都内某所の高層マンション。
その高層階にある自宅から町並みを見下ろすと、昼間だということもあってか人の波が荒い。こんな上からでも混雑しているのが分かるのだ。下で行き交う人たちは大層息苦しい思いをしているに違いない。けれど彼らは少しも立ち止まる気配を見せず、誰もが人波を縫うことで人波を作り上げている、日本人てのは、本当にせかせかと忙しい生き物だ。
なんてことをふと考えて、今日はそんなどうでもいいことを考えている暇は無かったことを思い出す。まだもてなし準備の途中だった。
手動のコーヒーミルで豆を挽くのを再開させて、僕は今日の予定に思いを馳せる。
今日は、みょうじさんと、その彼氏であるチョロ松くんとその弟であるトド松くんが僕の家に訪ねて来る日だ。
先日の騒動のお詫びとお礼を兼ねてるのだそうだが、僕は正直あの場を楽しんでいた節があるので、お詫びもお礼もなんだか少し違うような気がした。でも、せっかく訪ねて来てくれると言うのだから、それを断る理由もない。それに、僕はもっとみょうじさんや彼らのことを知りたかったし、仲良くなりたいと思っている。こちらの下心ばかりで、なんだか申し訳ない。
お茶請けの確認をしていると、インターホンが鳴った。すぐにモニターを確認し、マンション入口のドアを解錠する。少しして、今度は玄関のインターホンが鳴った。玄関扉を開けると、そこに立っていたのは待ちわびた訪問者たちだ。
「いらっしゃい、みょうじさん」
「お邪魔します」
彼女のこの愛らしい笑顔を見るのも久しぶりになってしまった。仕事柄、職場が変わってしまうことはよくあるし、その通り僕は職場が変わってしまったから彼女に会う機会も必然的に無くなってしまったのだ。
お互いににこやかな笑顔を送り合っていると、突然みょうじさんが目の前から消え、代わりにずいっと顔を出したのはトド松くんだ。僕は彼らを服の色で見分けているけれど、チョロ松くんとトド松くんは表情が違うので、顔が似ていると言っても分かりやすい。
「こんにちはー梅竹さん、お邪魔しますよーっと」
「他人の彼女と見つめ合うの、やめてもらえます?」
「ちょっと、チョロ松っ、引っ張らないでよ!」
相変わらず、みょうじさんは二人に護られているようだ。僕は笑みを隠しながら、三人を室内へと招き入れた。
「うっわ、ひっろ」
「でかいマンションの高層階って時点で察してはいたけど、ただのクソリア充じゃねぇか…!!」
「そんなに充実してるわけでもないんだけど」
「チョロ松兄さん、嫌味だよ嫌味」
「ああ、同世代カースト頂点の余裕だな」
「二人共、卑屈になってないで、今日の目的思い出して」
みょうじさんに注意を受けた二人は、渋々ながら僕と向き合い、三人揃って頭を下げてきた。
「先日は大変ご迷惑をお掛けしました!」
「っしたー」
「うぃーっす」
「真面目に謝罪しろ!!チョロ松に至っては、殴ってんだからね?!」
「その節はどうもーすいあせっしたー」
謝る気を見せないチョロ松くんに、みょうじさんが思いきりのいいアッパーカットを食らわせていた。見事なフォームだ。目から火花が散るって表現は、きっとこういうときに使うに違いない。実際見えた気がしたし、それ以外にも色々出ていたようだ。チョロ松くんは大丈夫だろうか…。
「いいよ、みょうじさん。僕は気にしてないし、それにほら、数日冷やしたら目立たないくらいにはなっただろう?」
「すみませんすみません!慰謝料も払えないダメニートで本当にすみません!!」
「払えないんじゃなくて、払わなくていいって言われたから払わなかっただけだから」
「黙れクズニート」
みょうじさんから繰り出される目潰しに、悲鳴をあげたチョロ松くんが目を押さえて床を転げ回っている。トド松くんは無表情でムービーを撮っていた。この三人、なかなかバイオレンスな関係である。
