絶望を求めて
左右田くんにキス攻めをされている最中、私のお腹が鳴ったせいでムードが壊れて中断して、二人で冷めかけたご飯を食べた。左右田くんはいつもより晴れやかな顔をしていた。
その夜は、左右田くんと同じベッドに入った。今までだって同じ部屋で寝たことはあったけど、それはベッドが二つある時だけだった。でもその時だけは、左右田くんを少しだけ受け入れてみたくなった。
別にえっちなことをする訳では無いけれど、横に並んで、呼吸を聞いて、左右田くんが生きているということを噛み締めながら眠りについた。
「天野…起きてるか?」
眠りについはずなのに、左右田くんの声のせいで目が覚めた。
「…起きてくれよ」
「何…」
左右田くんは私に抱き付いて胸元にすり寄ってきた。夜中で真っ暗だったけど、間近で見る左右田くんの髪は根本が黒くなってきていた。
「俺、怖ぇんだ」
「…何が?一人でトイレに行くのが?ついていこうか?」
「天野といて、絶望的じゃなくなることが」
弱々しい声は、とても聞いていられなかった。その調子で喋られたら、私まで弱気になってしまう。
「最初は、一緒に行動するのがソニアさんじゃなかったことに、ちゃんと絶望してた。けど、ソニアさんへの気持ち、どんどん忘れて、絶望がわかんなくなってた。でも代わりに、次に気になるようになった女が彼氏持ちだったから、まだ絶望できた。でも、その彼氏も死んで、その彼氏への想いも忘れて、今この状況って。全然、絶望的じゃねぇよ…」
わかるよ、私だって、好きだかどうかなんてわかんないけど、仲良しの男子とこの状況でいて嫌じゃないなんて、絶望感が薄すぎる。
「もし、衝動的に絶望味わいたくなったら、天野にひでぇことするかもしれねぇ。それが…今、すげぇ、嫌だ」
左右田くんは、出会ったときから優しかった。そのせいなのか、超高校級の絶望になった今も、優しさが残ってしまっている。
「…そしたら、殺せばいいんじゃない。私を殺せば、左右田くんすごく絶望味わえるよね。それに私も、心を許してきてる左右田くんに今殺されたら、とっても絶望的に死ねるよ」
「お前のこと殺すくらいなら、お前の目の前で自殺してやる…」
「やだよ…そんなことされたら絶望しちゃう」
「…俺ごときで絶望してくれんのか?」
「するでしょ…左右田くん居なくなったら私どうすればいいの?困っちゃう」
だけど、これ以上二人で過ごすのも、危険を感じる。オシオキマシーンを作ってる間、盾子ちゃんから雑談として聞いたけど、大好きな双子の妹を、大好きだからこそ自分が絶望するために何度も殺そうとしていたらしい。もしそれが本当なら、私はいつか、左右田くんを殺してしまうかもしれない。大和田くんを間接的に殺せる機械を作って喜んだあの時のように。
「どうせ殺すなら…もっと私が左右田くんのこと大好きになってから殺さなきゃ、もったいないよ」
「は?」
「大和田くんのこと、本当に愛してたから、死んじゃって本当に絶望的だったの。私、どうせ味わうなら、それよりもっと極上の絶望が欲しい。そのためにはさ、大和田くん以上に左右田くんのことを好きだと思った時に殺さないと、絶望度合いに満足できないと思うの」
もし左右田くんのことをそれほど好きにならなかったら、それはそれで残念で絶望的だし、だけど左右田くんを殺さずにすむ。これまで通り、一緒に絶望布教活動を続けるだけだ。
「…もし殺してくれるなら、天野の手で殺してくれよ」
「んー…そう言われると、嫌がらせで他の人に殺させちゃうかも」
「ひでぇやつ」
「だってその方が、私も左右田くんも、より一層絶望味わえるでしょ」
私たちは絶望のために生きているんだから。最高の絶望を味わうために生きないともったいない。
「怖ぇ女」
「それに勝手に惚れたの左右田くんじゃん」
「これだけ一緒に居りゃ惚れるだろ」
左右田くんはもぞもぞと動いて私の唇を奪った。今日だけで何度したことやら。それでも拒絶する気は全く起きてこない。
「これからも死ぬまで一緒に居るだろうからよろしくね」
「プロポーズか?」
「私ら死んだことになってるんだから籍なんか入れられないよ」
「はーまじか、残念すぎだろ」
結婚したいほど私のことが好きなのか。こんな私に惚れるなんて、本当に残念な男だ。
「もう、普通の幸せ味わえないなんて…本当に、絶望的だね…」
普通に結婚して普通に子供を産んで普通に幸せな家庭を作ることができないなんて、絶望的。なんて、まだ絶望を見つけることができて、よかった。
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