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「いつまでも責任を感じてちゃダメよ。メルは生きてるわ」
「こんな状態にさせてしまって、尚も生きていると言えるんでしょうか」
「きっとあなたが傷付くのが見ていられなかったのよ、トランクス。」
「……そうなんでしょうか」
「ふふ。お馬鹿ねぇ、あなたも、メルも。」
ブルマさんとトランクスくんによる、静かで穏やかな会話が聞こえる。誰がお馬鹿だ、誰が! 反応しないだけで意識はあるんだぞ、こちとら!
現在の私はと言うと。簡単に言えば、脳死した振りを余儀なくされている。こんな状態にさえならなければきっと額に青筋をこさえて飛び起きていたはず。……否、二人を前にしたらこんなちっぽけなわだかまりなんて消えてしまうかな。
あの日あの瞬間、私の意識が途絶えてからというもの、気付いた時にはこのベッドに寝かされていた。目が覚めた、いや、意識が浮上したのは私の手を握る誰かの、鼻をすする音が聞こえたからだ。再度鼻をすすり、小さな喉の引っかかる音が何度か繰り返されると共に握られる手の力が強くなっていく。それが咽び泣く嗚咽の声だと気付くのにそう時間はかからなかった。
誰だ、人が気持ちよく寝ている枕元で泣いているのは? と確認しようとしたところ、体は愚か、手も指も表情も、声帯も。瞼さえ、何もかも動かせない状態になっていた。
これが麻痺なのか植物状態なのか、それともタチの悪い金縛りか、見当が付かなくて。そうして焦っていると、辛気臭くずっとずっと静かに泣いていた誰かが小さく声を漏らした。
「……おれを庇う必要なんて、ありましたか」
……トランクスくんだ。
体を動かせないことに焦っていた私は、次第に、自分の目の前で泣く彼の涙を拭ってやれない事に焦燥を感じ始めていた。
どうしたの、なんで泣いているの。あなたを泣かせたのは誰、私にできることはない? 言いたい言葉も、してやりたい行動も全てが制限される。
「おれのせいでこんなことになったんですか」
「もうおれに、笑いかけてはくれませんか」
ぎゅうっと手を握られる。どうやら私はトランクスくんを庇ってこのような状態に陥ったらしい。さしずめトランクスくんは責任を感じてしまっていると言ったところだろうか。そんなことはないんだよ、とかけたい言葉も、やはり音にならなかった。
何よりも、格好付けて最期に語るつもりだった言葉をトランクスくんに投げかけた手前、体が動かないとは言え死に損なったというのは随分と決まりが悪い。
…………あれ? そもそも、なんで私もトランクスくんも、まだ生きてるんだ?
(もしかすると、革命が起こってしまったかもしれないな)
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