私のヒーロー
「なぁ大神…今日一緒に帰らねぇ?」
休憩時間に、周りの皆に聞こえないくらいの声量でぼそっと誘われた。聞き間違いかとも思ったけど、切島くんは不安そうに私を見つめていて、私はすぐにうなづいた。
「…切島くん何かあったの?」
帰り道、他愛もない話をしていたのだが、学校の敷地から出たところで、周りに雄英の生徒が少なくなってきたから聞いてみた。いつも元気なのに、私を見る目だけが不安そうで、悲しげで、その表情を見せられるだけで私まで不安になる。もしかしたら私が、私のせいで切島くんにそんな表情をさせているのかと思うと、胸が苦しかった。
「何かっていうか、その…大神こそ、何かあったか?休んでたし体調万全じゃねーのは解ってるけど、それにしても元気ねーし、すげぇ心配で」
思い違いでも何でもなく、本当に私が切島くんの元気を消してしまっていたなんて。
「…切島くんが、あんまり構ってくれなくなったから」
「……は!?」
言うなら二人きりのこのタイミングしか無いと思い、素直に話した。意外とでも言いたいのか、切島くんはめちゃくちゃ驚いた。
「だ、だから俺じゃなく爆豪頼ったのか!?」
「へ?」
「今朝、なんか爆豪にお礼言ってたろ?詳しい話聞こえなかったけど、そうなんかなって…」
「ちが、私別に爆豪くんのこと頼ってなんか、」
頼ったわけじゃなく、助けてくれたんだ。なんて、あの時のことを切島くんに話すのか。せっかく先生が体調不良だと誤魔化してくれたのに、あんな嫌な思いしたことを、切島くんに知られるなんて。深く考えずに教室で爆豪くんに話しかけたりしたからいけなかった。
「…何にせよ、ごめん。俺が悪かった。なんか急に、大神との接し方解んなくなっちまったから…」
「えっ」
「や、嫌いになったとかじゃねーぞ!なんつーか、その…この前の、戦闘訓練とき、変なとこ触っちまったし、怒ってねーか不安だったのに、何て謝っていいのか解んないままにしちまって…嫌われたんじゃねーかと思ってビクビクしちまって」
切島くん、そんなこと気にしてたんだ。たしかに言われてみれば、切島くんが変になったの、あの日以来な気がする。
「私、怒ってないよ。切島くんのことも、あのくらいで嫌いになったりしない」
「ほ、ほんとか?」
「うん。それに、爆豪くんにお礼言ってたの…この前、休んだ日、助けられたから。あの日私、電車で痴漢にあっちゃって…」
切島くんが素直に話してくれたから、私も知られたくなかったけど素直に話した。
「でも、爆豪くんが助けてくれたから大丈夫だったし…。まぁでも、今日元気無かったのは、ほとんどそれのせい。今日も電車乗るのすごい嫌で、今から乗らなきゃいけないのも、すごく嫌で…」
「…話してくれて、ありがとな。そんで、ごめん、そんなこと話させて」
素直に話したのに、 切島くんはまた眉尻を下げて不安そうな顔をする。そんな顔させたいわけじゃない。どうしたら私は、切島くんを笑顔にできるの。
「俺で良ければ、大神のこと守れるように一緒に帰るし、朝も時間合わせる。一緒に居れば、何かあっても絶対すぐ助けるし」
「え、でもそんな、電車乗るのなんか毎日のことだよ?さすがに申し訳無いし…」
「俺は大神の力になりたい。電車辛いなら辛くないようにしたいし、元気無いなら元気にしてやりたいし、困ってんなら、助けたい」
そう告げる切島くんはかっこよくて、漢らしかった。できることなら頼りたい。でも迷惑はかけたくない。でも、切島くんが居てくれれば、何も怖くない気がする。
「ほんとに、いいの?」
「もちろん!」
「私、毎日電車乗るよ?毎日、切島くん頼っちゃうよ?」
「気にすんな!」
私を安心させるように、切島くんは笑顔を見せてくれる。嬉しいはずなのに、なんだか悔しい。私は自力で切島くんを笑顔にしたいのに、切島くんが見せてくれるのは、私を気遣うヒーローの笑顔だ。嬉しいとか、楽しいとか、そういう笑顔にさせたいのに。
「…ありがとう。嬉しい」
「何かあったらすぐ言えよ?黙ってんのは無しだからな」
「…切島くんもね」
「お、おう…そうだな、俺が黙ってたせいで大神へこんでたんだもんな」
いつか絶対、切島くんを喜ばせて笑顔にしてみせる。
「また、切島くんと、いつもみたいに話したい」
「おっ、う、ほんとに、ごめん。俺、もう普通にするから」
「…ん」
私は隣を歩く切島くんに右手を差し出した。はじめましての時も、前の仲直りのときも、こうやって握手してきたんだ。だから今回も、私は切島くんの心を読まないし、切島くんは私が勝手に心を読まないと信じているのだと、そのことを示したかった。
「な、なんだよ?…こうか?」
握手したかっただけなのに、切島くんは私の右手に自分の左手を重ねて握ってきた。私は別に、そんな風に手を繋ぎたかったわけじゃない。
「あ、握手!しようかと!」
「握手!?な、ならそう言えって!」
切島くんは顔を赤らめて手を離し、右手で握手をし直して、恥ずかしさを消し飛ばすかのように握手している手を上下に振った。
私まで恥ずかしくなってしまったけど、切島くんが私に触れてくれたことが嬉しかった。この前は指先が触れただけでびっくりして離されたというのに。
「あーくそ、俺だけアホみてぇじゃねーか…」
人と触れあうことがあんなにも苦手だったのに、切島くんと会ってからそんなこと無くなってしまった。峰田くんみたいな人だとか痴漢に触られるのは死ぬほど嫌な気持ちになるのに、切島くんは特別だった。切島くんに事故で胸を触られたのはびっくりしたけど、あれだって、恥ずかしかったけど、嫌ではなかった。
「…切島くん」
「あ?」
「私、切島くんと居ると元気出る」
「そっ、そうか!」
こんなに切島くんだけ特別に感じるのは、やはり女の子たちが言うように、恋してるから、なのかな。
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