戦う理由は


地下に入れば花太郎くんの霊圧を感じとることができて安心した。けどすぐ傍に知らない霊圧もいくつかあり、身構えた。旅禍だったら、殺すだけだ。
地下だから音が響くのか、知らない声が聞こえてくる。花太郎くんのこと人質にしておいて悠長に喋りやがって。
私の存在に気付かれるのも時間の問題だと思い、声のする方へと一気に走った。角を曲がれば花太郎くんの他に男二人。弱そうなのと、強そうなの。

「死ね!!!」

刀を抜いて殺意むき出しで飛び掛かれば、オレンジ頭の旅禍が刀を構える。だけど、私とそいつの間に花太郎くんが入ってきて、旅禍を庇うように両手を広げて立ち塞がった。勢いが付いていたせいで止まれなくて、このままだと花太郎くんを斬ってしまうと思った。殺してしまったら私も死のうと覚悟したのだけれど、旅禍が花太郎くんより前に刀を出して、私の刀を止めてくれた。
しかし、花太郎くんが旅禍を庇うことも、旅禍が花太郎くんを庇ったことも理解できなくて、つい後ずさった。

「何なの…どういうつもり……」
「は、話を、聞いてください。この人たち、全然悪い人なんかじゃないんです!」

花太郎くんは声を震わせながら訴えてきた。
怖がらせてごめん。だからそんな、怯えた顔をしないで。

「…わかった」

花太郎くんを殺してしまいそうになった罪悪感から、刀を地面に置いた。この隙に旅禍に殺されたら、もうそれを受け入れようと思った。

「あの、実は、」


旅禍が瀞霊廷へ来た理由。花太郎くんが人質にとられた理由。今までに誰と戦ってきたのかなど、花太郎くんが全て話してくれた。極囚の朽木ルキアという人の話をする花太郎くんが、ちょっとだけ恨めしかった。

「待って……それじゃあ、昨日から一晩中ここにいたの?」
「そうです」
「…そっか。じゃあやっぱり、旅禍が藍染隊長殺ったわけじゃないんだ……」

だったら私のこの負の感情はどこへぶつければいい。仇をとることすらできないのか。

「藍染隊長が、どうかしたんですか?」
「…さっき、死体で見つかった。誰かに殺されて…」
「そんな…」

やはりさっきの、市丸隊長が怪しいのだろうか。雛森副隊長のことだから、明確な証拠があって疑ったわけではないだろう。でも、疑うような出来事が、あったのだろうか。
散々疑われて傷ついたこの私が、根拠もなく他人を疑うようになってしまうなんて。

「旅禍で、あなたの仲間で、隊長を殺せるような奴はいる?」
「…俺らの目的はさっき花太郎が言った通り、ルキアの救出だ。そのために他の誰かを殺すようなこと、誰もしねぇよ」
「…そっか」

さっき花太郎くんを救ってくれた通り、こいつらは無闇な殺生は避けたいのかもしれない。
そうなると、混乱に乗じて死神の誰かが藍染隊長を殺したとしか考えられない。

「ねぇ、私もあなたと一緒に行動してもいい?」
「は?なんで急にそんなこと、」
「藍染隊長を殺した奴が死神なら、旅禍のあなたたちを殺して濡れ衣を着せてもおかしくないでしょ?そうなったら真犯人が解らなくなるから、あなたたちに死なれたら困るの。それに……藍染隊長がいない瀞霊廷を旅禍から護ったって、何も残らないもの」

どうせ戦うなら、藍染隊長を殺した奴がいる瀞霊廷側を敵に回してやりたい。私じゃそこまで戦力にならないかもしれないし、藍染隊長を殺せるような奴を私が殺せるとも思えないけど、真犯人くらい、見つけ出したい。

「時間とってごめん。行こうか。足手まといにはならないようにするから…」
「わかった」
「道、こっちです」

置いていた刀を鞘に収めて、目的の方へと駆け出した。私もうろ覚えだけど道が解るから花太郎くんの横を並走した。

「あの、花太郎くん」
「はい?」

後ろをついてくる旅禍二人に聞かれないか不安だったけど、やっと花太郎くんに会えて話ができるんだ。しないわけにはいかない。

「城宮に、ひどいことされなかった?」
「……されては、いないです」
「本当に?あいつ、花太郎くんに、その…手出したって、わざわざ報告してきたんだけど」
「…されそうになっただけで、大丈夫です。ほっぺにちゅーはされました、けど、……それだけです。ちょうど人が来て、助かりました」

やっぱりあいつ、嘘ついてたんだ。よかった。あんなゴミみたいな奴に手出されたりなんかしたら、トラウマになるところだっただろう。

「…しばらく、無視してごめんなさい。ほんとは、無視なんかしたくなかったんですけど…」
「いいよ、どうせあいつに何か言われてたんでしょ」
「喋ったら、芽衣さんにすごくひどいことするって、脅されて…」

横目で見てみれば、花太郎くんの瞳に涙が浮かんでいた。花太郎くんは何も悪くなんかないのに。あいつのせいで流れる涙なんか、あっていいわけがないのに。

「昨日も……あの人に、ひどいこと言われてましたよね。僕達近くにいて、偶然見かけて…。助けられなくて、ご免なさい」
「…気にしないで。もう、大丈夫だから」
「でもっ、あの……僕、無視はしちゃったけど、いつだって、芽衣さんの味方ですから…。この状況が落ち着いたら、きっと僕が、芽衣さんのことを助けてみせますから」

私のために泣いてくれる花太郎くんに、心が締め付けられた。花太郎くんがこんなにも私のために頑張ってくれるんだから、私だって花太郎くんのために頑張らないと。きっと、必ず、朽木ルキアを救出してみせる。
花太郎くんが私より先に他の女の子を助けようとしていると思うと苦しくも感じたけど、助け出せば花太郎くんのためになるんだ。今まで花太郎くんに助けて貰った分、返さなきゃ。

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