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昔から男性が苦手だった。幼稚園の頃に仲良しの女の子のお友達と作った、大きくて可愛くてキラキラした砂のお城を、ギャハギャハと笑いながらサッカーボールで壊されたあの瞬間から。ずっとずっと、苦手だった。そんな苦手意識は成長すると共にぶくぶくと膨れ上がって、自身が気が付いた頃にはもう取り返しのつかないレベルにまで大きくなってしまっていて。
「なんで、こんな状況になったん」
私を含む、全部員から信頼を得ている北先輩だから。彼だから、理由を聞かれた時にはっきりと答えた。昔から男性が苦手だった、と。
……さて。ここまでが昨日の話である。
じっと私だけを見つめる北先輩は、徐に口を開いた。何を考えているか分からないと常々思っていたが、これほどまでに感情を読めなかったことがあっただろうか。
「昨日の今日でこんなん言うんは良くないって分かっとるけど、そんなこと考えとったらいつまで経っても言えへんと思ってな。」
「え、あ、はあ」
二年の部員がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる室内と相対して、この廊下だけがやけに静かだった。二人の息遣いの音すらも聞こえる。誰も、こんな事態に発展するなどと想像はしなかったのだ。
「率直に言うと、好意持っとる」
ピン、と張り詰めた糸のように緊張が犇めくこの場で、張本人である北先輩だけが憑き物が落ちたかのような、すっきりしたような面持ちであった。取り残されたわたしを置いて、北先輩はどんどんと言葉を紡いでいく。緊張だとか不安がる素振りだとか、そんなものは微塵も感じられなくて。こんな時に考えることでは無いと思うが、これこそが彼を北信介たらしめる所以なのだと実感した。
「男が苦手なんはよう分かってる。 けど、諦めるつもりは微塵もあらへんからそのつもりでおってくれると助かるわ」
「……」
北先輩が腕を伸ばして始めて、自分がジャグタンクを抱えていることを思い出した。それも取られてしまったので、思い出したところでなんの足しにもならないのだが。
「話はこれだけやから。 先戻っとくで」
私の話など聞く気がないようで、依然として飄々とした態度のまま、一切の感情の乱れを感じさせないまま、北先輩はこの場を後にした。
私はと言うと、じりじりと体の芯から火照る体をしずめようとしてとりあえず顔を覆った。
「……え、えぇ……」
こ、こんなことになるのなら、男性が苦手だなんて言うんじゃなかった!
「好きって、言いにくいやん……!」
思わず膝を着いて、そのまま拳を握って床をどついしてしまった。男性が苦手になったことも、北先輩を好きになってしまったことも、そもそもこんな男だらけの部活のマネージャーになってしまったことも、全部全部、なにもかもが間違いだったのだ!
なぜこんな部活のマネージャーをやることになったのか? まずはそこから見直す必要がある。
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