目は口ほどに






「……」

 じぃ、と音が着くほどの熱視線を感じた。

 ……見られてる。すごく、見られている。

 練習が始まって2時間ほど経った。私はとある人物から注がれる視線から逃げるようにそそくさと準備室へ向かった。

 この体育館の準備室はほぼバレー部の私物化とされていて、ボールやスコアボードなどの備品以外にも粉末ドリンクや洗濯に使う洗剤、干す時に使う洗濯バサミなど様々なものが置かれている。そんな準備室をぐるりと見渡して、今日使う粉末ドリンクを引いた在庫を数え、今日の買い出しで必要な物をメモ帳に書いていく。あ、あと黒ボールペンの詰め替えインク。洗剤……は、まだ残ってたし今度の買い出しで良いかな。

 そうしていると、いつの間にか私の影は自分自身よりも大きな影に覆われていることに気付いた。誰か後ろに立ってるのか。

 振り向くと、何時ぞやの宮侑。視線を彷徨わせながらもごもごと口を動かしている。どんな感情?

「……マネージャー」
「……なに」
「…………すまんかった」
「……」
「……」

 沈黙。その末に、私は「何が」と呟いた。

「い、いろいろ言うてもうたやん、ちょっとサーブミス重なって八つ当たりした言うか、」
「……。 よう分からんけど、過ぎたことやしええよ」
「ちょちょちょ、待ちぃや!」

 相手は宮侑といっても、男と二人きりの準備室。なんとなくこれ以上はここに居たくないと思った。自身の気持ちに従って彼の横を通り抜けようとすれば、ぐっと腕を掴まれる。あまりにもいきなりだったソレに睨もうとしたその時、私は初めて宮侑の目を見た。この部活に入って、初めてだ。

 なんて情けない顔。バレーしてる時とは全然違う。弱点を握った気にでもなって、自分が優位に立ってしまったような錯覚すら覚えた。

「ふ、ふは、ほんまにもうええよ、んふ、ははは、なっさけない顔!」
「はァ!?」

 デカい声を出してしまった自覚があるのか、慌てたように宮侑は口元を抑えた。ちょっと気まずそうにした後、おずおずと話を続ける。

「なんか言いたいこととかないん!?」
「いや、私も言わんでええこと言うたし。 それに北さんにも色々言われとったやろ」
「ッエ、……見とったんか!?」
「そらもうバッチリ」

 あらええ眺めやったなぁ、とあの光景を思い出してはうっとりしていると、調子を取り戻し始めた宮侑の額にビキビキと血管が浮かび始めた。

「いつまでそこにおるんや。 はよ戻り」

 いつもの如く、ぬっと這い出てるように現れた北さんの言葉で体育館に戻る。

 なんか、宮侑とは一生仲良くなれないと思っていたが、実際問題そんなに難しい訳では無さそうだ。








 - back - 
終焉