捨てることを悪と思うのだろうか?この心優しい娘は。

しかし、主は首を横に振ると立ち昇る煙を見上げた。



「いいえ。好きになってもらって嬉しかったですが、これらは全て私が持っていて良い"想い"ではありません。私には私が心に決めた大事なひとがいて、恋文をくれた方たちにもいつか大事なひとが現れます」


「…………」


「だから、これはけじめ。断ち切らなければいけない"想い"ですから」


「己が手で天に送る…か」


「はい。これが最善かはわかりませんが、新しい恋が実るよう祈りと共に燃やします」



そう言って、また一通の手紙を焼べた。"クロ様へ"という文字が焼けて消えていく度に、主は目元をゆるりと和ませる。

これを恋文を宛てた男たちが見たらどう思うだろう?己の手紙が想い人の手で燃やされているのを知れば、怒りや憎しみが生まれるのだろうか?

だがもし俺がその立場なら、今の主の心の声を聞けばそんな怒りもまたすぐに鎮まり、穏やかな気持ちで次の一歩を踏み出そうと思うだろう。


ふと、俺が主を認めたあの日を思い出した。あの時もこうして炎を前に主と共に喋ったのだったな。

残酷なようで優しい。そんな主だから俺も心穏やかな気持ちで過ごせているのだろう。



「これからもよろしく頼むぞ、我が孫よ」


「?はい、おじいちゃん」



何の脈絡もない言葉にも主はすぐに応えてくれる。





愛しい我が主よ

末永く幸せであれ










──後日。


「…クロ、ちょっと聞きたいんだけど。何なのこの葛籠は?」

「また随分と大きな葛籠だなぁ」

「その……、手紙入れ?」

「なんで!?全部燃やしたよね!?あれから告白の時は薬研くんもついて行ってるんでしょ!?なんでまたこんなに溜まってんの!?」

「そ、それが…」

「俺がついてっても大将は俺に頼らずきっぱり断ってたんだがな。それをこの間たまたま通りかかった女審神者に見られちまって」

「「あんなにも真っ直ぐに薬研への想いを語って告白を断れるなんて尊敬します!」って言われた。そしたら次の演練で女の子たちに囲まれて手紙を…」

「"ふぁんれたー"ってやつだな」

「ファンレター!?」

「前々から特別部隊の演練もよく見に来てた審神者たちでな、密かに大将に憧れを抱いてたらしい。女にとっても尊敬と憧憬の対象ときたもんだ。いやぁ俺は大将の男として気分が良いぜ!」

「それは良かったです」



「ははは!薬研も誇らしげだな」

「もはやクロが男女どっちにも人気者であることに不満は無いのね」

「お互い干渉の余地が無いほど愛し合っておる証拠だな。幸せそうでじじいは嬉しいぞ」

「そうだね。妹としても嬉しいよ。でもまた二人に何かあった時は頼らせてね、おじいちゃん」

「あい、わかった。じじいも孫の為ならいつでも力になろう」


 

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