でも、こうして客観視するとよく分かることもある。やはり僕は、みょうじさんを手に入れる資格が無いということだ。僕では、こんなにも生き生きと笑う彼女を引き出せない。そして僕は、生き生きとした笑顔の彼女が好きなのだ。だから、僕は一生掛かっても好きなみょうじさんを手に入れることは出来ないし、みょうじさんを幸せにも出来ない。この三人を見ていると、それが悲しいことでもつらいことでもないと思えるのだから不思議だ。
三人の一連の騒ぎをにこやかに見物していたら、ハッとしたみょうじさんが恥ずかしげに頬を染めた。
「す、すみません梅竹さん、あの、これ…お詫びのお菓子です、宜しければ」
「ありがとう、そんなに気を使わなくてよかったのに。あ、そうだ、ケーキとコーヒーがあるんだ。一緒にどうかな?」
「いただきます!」
「なまえを餌付けしないでもらえますか」
「餌付けされてません」
「されようとしてるだろ」
「違います!だいたい断るのも失礼でしょ!チョロ松の言い分却下」
「却下を却下。もう謝ったし帰っていいでしょ」
「おま、せめて一般的な礼儀を学べよ。だからいつまで経ってもシコ松なんだよ」
「シコ松って言うな!!ていうか今シコ松関係ないよね?!やめてくんない?女の子がシコ松って言うの!だいたいぼく以外もみんなシコ松だからね!!」
「チョロ松、うるさい」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めるチョロ松くんとみょうじさんを放って、僕はコーヒーを落とし始めた。冷蔵庫には切り分けておいたケーキがあるから、それを乗せるお皿を用意しないと。
「なんか梅竹さん、スルースキル上がってません?ボクら、ちゃんと会うのは前回のこと入れても二回目ですよね。前回のときは結構オロオロしてたのに…」
「ふふ、そうかな?まぁ仕事柄、順応性は高いほうかも知れないけれどね。臨機応変がモットーだから」
キッチンで作業する僕のもとへ、トド松くんがやって来た。二人の言い争いに飽きたのか、それとも僕へのフォローのためか。見ると、みょうじさんとチョロ松くんはソファに座って、まだなにやらか言い合いを続けている様子だ。
「でも、トド松くんが止めないってことは、そんなに大事じゃないってことなんだろう?」
「まぁ、付き合う前からあんな感じだったので。今はなまえちゃんが、横暴なチョロ松兄さんにちゃんと意見言えるようになったって感じなのかな…」
「周りを引っ掻き回しそうなカップルだね」
「現に引っ掻き回されてますしね」
トド松くんと目を合わせて、二人で、ふっと笑いを溢した。まったくその通りだ。でも、それが僕には羨ましい。
「敬語、使わなくていいよ。僕も使ってないし」
「そう?じゃあそうしよっかな。なんか、梅竹さんってボクと相性良さそうだし、堅苦しいの嫌だったんだよねぇ」
「僕もトド松くんには目を掛けてるよ?黒目が大きいから、色々似合いそうだし」
「うわ、もしかしてボクに女装勧めてる?抵抗ないけど、好きな子の前でそれはちょっとな…」
やっぱり、トド松くんもみょうじさんが好きらしい。先程から、トド松くんの視線はみょうじさんばかり追っかけているし、チョロ松くんに対してどこか距離があるようにも見える。僕の考えすぎかな。
「そうだ、みょうじさん」
「っえ、はい!なんですか?」
収束しつつあった口論の途中で呼び掛けると、みょうじさんは笑顔で振り返ってくれた。けれど、隣のチョロ松くんは不満や不快を隠そうともしない。僕は笑いながら、可愛く小首を傾げるみょうじさんを見た。
「今コーヒーを落としてて少し時間があるから、トド松くんをあの部屋に案内してあげたらどうかな?中のものは好きにしていいから」
「え!いいんですか?」
「あ、その顔はみょうじさんも興味あるってことだね?いいよ、自由に使って」
僕が笑うと、楽しそうににやけるみょうじさんが、首を傾げるトド松くんを連れてリビングを出て行った。残されたチョロ松くんはやっぱり不満そうで、への字の口が少しだけ尖ってるのを僕は可笑しく思いながら見ていた。
「はい、チョロ松くん。コーヒーの前にお水でもどうかな?」
「いや、いいです」
「そう、なら飲みたくなったらどうぞ」
