無かったことに
檜佐木くんと別れた翌日からすぐさま異変を感じ取った荻堂さんやら何やらに、檜佐木くんとどうなったのかをしつこく聞かれた。しつこかったけど、詳しく話す気にはなれなくて、私は黙秘を貫いた。しつこすぎて、泣きたくなった。
でも他の人たちはだいたい優しくて、1週間くらいはみんな私に気を使ってくれた。別れた原因は私にあるのに、黙っていたせいで振られたと勘違いしてくれたのだろう。檜佐木くんを悪者にしてしまったようで少し申し訳無い。
「風間さん、檜佐木副隊長と別れちゃってよかったの?」
やっと落ち着いてきたかなと思った頃に、荻堂くんが私の傷を抉ってきた。
「どういう意味かな」
「二人とも幸せそうだったから。もったいないなぁと思って」
「…私、幸せそうだった?」
「付き合ってた時期、仕事中いつもよりにこにこしてたけど?機嫌もいいから風間さんのおやつ勝手に食べても全然怒られなかったし」
「あれ荻堂くんが食べたんだ?時差で怒っていい?」
「まぁまぁ」
でも私がそんな、人が見て解るほど幸せそうだったなんて。檜佐木くんといて、楽しんでたってことだよね。今さら後悔するようなこと、教えて欲しくなかったな。
「檜佐木副隊長、あんなに風間さんにベタ惚れだったんだから、1週間やそこら経ったからって、気持ちがもう冷めたってことないと思うけどね。より戻すなら今のうちじゃない?」
「……そんなつもり、ないから。いいの」
「へぇ、てことは風間さんから振ったんだ?意外」
「うるさい」
私は手を引くと決めたんだ。惚れかけていた気持ちは、全部別れた日に涙と一緒に出し尽くしたはずだ。もう、檜佐木くんを想う気持ちなんか、私の中には残っていないはずだ。
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