Destiny!
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転校初日、促されるままに踏み入れた教室で、たくさんの人の視線を一身に受けてたじろいだ。何かに縋るようにチラリと視界の隅に写る深いグリーンの毛を辿ったその時。運命の出会いをした。
退屈そうに頬杖をついたアナタを見つけたの。
嫌そうにするでもなく、邪険にかち合った瞳を逸らすでもなく、それまで退屈に染められていたアナタの瞳が、表情が、困ったようにはにかんだ瞬間。
思わず目を見開いて、「かわいいヒトだ」。そう思ったことは今になっても時々思い出す。
それからずっと、私はアナタの事が大好きで堪らないの、チリちゃん。
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Destiny!
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「あ! なぁ、転入生! バトルしよや!」
「…………わたし?」
バトルの才能は人より秀でている。小さい頃から持て囃されていたそれは、今のチリをチリたらしめる絶対的で揺るぎない自信である。実際に知識量や瞬発力、手持ちポケモンとの信頼・連携なんかは同じクラスに所属している学生とはレベルが違った。
失礼にも退屈を覚えたチリはそれはもう子供に大人、男女関係なく「強そう!」と直感で感じ取ったトレーナーに片っ端からバトルを挑むようなバトルバカに成長。案の定と言ったところか、パルデアのトレーナーとして常識が無い と理事長にクレームが来たのは先週のこと。どこかの地方では目と目が合うとポケモンバトル!が鉄則らしいが、ウチ・パルデアではそうは行かないらしい。
理事長から注意を受けはしたものの、そんなことは知ったことでは無いチリ。本日転入してきたばかりの女子はなんだか弱そうだったが、腰に巻いているベルトには4つのモンスターボールが着いていた。今までの経験上、手持ちポケモンが4体のトレーナーは強いというチリ独自の統計があった為、これはもうバトルを挑むしかないと直感で思った次第の行動だ。ちなみにその独自の統計はまぐれである。
一方、バトルを挑まれた転入生・なまえ。彼女もまたポケモンバトルの星に加護を受けた天才であった。
自分の生まれの地であるイッシュ地方から連れてきた相棒は好きなファッションモデルから影響を受け、僅か7歳の頃に草むらまで何も持たず丸腰の状態で挑み、強かにも肉弾戦で戦ってゲットしたわんぱく坊主、エモンガ。わんぱく坊主とは言ったが、どんなオスでもメロメロにさせてしまう罪なボディを持った乙女。女の子である。
エモンガを中心に連れてきた4体の手持ちポケモン達はなまえの手によって長年に渡り鍛え上げられ、今や最強のパーティになっていた。
「えっと……? まずキミの名前教えて貰えないかなぁ」
「? ……あ! 忘れとった! チリです、よろしゅう」
「チリちゃん。 かわいいなまえ」
繰り返すように、もう一度名前を呼んだなまえ。キョトン、とチリは目を丸くした。まさか、中性的な自分にちゃん付けで呼んでくるような子が居ると思わなかったのだ。なんだか呼び捨ての方が距離が近いような気がするし、チリちゃんなんて呼ばれ方をされると他人行儀な気がしてならなかったので、チリはすかさず否定した。
「別に、ちゃん付けんでもええで」
「ふふふ、わたしがチリちゃんって呼びたいの」
「……いや、そう……? 好きにしたらええけど」
なまえは、チリの手をキュッと握る。強気な印象が残る、ややつり目がちなレッドアンバーの瞳は三日月目に細まって隠れてしまった。大きな瞳を囲うまつ毛が、陶器のような白い頬に影を落としている。チリは、なんだかエネコみたいだなと思った。パルデアにはいないが、他地方の番組なんかでは良く見るポケモンだ。
「わたしはなまえ。 可愛いけど、嫉妬しちゃやよ」
バチン!と音がなりそうなくらいに、そして星が見えそうなくらいに上手なウィンクだった。何を言うとるんやこの女は?とチリは本気でそう思ったが、数年後には自らも同じようなセリフを吐いて分かりやすく影響を受けてしまうことなどこの時のチリには到底想像できていなかった。当たり前の話であるが。
「チリちゃんもわたしのこと、転入生じゃなくてなまえちゃんって呼んでね」
「……なまえ?」
「やよ、ちゃん付けの方が可愛いわ」
「…………………いや、なまえやな」
「もう!」
それが、これから先ライバルとしてアカデミー生活を切磋琢磨するようになったチリとなまえのはじめまして。ちなみにこの後のバトルでは、じめんポケモンを主に使うチリをエモンガが5タテして完封してしまった。どう見てもでんきポケモンやのにソーラービーム使うてくんな!とはバトル後のチリの叫びで、ひこうタイプ兼ね合わせとんのもズルい!とも言っていた。なまえは涼し気な顔で笑うばかりである。
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