ミネラルウォーターを入れたコップをソファの前のローテーブルに置いて、僕はチョロ松くんの隣へと腰掛ける。怪訝顔で警戒するチョロ松くんは、僕に対する敵意を隠そうともしない。
「…ああいう隠語みたいなの、ぼくの彼女とするのやめてもらえますか」
「ああ、“あの部屋”っていうやつかい?君もすぐ意味が分かるよ」
「そうじゃなくて、………」
なにかを言おうとして口籠る。チョロ松くんのへの字を見ながら、僕は水を一口飲んだ。
「本当は話しもして欲しくないし、仲良さげな雰囲気がムカつく…ってところかな?」
「…端的に言ってそうですね」
「ははっ、チョロ松くんは正直だなぁ」
「それ褒めてます?貶してます?」
「あんまりみょうじさんのことに過敏になりすぎると、二の舞を踏むんじゃないかな?」
鋭い目付きで睨まれた。それにも僕は笑ってしまったけれど。
「安心していいよ、僕はもう土俵を降りてるから」
「は?」
「僕は、会社で見ていたみょうじさんより、チョロ松くんと居るみょうじさんのほうが好きみたいなんだ」
「……第一にぼくの彼女なんで、土俵に上がってたことがありえませんけどね」
「僕が土俵に上がったのは、君らが付き合う前だから」
歯噛みしたチョロ松くんが、テーブルの上のコップを鷲掴んで一気に呷った。ダン、とコップの底がローテーブルと音を立てるのを、僕はやはりにやけながら聞いていたのかもしれない。あまりに僕が笑みを崩さないことで、チョロ松くんの機嫌はどんどん悪くなっている気がする。申し訳ないとは思うけど、僕は今すごく楽しいんだ。ごめんね。
「僕は、チョロ松くんとも友達になりたいと思ってるよ」
「遠慮します」
「それは、僕が気に入らないから?」
「…ぼくは、アンタみたいな勝ち組と友達になれるほど出来た人間じゃないんで」
「僕だって、君が思うほど出来た人間じゃないよ」
「公認会計士してて高層マンション住んでてその身長と容姿と性格持っててよく言いますね?喧嘩なら買いますよ?」
「チョロ松くんって血の気多いよね。まぁ、それは僕の表面でしかないから。ほら、チョロ松くんも知っての通り、僕の趣味はあまり他人に理解されないみたいでね」
「……それは、」
「恥ずかしい話だけど、僕は自分が嫌いだったんだ」
自分で言うのもなんだけど、僕は恵まれた環境で育った。曽祖父の代から男はみんな会計士をしていて、家は貧しくなかったし、僕の将来も産まれたときから決まっていた。両親は優しく、一人っ子の僕は愛情を一身に注がれ、なに不自由なく育てられた。
笑うと他人は喜んだ。だから、笑った。
成功すると他人に褒められた。だから、成功させる努力を惜しまなかった。
怒ることはしない。他人が悲しむから。
悪いことはしない。他人に怒られるから。
「僕はね、本当につまらない人間なんだ。だから、僕は君たちが羨ましい。他人に敵意を向けられるチョロ松くんが羨ましい。他人との交流を恐れないトド松くんが羨ましい。…他人を包容出来るみょうじさんが、僕には眩しい」
僕はつまらない自分が嫌いだった。でも自分を変えることなど出来なかった。だから、僕は
「だから僕は、違う自分になりたくて、それで女装を始めたんだ。情けないだろう?上手い逃げ道が見当たらなくて、手を出したのが女装なんてね。でも、これがなかなか奥が深くて、もともと凝り性だったこともあって今では趣味と呼べるほどどっぷり。あ、チョロ松くんたちのプリクラを見てからはコスプレって言うのにも手を出してみようかなって思って」
「自分のことをつまらないって言うわりには、生き生きしてますよね」
自分の話に夢中になっていたら、チョロ松くんが僕を見ていた。その目は冷たくもなく、呆れてもいなくて、けれど疑問を呈するように、彼は僕自身をしっかりと捉えていた。僕は、やはり嬉しくて頬を緩ませてしまう。彼が嫌味に捉えようと今更関係なかった。
「言っただろう?僕は自分が嫌い“だった”って。最近は、少しずつ自分を好きになれてる気がしてるんだ。みょうじさんに出会って、彼女を知る内に僕はなぜか僕自身を許容出来てきた。きっとそれは、彼女が僕自身を見てくれて、僕自身を許容してくれたからだと思う」
