「あぁ〜づぅ〜いぃぃ〜〜!!!」



暑いよ!暑い!暑すぎる!!
非番で何もすることが無いから広間でゴロゴロしてたんだけど、何もしてないのに暑さで疲労が溜まりそう。

このままじゃ溶けてただの鉄に戻っちゃうよ!
日本の夏ってこんなに暑かったっけ?



「そんなに暑い暑い言ってたら余計に暑くなりますよ」


「だってさぁ…。じゃあ前田は暑くないわけ?」


「暑いです…」


「一緒じゃん」



そうですねと苦笑する前田の額にも汗が滲んでいる。

ボク以外にここにいるのは、同じく非番の前田だけ。最近来た厚は薬研と一緒に鍛練場に行っているし、五虎退も同じく稽古をつけてもらっているらしい。この暑いのによく汗かきに行けるよね。ボクには出来ない…。

広間の襖も障子も全開にしてるのに風なんか殆ど入ってこない。ぶら下がっている風鈴は全くと言って良いほどに鳴らないし、その役目を放棄しているも同然。



「あぁあもぉおおー!!前田!何か涼しくなる方法ない!?」


「ええっ?えぇと…」



急に言われて狼狽えながらも必死に頭を捻る前田。

八つ当たりだってわかってるけどさ、でも暑いんだもん。頭回らないんだもん。なんで前田は平気な顔できるの?



「…では、本丸で一番涼しい場所を探してみませんか?」


「涼しい場所?」


「この広間は人口密度が低いと言えど、風も無く太陽光も入ってきて暑いですし。それならどこか別の場所を探してみるのも有りかと」


「成る程…」



前田の言うことも一理ある。いくら部屋の中にいたって日光が当たってれば暑くて当然だよね。まぁ日が傾いてきて当たっちゃってるだけなんだけど。



「よし!そうと決まれば行くよ、前田!」


「はい!」











…というわけで、まず向かったのは厨。



「あれ?乱くんに前田くん、どうしたの?」



おやつはまだだよ?と首を傾げるのは燭台切さん。ちょうどおやつを作ってくれているところらしい。

今日は水羊羹だ!涼しげで良いね!



「今、本丸の避暑地巡りをしているのです」


「ああ、成る程ね。最近暑いもんねぇ」


「広間全開なのに風も入らないんだもん。燭台切さん、どこか涼しい場所知らない?」


「そうだねぇ…」



うーんと唸る燭台切さんを前田と一緒に待つ。

唸りながらも水羊羹を作る手を止めないのはさすがだなぁって思った。主さんの言葉を借りるなら、"さすが本丸のお母さん"。



「涼しいかはわからないけど、涼しげな人たちの所に行ってみるのはどうだい?」


「涼しげな人たち…ですか?」


「そう。例えば、江雪さんとか太郎くんは暑いって言葉すら言わなそうじゃない?」


「確かに!」



特に江雪さんは名前に雪が入ってるだけあって涼しそう!



「この時間、二人は祈祷場にいる筈だよ」


「わかった!行ってみる!」


「ありがとうございました」


「どういたしまして」



またおやつ時にねと言う燭台切さんにお礼を言って、ボクらは祈祷場へと向かった。











「江雪さん!太郎さん!」


「おや?」


「…珍しいお客人ですね」



ちょうど祈祷場から出ていこうとした二人を呼び止める。
どうされましたか?と振り向いた二人は、燭台切さんの読み通り涼しげな表情だった。

祈祷が一段落したところだったようで、隣の部屋で一服しようかと話していたらしい。一緒にどうですか?とのことなので、少しだけお邪魔させてもらった。



「…成る程。避暑地巡りですか」


「それで我々の元に?」


「はい。燭台切殿の推薦で」


「そうですか。しかし…、気温は他と変わらないかと…」


「みたいですね…」



祈祷場は本丸の四階にある。つまり太陽が近い!太陽光もバッチリ!暑い!!
あ、二人の雰囲気はめちゃくちゃ涼しいけどね。



「お役に立てず申し訳ありません…」


「いえ!寧ろお邪魔してしまってすみません」


「江雪さんと太郎さんは、本丸で涼しい場所とか知ってますか?」


「そうですね…」


「参考になるかはわかりませんが…。先程、馬当番を終えた小夜と今剣殿も、避暑地を求めてこちらに来たのです」


「えっ?あの二人も?」


「考えることは皆同じということですね。もしかすると、彼らは既に避暑地を見つけているかもしれません」


「可能性はありますね」


「二人はここからどこに?」


「一度、鍛練場に顔を出すと言っていましたね」


「わかりました。探してみます」


「ありがとうございました!」



というわけで、次なる目的地は鍛練場!
……絶対暑いと思う。


 

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