「次に起きた時、最初に見たのは私の手を握ったまま眠ってるクロだった。散々なこと言ったのにね、それに対してクロは何も言わない。その後もずっと変わらずお見舞いに来てくれたんだ」
私の存在がクロを苦しめてると思い込んでいた。私がいなくなればクロは自由になれるんだって…。
私のせいで片割れが生きにくくなるくらいなら、もう私に関わらせない方が良い。二度と顔も見たくなくなるくらい、いっそ私を嫌いになってほしくて「もう来ないで」って、「嫌い」って嘘を吐いた。
「本当はこれっぽっちも嫌いなんて思ってなかったんだけどね。だって私にはクロしか頼れる存在がいなかったんだもん。ずっと一緒にいてくれる大事な片割れを嫌いになんてなれないよ。でも…」
「主に幸せになってほしくて突き放そうと?」
「うん…。結局そんな考えクロにはバレバレだったんだけどね」
それに「置いてかないで」って…。
そうだよね。母さんが死んだ時、私も思った。もっとずっと一緒にいたかった。置いてけぼりにされるのが寂しかった。もし私が死んだら、クロだけが取り残されて独りぼっちになる。どんなに辛いことか、わかってた筈なのに…。
でも結局クロには全部お見通しでデコピンひとつして「ちゃんと遺言全うしろ」って、それだけ言って元通り。もっと叱ってほしいのにさ、どうしたら私が反省するのかわかってるから叱らない。自分で考えて反省しろっていうのがクロから与えられた罰だった。
「主さんらしいね。はい、兼さん塵紙」
「ぐすっ、ズビビッ」
涙脆いよね、兼さん。涙と鼻水で顔が大変なことになってるよ…。
「はは、主は昔からそんな感じだったんだな」
「ふふふ。口調こそ前はもっと軽々しかったけどね。でもほんと、クロは相変わらず優しいよ。光忠さんがその辺似てるのかもね」
「え、僕?」
「伽羅さんのこと理解してる光忠さんと、私を理解してるクロ。似てるでしょ?」
他人の幸せを思い距離を置く伽羅さんと私が似てるように。
伽羅さんが慣れ合いを拒むのは、いつかの別れを惜しんでいるから。関係を持っていつか自分がいなくなった時、その人が悲しまないように。傷つけないように今の内に距離を置いておく。寂しい優しさ故の行動だ。
「伽羅さんは優しいひとだって雰囲気でわかるし、光忠さんたちといる時の伽羅さん楽しそうだしね。似てるから親近感が沸くというか、だから楽しいんだ!」
「へぇ、成る程ね。なら俺も大倶利伽羅と慣れ合ってみようかな」
「清光、わざわざ行くの?怒られるよ?」
「シロが一緒なら大丈夫じゃない?」
「あ、それなら僕も行く」
「じゃあ伽羅さんとも一緒にかくれんぼしよう!」
楽しみが増えた!
そうと決まれば早く善哉食べて伽羅さんを探すとこから始めないとね!
雨はいつの間にか止んでいて、空には美しい虹の橋が掛かっていた。
「…聞いてた、伽羅ちゃん?シロちゃん楽しいってさ」
「どうでも良いな」
「どうでも良いなら廊下で盗み聞きせずとっくに立ち去ってるだろう?伽羅坊もシロくらい素直になった方が良いぜ?」
「慣れ合うつもりはない」
「傍目でわかるくらい慣れ合ってるじゃないか」
「………猫は例外だ」
「「!」」
──その夜。
「……何故、お赤飯?」
「祝いの席にはお赤飯でしょ?」
「…今日って祝うようなことありましたっけ?」
「まぁ気にするな!慣れ合い記念ってやつさ!」
「慣れ合い?」
「大倶利伽羅、俺たちが留守の間に何かあったのか?」
「……聞くな」
「美味しいね、伽羅さん!」
「…そうだな」
((慣れ合い…))