さよなら


「ははは、はな、話って、何ですか!?」

任務での怪我が完治し通常通りの業務ができるようになった頃、私は冬獅郎君に呼び出された。
二人きりの隊首室には、真っ赤な夕陽が差し込んでいた。
冬獅郎君もいつもより真剣な顔をしていて、私を期待させるには充分だった。

「良い報せと悪い報せがあるんだが……どっちから聞きたい?」
「えっ……じ、じゃあ、良い報せから」

話の切り出し方からして、なんとなく私の期待していた内容ではない気がして、激しかった鼓動は治まってしまった。

「今までの活躍を考慮して、席官に昇格することになった」
「……誰が?」
「香月が、に決まってんだろ。おめでとう」
「は、はい!?ほんとに!?ななな、何席なの?」
「六席だ」
「すっご……!上から数えて六番目に偉い人!?私がそんなとこに配置されてよかったの!?っていうか、あれ?……六席って」

喜んではみたものの、たしか私の記憶が正しければ十番隊の六席は既にいたような気がする。
じゃあ私の昇格ってのはいったいどういうことなんだ。
首を傾げていたら、冬獅郎君が言いにくそうに口を開いた。

「そこで悪い報せの方なんだが……、昇格はするものの、十番隊ではなくなるってことだ」
「……え?」
「隊首会で出た結果だ。藍染隊長が直々に、香月を五番隊に率いれたいと仰った。香月の力を延ばす近道にもなるだろうし、そうそう無い機会だと思うが」
「…そう、ですか。ありがとうございます、ありがたく異動させていただきます」

まさか藍染隊長に目を付けて貰えるだなんて。しかも一気に六席にまでさせて頂けるなんて。
よだれが出そうなくらい嬉しいのに、冬獅郎君と離れるということが嫌だった。

「でも、これで、一歩冬獅郎君に近付けたってことだよね?私は喜んでいいんだよね?」
「…あぁ」
「私、頑張るよ。もっともっと強くなって、どんどん昇格して、いつかどこかの隊長が不在になったときは、私が隊長になってやるくらい頑張る」
「隊長が居なくなるような事態は起こらない方が幸せだけどな」
「そんなことはいーの!とにかく、きっといつか天才日番谷隊長と並ぶくらいにはなるんだから!」

強がってみるけど、本当は十番隊にいたかった。席官ですらないゴミ隊員でも、冬獅郎君の傍に居たかった。

「応援してる」
「……ありがと」
「向こうの宿舎にお前の部屋も用意するみたいだから、荷物纏めておけよ」
「はーい」

本当は藍染隊長のお誘いだって断りたいけど、冬獅郎君と居たいからなんて理由で断ってしまったら、藍染隊長も冬獅郎君も呆れてしまうかもしれない。
今後の昇格なんかにも影響が出るかもしれない。
世渡り上手になるためにも、私は異動するしかない。

「今日はもう準備のせいで時間無いけど、また今度私のために送別会でも開いて欲しいなー」
「んなもんやらなくていいだろ」
「えー」
「隊が変わるだけなんだから、いつでも会いにくりゃいいだろうが」

そっか、私まだ冬獅郎君に会いに行ってもいいんだ。仕事の関係じゃなく、同期の友達として。うん……友達として……。

「ありがと!本当にまた来るからね!邪険にしないでね!」
「するわけねぇだろ」

あんまり冬獅郎君と一緒に居たら、名残惜しくなって異動なんかしたくないとか言い出しそうだから、早めに隊首室を出るべく腰を上げた。

「あ、そうそう……。可愛い部下の昇格なんて上司としては喜ぶべきなのに、私が五番隊に行くことを“悪い報せ”なんて言ったのは……冬獅郎君個人としての感想なのかな」
「……うるせぇ、早く行け」
「本当は、私にまだ十番隊に居て欲しかったとか?」
「……あぁ、そうだ。だけど、俺のわがままで香月の未来を潰したくないからこれはもう決定事項だ。お前が拒否しても五番隊には行ってもらうつもりだ」

冬獅郎君も私と同じ気持ちだったと解って嬉しくなる。私の未来を考えていてくれたと知って嬉しくなる。

「冬獅郎君の気持ち無駄にしたくないから、ちゃんと行くよ。私がいなくなって泣いたりしないでよね」
「泣くのはお前の方じゃねぇのか」
「私が泣くわけないじゃん。今までだって見たことないでしょ」
「だから心配なんだよ。……泣きたくなったら、頼れよ」
「……ありがと」

珍しく冬獅郎君が優しくて、そのせいで泣きそうになってしまう。
でも人前で泣くなんて恥ずかしすぎて耐えられないから、グッと堪えた。

「もう行くね」
「…おう」
「異動しても、落ち着いたらまた来るから。それじゃ…ばいばい」

離れてしまう前に気持ちを伝えなくていいのか、考える前に隊首室を出た。
きっとこれでよかったはずだ。告白なんかしたところで、悩み事が増えて大変になるだけだ。
今は異動のことだけ考えて、色恋沙汰で悩むのはやめよう。きっといつか、なるようになるんだから。

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