…で、鍛練場に来たんだけど…



「蒸し暑っ!汗臭っ!!何なのここ!!?」


「み、乱兄さん…」


「何しに来たんだよ」


「鍛練場なんだから当たり前だろ?」



案の定めっちゃ暑い!!よくこんな暑いのに鍛練出来るよね。本当に鉄に戻りそう…。

ここには薬研たちだけじゃなく、大倶利伽羅さんに鶴丸さん…、珍しく三日月さんと小狐丸さんもいた。



「お?粟田口兄弟総出で鍛練とは驚きだねぇ」


「いえ、鶴丸殿。僕と乱兄さんは避暑地巡りをしているのです」


「避暑地巡り?残念だが、ここは避暑地とは無縁だぜ」


「わかってるよ、それくらい」


「そういや、さっき小夜と今剣も来たよな」


「ははは。一歩踏み入れてすぐに出て行ったがな」


「あれらこそ、何しに来たのやら」



きっと今剣が小夜の手を引っ張って出てったんだろうな。目に浮かぶよ。



「じゃあ、あの二人がどこに行ったとかはわからないか…」


「そうだなぁ…」


「二人とも、何も話さずに行っちゃったから…」


「俺らもそうだな…。伽羅坊、何か知ってるか?」


「慣れ合うつもりは無い」


「まぁそう言ってやるなって」


「…目的地は知らんが、離れの方に行ったのは見た」


「離れ…。主君の所でしょうか?」


「今剣のことだし、大将に"あつい!"って直談判してたりしてな?」


「!!そっか!主さんに景趣変えてもらえば良いんだ!」


「へっ?」


本丸の季節は現世に合わせるのと主さんが変えられるのと二種類あった筈!主さんは今、現世の季節のままにしてるから…



「そうと決まれば主さんに冬にしてもらおうっと!」


「「「「「冬ぅ!!?」」」」」


「行くよ前田!」


「えっあっ、ま、待ってください!皆さん、お邪魔しました!」





「…俺、余計なこと言った?」


「あー…、そうだなぁ。まぁ大将が冬に変えるとも思えんが、雪くらいは降らせてくれるかもな」


「ははっ、真夏の雪か!それもまた乙なもんだろうな。なぁ、伽羅坊?」


「…どうでも良い」


「さて、続きと行くぞ三日月。早く終わらせてぬしさまに毛並みを整えてもらうのじゃ」


「ふむ。俺も主と茶が飲みたい。やるか」











鍛練場を出たボクらは急いで離れへと向かう。今剣たちはもう主さんに頼んでるのかな?

そう思って次の角を曲がると、その先には何かから隠れるようにしている今剣と小夜がいた。なんでこんな所に?



「今剣、小夜!何してるの?」


「あっ…」


「しーっですよ!」



小声で注意を促す二人に習ってボクらも自然に声を潜めて近づく。



「何かあるのですか?」


「いや…、主がいるだけ」


「主さん?涼しくしてもらおうとしてたんじゃ?」


「そう!ふゆにしてもらおうとおもってたんですけど」


「(思ってたんですね…)」


「あれ、見て」


「あれ?」



二人の後ろから覗き込んだ先。そこは離れで主さんの私室だ。

主さんも暑いのか襖は全開にしていて、軒下には一つだけ風鈴がぶら下がっている。夏場は浴衣姿で過ごすらしく、藍色のそれに身を包んだ主さんは文机に向かって書類を纏めていた。

…いつもの主さん…だよね?

特に変わったところは無いだろうと思っていると、サァッと風が吹いた。



「……、…」



風は主さんの長い髪を揺らし、風鈴がチリチリと音色を響かせる。

顔に髪が掛かるのを防ごうと、目を細めて手を耳元に掛ける主さん。それを見て、一番に浮かんだ言葉を述べるなら…



「綺麗…」



清らかというか、麗しいというか…。とにかくそこだけが凄く幻想的に見えたんだ。瞬きを忘れてしまうくらい、ボクも前田も主さんに見入っていた。



「ね!そうおもいますよね!」


「主のこと見てたら、暑いの忘れられたんだ」


「そう言えば、確かにさっきより涼しく思えますね」



気のせいってやつなんだろうけど、でも前田の言う通り涼しく感じる。

そうか、だから今剣と小夜はここから主さんを眺めてたんだ。近くに行ったら主さんの邪魔になっちゃいそうだし、ここなら日陰にもなってるから眺めてても他より涼しいもんね。

つまりここがっ!!



「本丸の避暑地発見だね!」


「はい!」


「えへへ。ぼくきゅうけいはここですごすことにします」


「僕も…」



こうして本丸の避暑地を見つけたボクらは、当番や出陣を終えては主さんを眺めに来ることにした。

いつの間にか鯰尾兄や骨喰兄、加州さんと大和守さんも加わるようになって、さすがに主さんも気づいちゃったみたいだけど…。でも、涼しく見える主さんもいけないんだからね!

今は八月上旬。まだまだ暑い夏は続いていく。
もう暫く眺めさせてね?主さん。










「おい、乱。大将も気づいてんだから程々にしろよ?」

「えぇ〜?だって主さん見てると本当に暑さ忘れられるんだも〜ん。薬研だってそうでしょ?近侍でいっつも近くにいるんだから」

「あのなぁ…」

「あと、薬研の格好暑いから寄らないで」

「は?」

「なんでこの真夏に白衣羽織ってんの、最悪。近くにいるだけで暑いからどっか行ってくんない?しっしっ」

「表出ろやコラァ!!」

「おお怖い怖い。ボクがその白衣破いて乱れさせてあげるよ」

「元気だなぁ、お前ら」


 

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