なんだかんだで甘美
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ハッコウシティ内にあるブティックのショーウィンドウを見て、通りすがりになまえは声を出す。これ、チリちゃんに絶対似合う。隣を歩いていたチリは、それを聞いて眉を顰めた。じりり、とマネキンの着るそれを凝視してみたものの、本当に自分に似合うかなんてわからないし、着ているところを想像するのも難しかったのだ。
それでもなんだか、似合いそうだとなまえに言われて嬉しかったことは大人になってからでもよく思い出す。
「…………そおか?」
「うん、チリちゃんったらアカデミーの外でも制服着てるじゃない。」
「えぇ……でもこれめっちゃ楽やし……」
「なんだか、私だけチリちゃんと遊ぶのを楽しみにしてるみたいで寂しいの」
創立記念日だかなんだかで、アカデミーはお休みの本日。なまえの誘いで、チリはハッコウシティまで出向いていた。もっぱらバトルばかりに夢中だったチリはファッションだのなんだのにはてんで興味が無く、なまえに連れられでもしなければ目も向けない。
現に今日も全身をバッチリ決めてお化粧までしているなまえと比べて、チリは制服を身にまとったまま。何もアカデミーに在籍している生徒の間では休日も制服を着て出歩くのは珍しいことではないのだが、なまえにとっては不満があるようだった。
きゅるるん、とツヤツヤでうるうるの瞳を輝かせながらなまえに詰められると、チリは何故か無下にできない。寂しい、と小さく呟いたそれに根負けしそうなチリは、次の言葉で撃沈してしまう。
「チリちゃんは細身なんだから、パンツなんて履いてみたらきっと似合うの。 ……ね?」
「…………………ほな試着してみて、ちゃんとサマになったら買うてみるわ」
「わあ!」
両拳をきゅっと握りしめ、胸元に持ってくる仕草でなまえは感嘆の声を漏らす。あざとい仕草も、なんだかなまえがすると様になるというものだ。これと同じように、自分がパンツを履くとサマになるのだろうか。なまえが言うのだから似合わないことは無いのだろうが、チリは一抹の不安を心に抱えてスイとブティックに入った。
「ーーー似合う! 想像以上に似合う!!」
「…………そ、そお?」
「うん! 足元が細いから上半身はゆるいシルエットでもバランス取れてるね! Tシャツやオーバーサイズのトレーナーを着ても可愛いと思う! でもチリちゃんは肩の骨格がしっかりしているから体格がわかるようなワイシャツでも似合うんじゃないかなぁ……あとね、あとね!」
「なんて?」
試着室から出て第一声、そしてチリが聞き返してしまったばかりに酷い熱量の返事が返ってきた。あれよあれよとなまえや店員に促されるままにチリはトレーナー、Tシャツ、ワイシャツ、サスペンダーと次々に服を大量購入しており、今までモンスターボールとキズぐすりくらいにしか使っていなかったリーグペイや現金はほぼ底を着いてしまった。ポケモンバトルで荒稼ぎしていた金が無くなっていくあの光景はチリを喪失させたと言う。晩御飯はなまえが奢ってくれるらしい。是非そうしてくれ。
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