チョロ松くんにも心当たりがあるのかもしれない。視線がなにかを思い出すように浮かんで、彼の頬がふっと綻んだ。みょうじさんは、本当にそういう人なのだ。
「僕は、みょうじさんに出会えて本当に良かった。例え隣に居られなくても、彼女は出会えたことを後悔させるような人じゃない。道端に咲く小さな花、と形容しても良いかもしれない。多くの人が気づかず通りすぎるけど、素朴で愛らしくて、そばに居て優しく包容してくれる。出会った相手を幸せにしてくれる。…だから、みょうじさんが他人を惹きつけるのは仕方ないことで、心配しすぎちゃ駄目だよ。花を愛でるのは人の性なんだから」
「……確かになまえは、枯れた紫陽花ですから」
「枯れた紫陽花?」
「こっちの話です」
枯れた紫陽花だなんて随分な表現だが、チョロ松くんの表情は暖かい。きっと枯れた紫陽花というのが彼らにとっての隠語なのだろう。これはしてやられた。
暖かい表情を浮かべるチョロ松くんを、僕は暖かい気持ちで眺める。普段の彼を知らないけれど、彼がこんなにも柔らかな感情を豊かに見せるのは、みょうじさんのことに関してだけなのかもしれない。
「やっぱやめようトド松っ!」
「なんでー?ボクのときはノリノリだったのに、不公平だよなまえちゃん」
「いや、だって、それは、その」
話のキリが良いときに、みょうじさんとトド松くんの二人が奥の部屋から戻って来たようだ。チョロ松くんが怪訝顏でリビングの扉を見ている。僕はなにが起こっているのかだいたい分かるので、そっとほくそ笑むだけだ。
「チョロ松くん」
「はい?」
「僕ら、やっぱり気が合うと思うよ」
「はあ?」
「きっと君は、僕を気に入るはずだってこと」
「なんですか、いきなり」
チョロ松くんと話していると、リビングの扉が開かれた。現れたのはピンクとペールブルーのヒラヒラふわふわした二人の少女。
「え、」
「うわ、ほらやっぱり!なんかすべってるって!」
「えー、なまえちゃんすっごく可愛いよ?」
「トド松は似合ってるけど…!」
「ふふ、みょうじさんとトド松くんなら着てくれると思ってたよ」
あの部屋、つまり僕の女装用の衣装部屋に用意しておいたのは色違いのエプロンドレス。童話のアリスを模した形で、スカートは大量のパニエでふんわりしているし、白と淡い色味の二色が少女らしい愛らしさを引き立てている。もちろんサイズは二人に合わせたものだ。僕が着るには小さすぎる。
今回の訪問に合わせて用意しておいたのだけど、うん、これは自分で自分を褒めていい出来だな。
「似合ってるよみょうじさん、本物のアリスみたい。トド松くんも、女装が板についてるんじゃないか?」
「まぁ、ボクはなに着ても似合っちゃうところあるからねぇ」
「梅竹さん、嵌めましたね…!」
「人聞きの悪い。僕はただ衣装を置いてただけで、着て欲しいなんて一言も言ってないよ?」
「くそーっ!」
「ね、ね、ね!なまえちゃん写真撮ろう写真!」
「断固拒否する」
「えー!なんのために着たのさー!」
「トド松がコレ着なきゃ今まで撮ってきた写真全部バラ撒くとか言うから仕方なく着たんでしょ?!」
「秘蔵の寝顔写真だけは大事に仕舞っておくから」
「全部燃やして!」
パシャッ
「えっ」
スマホを構えたチョロ松くんが、真剣な眼差しでみょうじさんが着ているペールブルーのエプロンドレスを眺めている。しっかりニーソも履かせ、カチューシャまで着けさせたトド松くんは出来る子だ。
パシャッ
「ちょっとチョロ松!?なに撮って」
パシャパシャパシャパシャパシャ
「連写!??!ちょっと貸しなさい!!」
