日常


「冬獅郎くーん!ただいまー!」

ノックをすることもなく、走ってきたそのままの勢いで扉を開けて執務室に駆け込んだ。
中にいた冬獅郎君は当たり前だが驚いていて、目を丸くさせていた。

「ノックくらいしろ!あと冬獅郎君じゃなくて日番谷隊長だ」
「うわ、うっざ……おかえりくらい言ってくれてもいいのに。これ報告書ね」
「あーおかえり、ご苦労だったな」

冬獅郎君のいる机に報告書を叩き捨てるように置いてやる。
同期のくせに勝手に隊長まで登り詰めやがって、早すぎっしょ。

「その怪我大丈夫か?」
「うん、慣れてるし。今回久々だったからめっちゃ頑張ったよ。特訓の成果ってやつ?私めっちゃ役に立ったからね?」
「…悪いな、いつも怪我させるような任務ばっか行かせて」
「え?いや、いいよ、実戦が一番の特訓だもん。実際に私、強くなったし!」
「腕折れてるけどな」
「うるさーい」

今回の任務では、調子に乗って頑張りすぎたせいで腕を折られたし、擦り傷や打撲傷も大量にあった。
眼帯を強いられるような怪我も負ったが、仲間を助けることができたからこんな怪我くらいどうってことはない。

「じゃ、私も忙しいんで行きますね」
「どこ行くんだ?」
「ん、気になるの?日番谷隊長ってば私の行き先知りたいの?」
「殴られたいのか……」
「日番谷隊長に殴られたら痛そうだから勘弁してほしいなー。四番隊行って治療の続きしてもらうだけですよー」
「途中だったのか?」
「まぁ、見ての通りね。とりあえず報告書渡したかったし、それに、冬獅郎君におかえりって言って欲しかったから…」

日番谷隊長なんかではなく、ただの冬獅郎君に、ただいまと言っておかえりと言ってもらうのが目的だった。
仕事終わりに冬獅郎君の仏頂面を拝んで、なんやかんやでその顔を緩ませるまでが私の仕事だ。
今だって、一瞬驚いて眉間の皺が無くなった。その隙だらけの表情が大好きだ。

「……今回も、香月が無事に帰ってきてくれて安心した」
「そういうの、私が帰ってきてすぐに言って欲しいんだけど」
「うっせ。解ったら早く治療受けてこい」
「はいはーい、冬獅郎君が私の心配しまくってくれてるってことはよく解りましたー」

照れ臭そうにする冬獅郎君を見れたところで、執務室から退散した。
本当はもっと冬獅郎君をからかって照れさせて、したいことはいっぱいある。でも冬獅郎君は隊長で、私はただの十番隊員であり席官ですらない。同期だったとはいえ、この気持ちを冬獅郎君にぶつけることは恐れ多いのだ。
私の気持ちなんかのせいで、冬獅郎君の業務に支障が出たら申し訳無い。私が冬獅郎君を好きで、仮に冬獅郎君も同じ気持ちだったとしたら、私はきっと今まで通りの業務なんて手につかなくなってしまう。
だから私はこの想いを伝えるつもりは無いし、冬獅郎君の気持ちを確かめるつもりもない。私はただ、同じ隊に居られて、一緒に仕事をできるだけで充分なのだから。

「席官にもなれないし、もう全部諦めた方がいいのかな……」

冬獅郎君は女性人気も高い実力者だ。私の手の届くような相手ではない。
そんな事実は受け止めたくないのだが、現状を変えられないでいる私には、どうしようもないことだった。

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