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テンテンが彼女を認識したのは、中忍試験本戦の会場であった。上品な着物を身にまとい、ネジの叔父である日向ヒアシの隣に腰掛けるさまは見事に人目を惹いており、テンテンもそれにつられて釘付けになった人間の一人である。
「……なんて綺麗なひと」
しゃんと伸ばされた背筋は凛とした雰囲気を漂わせつつ、何も思考を読み取らせない見事な無表情は妙な危うさを含んでいた。風が吹くと柔らかに靡く色素の薄い髪は、陶器のような白い肌に柔らかな影を落としている。
彼女はときたま、ヒアシと会話をしている様子だった。だからこそテンテンは目を離せなかった。武道とは無関係であるような身なりの彼女と会話するヒアシがあまりにも物珍しかったのだ。
「わたし、ネジさまが戦うところ、初めて見るんです。」
「そうだったか。 近頃のネジの様子はどうだ」
「そうですね……中忍試験も近かったので、修行によく出かけていらっしゃいました。」
彼女は、生傷が絶えなくて心配だと続けて零した。その言葉でテンテンはピンときた。彼女はネジお付きの侍女であると。やけに育ちの良さそうな侍女である。日向のレベルにもなるとこうも良い待遇なのかと、思わず戦慄した。
「傷の処置も君が?」
「はい。 心得ております」
「そうか、手間をかけるな」
近頃、修行を詰めてばかりのネジを傍で見ていたテンテンは思い返した。たしかに、ボロボロになった日も倒れた日も、翌日には全て綺麗に処置を施されていたものである。てっきり医者に掛かっているものだと思っていたので驚いた。日向にもなると、ご贔屓にしている高級な良薬でもあるのだろう。
「そうか。 手間をかけるな」
手間をかける。ネジの保護者に似た立場のヒアシはそう言った。何の変哲もない、適切な言葉。しかし横に腰掛ける彼女は下で佇むネジを一瞥し、ふっと眉尻を下げた。優しいような、寂しいような、そんな表情。それがどういった意図であるか、テンテンには図りきれなかった。
「いえ。 私が好きでやっていることですので」
「……ああ。 ネジもそうだといいが」
ふとテンテンがネジを見やると、ちょうどネジがこちらの方向を視界に入れた。テンテンとは目が合う様子が無かったため、ネジには見据えたい場所があるように思えた。視線を辿ると、ヒアシ。いや、その隣の、彼女。キッとつり上がったネジの瞳が、一瞬だけ、ふわりと緩む。
「はは、杞憂だったようだ」
テンテンと同じくそれを視認したヒアシが小さく笑うが、隣の彼女は曖昧にはにかむだけで、何も答えはしなかった。
呆然とその様子を見ていたテンテンは興味をなくし、ついに侍女だという思い込みを続けたままこの場を後にする。
(そうか、そういえばネジってば日向の分家だったわね。 どうりで綺麗な侍女さんがつくわけだ。)
なんだか遠い人みたいで面白くない。テンテンはそこから離れた席にすっぽりと腰掛け、一回戦……ネジとナルトの戦いを今か今かと待ち詫びた。察しの通り、この後試合どころの騒ぎではなくなり、彼女の存在どころか中忍試験ですら中止になってしまうのであった。
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