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駕籠の中にいるなまえの目線に合わせ、ネジは片膝をついた。外の空気を吸いたいらしいなまえにネジは当然のように手を差し出し、迷うことなく手を掬いあげる。なまえはするりと引かれるように、腰を上げる。
若葉が萌える季節。枝の合間から、柔らかな木漏れ日が地面を斑に照らしていた。
「……わあ」
そんな風に小さく声を漏らすと、なまえは頭上を見上げ、そっと手を伸ばした。陽の光が指のあいだをすり抜けていく。
手のひらにあたる明るさに、少し目を細めながらも、そのまま彼女はゆっくりと掌を動かして、光と影の反射を楽しんでいる。ただ光に触れているだけの、ささやかな仕草だった。
ネジにはそれが、息を飲むほど、たまらなく美しく映った。
(なんてことのない仕草なのに、どうしてこんなに)
なまえの髪が一房だけ風に攫われて顕になったその輪郭をやわらかに縁取る陽の光が、彼女をまるで物語の登場人物のように、どこか現実離れしたものへと見せていた。傍で見ていることさえ罪悪感のようなものを感じるほどで。それでもネジは、目が離せなかった。
(綺麗で、眩しい……)
その感情をそのまま言葉にすることができれば、どれほど楽かと思う。
ネジにはそれが、できなかった。
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