絶望的な幸せの終わり
私たちはまた新しい家を手に入れて、絶望としての活動を行っていた。いつもと違うのは、日々左右田くんの視線が、熱くなっていくことだった。
「…左右田くん」
今日は珍しく大雨が降っていて、雷まで鳴っていた。雨なんか降られたら私の絵が流れ落ちちゃうんじゃないかと不安だった。適当に集めた血じゃなくて、ちゃんとペンキ探すべきだった。
雷のせいで停電して暗くなったリビングのソファで、私はなぜか左右田くんに押し倒されていた。
「ちょっと骨格確かめたいだけだからよ…許してくれ」
「意味わかんない…」
左右田くんは私が逃げないように馬乗りになりながら、まずは私の手を握り、指先から手の甲まで骨をなぞってきた。
「骨格フェチなんてあるんだ…」
「うっせ。…綺麗な手してるよな。この手で人を殺してるだなんて思えねーよ」
うっとりした表情で、私の指先や手に口付けをする左右田くん。いつも思うけど、左右田くんは暗いところでは積極的だった。すぐに私に近寄ってくるし、触ってくる。
「ねぇ、もしかして…暗いとこ怖い?」
聞いてみれば、左右田くんは一瞬だけ固まった。
「んなわけねーだろ」
「嘘。明るいとこだとくっついてこないくせに」
薄暗いなかでも、左右田くんが不機嫌そうな顔をしたのがわかった。あんまりいじめると可哀想かな。
「暗いと、見てない内にお前がどこかに行きそうで嫌なんだよ」
つつ、と鎖骨をなぞられてぞくっとした。ほらね、左右田くんやっぱり怖いんだ。私が居なくなることが、怖いんだ。
「そんな顔されると、突然消えちゃいたくなるよ」
「…意地悪だよな」
鎖骨から肩、腕の骨をなぞったあと、流れるように胸を触ってきた。
「そこ骨無いけど」
「いいだろ、ついでだし」
「最低」
服の下に手が入り、肋骨やら何やらの骨を何度もなぞられくすぐったい。本当に、女子の体の柔らかさよりも骨ばかり触ってくるあたり、ある意味左右田くんは変態だ。
「…興奮してきた」
骨盤をなでながらそう言われ、複雑な気持ちになる。胸とかより骨が好きなんて。
「なぁ、背中も」
「…変態」
ソファと背中の間に左右田くんの腕が入ってきて、左右田くんの顔は私の胸に埋もれた。肩甲骨とか背骨とか、人に触られないところばかり触られてぞくぞくする。しばらく耐えていたら、体の締め付けが緩む感覚がした。
「あ、ばか」
ホックを外され意味をなさなくなったブラと体の隙間に手が滑り込み、直で胸を触られた。左右田くんの息は段々と荒くなっていた。
「ねぇ、そんなとこ良いって言ってないけど」
「良いだろ?」
「良くないって、」
「良さそうな顔してっけど」
ぎらっとした目を向けられて、何も言えなくなる。黙ってしまったその唇を優しく塞がれて、両胸を好き放題触られた。太ももに、左右田くんの固くなったものがあたっていた。
「そ、うだくん」
「そろそろ、我慢の限界かも」
雰囲気とは怖いもので、私だって、もっと強い刺激を欲していた。人を殺すこととは違う、別の刺激を。
「…脱がすぞ」
ええどうぞ。うなづいたところで、扉の開くような異質な音がした。私も左右田くんも固まって、一気に顔が引き締まる。
「…服、ちゃんと着とけ」
左右田くんは体を起こして、机の上に置いていた改造済みの電動釘打ち機を手に取った。私も急いで服を直して、斧を握った。
「敵だったら、お前だけでも逃げろ」
嫌だよそんなの。そう伝える隙も無く、リビングの扉も乱雑に開かれた。スーツを着た人間が見えた瞬間に左右田くんはそいつを釘で撃ち殺していた。
「走れ!絶対捕まんなよ!!」
久々の戦闘に、頭も体も追い付かない。返事もできないまま、裏口から裸足のまま飛び出した。左右田くんに貰ったリモコンで家に大型のビーストモノクマを呼んでみたけど、銃声が何発も聞こえてきて泣きそうになった。もう何も、間に合わないかもしれない。
外は雨と雷でうるさくて、どっちに敵が居るのかもわからない。雨は私の壁の絵を洗い流し、地面を真っ赤に染めていた。
「左右田くん…」
一人じゃどこへも行けないよ。もう左右田くんに会えないかもしれないと思うと心細くて、悲しくて、寂しくて、視界がにじんだ。それが雨のせいなのか涙のせいなのかもわからない。
ずっと一緒に居たせいでわからなかったけど、私には左右田くんが必要だったんだ。こんなにも悲しくて、胸が苦しくなるくらいなら、好きだと伝えておくべきだった。好きな人に好きだと言えなくなることが辛いなんて、もう知っていたはずだったのに。
「止まれ!超高校級の画家、天野雅だな!?」
闇雲に走っていたら、大勢の武装した男たちが現れた。勢力の差に、戦意を失ってしまった。
「だったら何?殺すの?」
「私たちは未来機関の人間だ!お前ら絶望の残党の身柄を確保しにきた!大人しく来てもらおうか!」
未来機関とか知らないし。確保って何?他の絶望の皆が大人しく捕まるわけないし、私が行く意味無いでしょ。でも、ここから逃げられるとも思えない。
「確保されて一生豚箱で生きるなんて、絶望的かも」
こんな絶望的な状況、味わわないともったいない。逃がしてくれた左右田くんには悪いけど、私は斧を捨てた。私はまた、大事な人と会えない絶望を噛み締めたい。
「さぁ、絶望のどん底に連れて行って」
さようなら、私の幸せ。
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