空っぽの心



仕事が終わったら檜佐木くんに連絡しよう。そう思っていたのに、昼過ぎに檜佐木くんが救護詰所を訪ねてきた。

「どうしたの」
「答え、もう決まってるよな」
「……うん」
「後ろ向きな話だったら早く終わらせたいかもと思って、さっさと聞きにきた」

きっと檜佐木くんだって、別れ話だったらさっさと終わらせたいと思ったのだろう。ゆっくり話す場だったりしたら、気まずくてしょうがないだろうし。

「…すぐそこの病室が今空室だから、そこで話そ」
「あぁ」

檜佐木くんはもう解っているだろう。私が、このテンションでいることで、良い答えが聞けないということを。
空室に入れば檜佐木くんと二人きりになり、緊張する。

「…結論から言うね。私、檜佐木くんとは付き合えない」
「……そっか」
「ちゃんと、考えたんだけどね。…ごめんね、1週間も、期待させるようなことして。今別れたら周りに色々言われてめんどくさいかもしれないけど……ほんとに、ごめんね」

私じゃ、檜佐木くんを愛する自信がない。元々、私と檜佐木くんでは実力にも地位にも差があって、それなのに付き合うだなんて、他の女の子たちから反感を買うのは避けられないことだ。他の子よりも強く檜佐木くんを愛することが、できるとは思えない。私に檜佐木くんの恋人の肩書きは、荷が重い。

「謝るなよ。1週間、楽しかった。夢みたいだった。…まぁ、1週間の夢だった、ってとこだよな。ありがとな」
「…檜佐木くんは、優しいね」
「風間にだけだよ」
「…そっか、ありがと」

檜佐木くんの優しさも、心の広さも、強さも、ありがたくて、すごく苦しい。

「…昨日言ってた、友達になりたいってやつ、本音だったのか?」
「……でもこれから、友達感覚で檜佐木くんに会いに行ったら、辛くならない?」
「んー……ちょっとだけ、辛いかもな」
                      
無理して笑おうとする表情も、優しくて、胸が痛む。

「でしょ。だから……ここまで、かな」
「……そうだな。色々無理言って、ごめんな。本当にありがとう。…それじゃ、仕事、頑張ってな」
「うん。檜佐木くんも、頑張ってね」

お互いに作り笑いを浮かべて手を振って、私たちの1週間が終了した。檜佐木くんが部屋を出ていって、気が抜けて近くのベッドに座り込んだ。全て終わってすっきりしたはずなのに、心は全然晴れなかった。むしろ、モヤがかかったように気持ち悪かった。

「何これ……」

好きじゃないから別れた。ただそれだけのはずだった。それなのに、涙が溢れ出てきた。檜佐木くんを傷付けてしまって、申し訳無いからという気持ちはある。でもそれだけではなく、寂しくて、悲しくて、喪失感に包まれていた。もう少しだけでいいから、檜佐木くんと一緒に過ごしたかった。でも、誰よりも檜佐木くんを愛することができるという自信がなかった。檜佐木くんのように、相手を一生愛せる自信がなかった。私みたいな地位の低い死神が、檜佐木くんの隣に並んで歩く度胸も無かった。何もない私には、檜佐木くんのような人はもったいなかった。

「うっ……ひっく……」

自分に自信があったなら、他の子なんて気にしないでいられる強さがあったなら、私は一歩、檜佐木くんに踏み出せたのだろうか。
失ってから考えても、もう遅い。

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