みょうじさんをサッと躱したチョロ松くんは、どこから取り出したのかクッション付きの封筒を取り出して、それにスマホを入れて封をすると、なんと窓からそれを放り投げてしまった。あっと言う間の出来事で、一番近くに居たみょうじさんでさえなにが起こったか分かっていない様子だ。僕は慌てて窓の下を見た。相当距離があってよく見えないけれど、先程の封筒は歩道にも道路にも落ちていないようだ。ではどこへ行ったのか。ちょうどマンション前のポスト回収が行われているところだったらしく、回収に来ていた郵便局員が、なんだかポカンとこちらを見上げているのが見えた。その郵便局員が、徐に回収袋から先程チョロ松くんが投げたと思われる茶封筒を取り出し、それを振ってなにか叫んでいる。怒りながらも局員は行ってしまった。
「あー…、郵便局の人が持って行ったみたいだよ…?」
「ごめんなまえ、スマホ貸すの二日後でもいいかな?」
「なんなのその行動力!?」
ありのまま今起こったことを伝えれば、チョロ松くんはとても爽やかな笑顔でみょうじさんに向き直った。みょうじさんは膝から崩れ落ちている。僕も今のは人智を超えていたと思うよ。そのまま持って行ったってことは、宛名と切手が貼ってあったってことだろうから。
用意周到すぎるチョロ松くんが怖い。
「チョロ松兄さん、携帯壊れたらどうするの」
「携帯が死んでもデータは復元出来る。どうと言うこともない」
「さすがチョロ松兄さん…」
「さすがじゃないよ!このクズ兄弟!」
「あ、トド松、あとでなまえの写真は全部ぼくに渡せよ。データも消せ」
「うわ、言うんじゃなかった…」
「無視しないで!?私の話題なのに!!」
「それから、梅竹さん」
やんわりと関わらないよう遠巻きに彼らを眺めていたら、チョロ松くんのほうから僕のもとへと来てくれた。なんだろう、チョロ松くんの行動は予想出来なくて少しヒヤヒヤする。
「ムチャス・グラシアス…ッ!アミーゴ…!!」
「わっ」
「なんでスペイン語?」
突然手を握られて、堅い握手を交わしたチョロ松くんが、きらきらした眼差しで見上げてくる。僕も微笑んで、彼の手を握り返した。
「気に入ってくれると思ってたよ」
「アンタ、マジ神かよ…!」
「服はそのままあげるから、好きに使ってくれていいよ」
「エストゥペンド…!!」
「だからなんでスペイン語?」
みょうじさんのツッコミも聞こえていないのか、チョロ松くんはぐるりとみょうじさんに向きを変えると、今度はみょうじさんの両手を強く握り締めた。
「なまえ、超絶可愛い」
「…は、?」
「天使降臨かと思った」
「え、ちょ、え、」
「むしろもう女神?女神の領域だよね?なにそれ、マジモンの童話から出てきたの?もしかしてお前童話の世界に帰っちゃったりする?」
「あ、の、チョロ松さん?」
「帰られたりしたら困るなぁ、どうしたらお前、童話の世界に戻らないでくれるの?もう監禁していい?いいよね?そうするしかないもんね?大丈夫、ぼく働くし養うし、なんなら王子様にもなってあげるから、二人一緒にめでたしめでたしってことでいいよね?とりあえず脱がせていい?」
「誰かこの人止めて!!!」
「下着とカチューシャとニーソだけになって欲しいんだけど」
「黙れこの変態…ッ!!」
「はいはーいチョロ松兄さんストーップ。下着のくだりは大いに賛成だけど、とりあえずボクの前でイチャつくのやめてもらえる?」
「イチャついて見えたならお前の目は節穴だよ!!」
「チッ…まぁいいや、また着てもらえばいいんだし」
「絶対にもう着ないよ!!」
「まぁみんな落ち着いて、そろそろお茶にしないかな?」
豆から挽いて淹れたコーヒーを人数分と、それからブルーベリータルトも用意してローテーブルに並べた。その様はまるでアリスのお茶会のようだ。本物の彼らは紅茶だろうけどね。
「梅竹さん助けてくだ……考えてみればこの人が元凶だった…ッ!この世に神など居ない!!」
「みょうじさんも落ち着いて。タルトを焼いてみたんだ。口に合うと良いんだけど」
「え!これ梅竹さんが作ったんですか!?すごく美味しそう!」
「ねぇねぇチョロ松兄さん、ボクは?ボクは可愛い?」
「似合いすぎてて気持ち悪い」
賑やかなお茶会が始まった。
僕は彼らの友人になれたのだろうか。まぁ、それは追々分かれば良いことかな。
今は、この空気を楽しもう。
とある公認会計士の幸福な一日
このタルト美味しい…!!
餌付けはNG!!
(2016.11.04)