「…は?待て待て嘘だろ薬研?この状況で寝るか?」
「いや…、まぁ…。でもベロンベロンだしねぇ」
「おい、あんた大丈夫か?」
「っは、はい…。けほっけほっ」
貴方が眠ってしまった為に、広間はまた変な空気に包まれました。主の息も絶え絶え。僕も構えていた手を迷子にするほか無かったのですが、いつまでも彼女を下敷きにしておくわけにもいかなかったので起こそうとしたんですよ。
鶴丸さんも手伝うというので貴方を退かそうとしたのですがね…
ぎゅうっ
「お?」
「離れませんね…」
「それどころか抱き締められる力が強まりました」
主の肩に顔を埋めて、手は口付けの時のまま彼女の後頭部と手を握っていました。無理に引き剥がそうかともしましたけど…
「う…、鶴、私のお腹が限界です…。食べたもの出ちゃいます」
「おおっと、すまん。それはいらん驚きだな」
貴方ったら、主から離れたくないばっかりに彼女の上で体重掛けまくったんですよ。
「こいつの手を先に外せば良いんじゃ…」
パシンッ
「っと。こいつ本当に寝てんのか?俺の手振り払ったぜ?」
「あーあ…。ほら薬研、主だってお風呂まだなんだから離れて…」
ゴチンッ!
「ぃッたい!!頭突き!?」
ドカッ!!
「ぐふっ!この野郎、俺にまで蹴り食らわせやがった!驚きの守備力だぜ!!」
和泉守さんが貴方に手を伸ばしただけでその手は叩き落とされ、加州さんの顔面に頭突きし、鶴丸さんの腹を蹴飛ばして、奪わせんとばかりに主に抱き付いたまま離れませんでした。
ここまでされては僕らでもどうしようもありません。
主も貴方の様子に観念したらしく、溜め息を吐くと僕らを見上げました。
「仕方ありません。今夜はここで寝るしかないですね。このまま」
「ええっ!?畳で雑魚寝なんて痛いでしょ?」
「廊下よりはマシですよ。私たちを部屋まで引き摺ってくれても良いですけど」
「僕らに何させようとしてるんですか貴女は。はぁ、しょうがないですね」
「主の部屋から布団持ってくるよ」
「では、私も行きましょう」
「お願いします。小夜、江雪。宗三、ちょっと手伝ってもらえますか?」
気転を利かせたお小夜と兄様を見送り、僕は主に言われた通りに貴方と主を横向きに転がしました。あのままでは主が寝苦しくて眠れないでしょうからね。横向きになったらなったで足まで彼女に絡めるんですから、貴方の執着も相当ですね。
「光忠たちもお片付けしてお休みください。手伝えなくてすみません」
「ううん、気にしないで!」
「力になれなくてごめんね、主」
「大丈夫ですよ。シロたちが先に寝てくれてて良かったです」
「確かにな。ああ、あと粟田口もか」
運良く主の妹さんは大和守さんと一緒に部屋に戻っていましたし、薬研以外の粟田口兄弟も既に就寝していました。一期さんと鳴狐さんもお風呂に行ってますから、明日になって騒がれることは無いでしょう。
「だが今夜はそう易々と眠れそうもないな!主には悪いが良い驚きを見せてもらった!」
「悪いと思うなら忘れてくださいな…」
「ははは!良いじゃないか!酔うとそいつの本心が見えるもんだ。薬研は相当主にぞっこんということだろう?」
「…………」
「んじゃ、俺らも風呂行くか」
「だね。あ、一期さんたちを広間に近づけさせないようにしないと」
お風呂に行った方たちは和泉守さんと加州さんに任せ、燭台切さんたちは夕餉の片付けをしに広間を出ました。必然的に残ったのは僕と眠っている貴方と主だけ。
「明日薬研が起きたら驚くでしょうね」
「ですね。何と説明するべきか…、困りましたね」
「困っている顔ではありませんよ?皆の前で辱しめられたというのに」
目元を和ませて貴方の寝顔を見つめる主はどこか嬉しそうでした。想い人に抱き締められていれば嬉しいのでしょうが、それだけではないように思えたので聞いてみたんです。
「…お酒のせいもあるのでしょうけど、さっき言われたんですよ」
宗「?」
「クロ、あったけぇ…」
「皆さんには聞こえてなかったみたいですけどね。初めて"クロ"って呼んでくれました」
普段は僕らの前で"大将"と呼んでいる貴方が、彼女の審神者名を呼んだのだと。呼ばれたことが予想以上に嬉しかったらしいです。
お酒の力には頼ってしまったけれど、主従ではなく恋人の間柄を晒け出してくれた。照れ臭そうに頬を染める主はとても幸せそうでした。
「本当に、変わりましたね。貴女も薬研も」
「そうですか?」
「そうですよ。そんな表情を見せられては、明日薬研に妬みの一つも言えないじゃないですか」
「では、この役目は宗三にお願いしましょう」
宗「?」