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ちょっと、トランクスくん。袖を引いて、声をかけた。
時はage790。人造人間が居なくなって5年が経った今、若い二人は薄ら寒い夜道を並んで歩いている。
「ね、少しだけ公園でゆっくりしたいな」
「あ……! もしかして疲れちゃいました? 気が付かなくてすみません……」
声をかけられた青年・トランクスはへにゃりと眉を下げて、目の前の彼女・メルの手を取った。
小さな肩掛けバッグひとつしか持っていないメルとは違って、トランクスの片手には昼間2人でさしていた日傘、もう片方の腕や肩には大きなショッピングバッグが幾つかぶら下げられている。
昼間からのショッピングデートで小一時間歩いたといっても、メルが疲れているだなんてそんなこと起こるはずないのに、トランクスは女を慌ててベンチへ誘導した。
日は暮れ、空には月が顔を出している。本日の夜空は機嫌が良いらしく、黒のキャンバスに垂らしたような艶やかな星々が真ん中の月を引き立てるように輝いていた。お月見日和だ、とメルは思う。
「ふふ、違うの、トランクスくん。」
「……?」
「月も綺麗だし、すぐに帰らず外でゆっくりお話するのもいいかなって」
それに、重たい荷物を持ち続けて疲れたでしょう。メルは笑った。
先に述べておくが、トランクスはサイヤ人と人間のハーフである為、この程度の荷物を持った程度じゃあ疲れるなんてことそうそうない。メルとてわかっている。トランクスと話したいだけだったのだ。
「そ……うですね! じゃあ、そこのベンチにでも座りましょうか……!」
「ありがとう、トランクスくん。」
思わぬメルからのお話のお誘いに、嬉しくなったトランクスは分かりやすく顔に出す。そうするとメルも分かりやすく安堵するのだ。それを、トランクスは知っている。
ベンチに腰掛け、トランクスは持っていた荷物を空いたスペースに丁寧に並べる。メルは、夜空を見上げていた。
「ね、見て、トランクスくん」
「? はい、どれですか?」
「空だよ、空。 運がいいね、わたしたち」
「わ、ほんとだ。 流れ星ですかね」
いいえ。 きっと、コメットだわ。
ほう、と感嘆の声を2人揃って洩らす。トランクスにはメルの言う『コメット』が何かは分からなかったが、きっと目の前で光る、蛍光の尾を引く天体の事だろうと勝手に納得する。そうか、これはコメットと言うのか。
「彗星。 わかる?」
「……? ああ、彗星。」
「コメット、ほうき星、とも言うんだって」
「へぇ〜! じゃあアレは彗星なんですね」
「流れ星とは違って、あのままずっと天体の軌道を辿っているのよ。ものによっては、太陽に近付いたまま帰ってこない彗星もあるようだけど。」
コメットをよく分かっていない様子のトランクスに、メルは至極丁寧に説明してやる。博識なメルはこうやってトランクスに沢山のことを今まで教えているが、その実トランクスは話半分しか聞いちゃいない。
楽しそうにパクパクと口を動かすメルを見ていると、どうしても話が入ってこず、愛しいと言った感情ばかりがトランクスの胸を占めるのだ。
メルも何だかそれを察しているので、適当な所で切り上げて別の話題を上げる。
「今日は少し肌寒いね、1枚多めに羽織ってきて正解だったなぁ」
「まだ寒いなら、おれの上着貸しますよ」
「ううん、大丈夫だよ。 トランクスくんが風邪ひいちゃう」
「……そうですか? でも寒いならすぐに言ってください」
オレが風邪ひくより、メルさんが風邪ひいた方が大騒ぎになるんですから。えぇ、そんなことないよ。あります、大いにあります。
くふくふ、くふくふ。メルが少し無茶をした日に大騒ぎしたブルマの姿を思い出し、2人は声を潜めて笑う。もう月も出始めるような時刻だったし、なにより近隣に住む人たちの迷惑になるかと思ったので。そうやって極力静かに笑うよう努めた。
暫く夜の公園で談笑した後、メルを心配したブルマからの連絡を受けて2人は腰を上げるのだが、あまりにもブルマがメルの心配をするものだからまた笑った。今度は声を出して、大いに笑ってしまった。
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