自信喪失
あの日結局学校を休んで、翌日も家を出たのだが、電車に乗るのが怖くてそのまま家に引き返し、学校をさぼってしまった。二日間も学校を休み、授業に遅れないか心配だったが、それよりも、他人が怖くて仕方がなくなってしまっていた。
元々、人の心が読めるせいで人と触れあわずに生きてきた。触れたところで、うわっ触っちまった個性使われたかな、とかそんなことを思われるばかりだった。だから人の心を読むことも、人と触れあうことも嫌いだった。
高校に入ってからすごい個性の人たちがたくさんいて、私の個性も認められることが多く、人との触れ合いが嫌じゃなくなっていた。
そんなところで痴漢にあって、うっかり心を読んでしまった。反撃できない私の弱さにつけこんで、卑猥なことを考える男の思考など、知りたくなかった。あのままもっと触られていたらどこまでされていたのかと思うと、怖くてたまらなかった。本当に、気持ち悪かった。
「おはようございます大神さん。体調の方はもう大丈夫ですの?」
いつもより早い時間の空いている電車に乗って登校すれば、真面目な八百万さんや飯田くんしか教室に居なかった。
どうやら私が二日間休んだ理由は体調不良ということになっているらしい。先生ありがとう。
「大丈夫、ありがとう」
「無理はなさらないでくださいね。良ければ二日分のノート、お見せ致しますわ」
「えっ、いいの?ありがとう、助かるよ」
「クラスメイトが困っていたら助けるのは当然ですわ」
にっこりと笑う八百万さんは綺麗で、優しさが身に染みた。爆豪くんもこのくらいのこと言えれば、素直に優しい人だと思えるのに。
「ありがとう。授業始まるまでに返すね」
「ええ」
八百万さんにこれ以上の迷惑をかけないためにも、すぐに作業に取りかかった。嫌な記憶は頭を巡るけど、そのたびにぶんぶんと頭を振って雑念を吹き飛ばして集中した。
「おはよ、大神。大丈夫だったか?」
手を止めて声のした方に顔を向ければ、心配そうな切島くんと目があった。久しぶりに会えた嬉しさはあるのに、わだかまりが溶けていないせいで苦しかった。
「おはよう。もう平気」
「そうか?まだ元気無さそうだし、何かあったら無理せず言えよ?」
「…うん、ありがとう」
ここでさっきの八百万さんみたいに綺麗ににっこりと笑えたら、どんなに良いだろう。せっかく切島くんに笑顔褒めてもらえたのに、うまく笑えない。
「…なぁ大神、」
困って目をそらしていたら、爆豪くんが教室に入ってきて目があった。「あ」と声を漏らしてしまい、切島くんの話に集中できていなかったことがバレてしまう。
「どした?」
「…ごめん、ちょっと、」
目があったにも関わらず無視するのもどうかと思い、申し訳ないけど切島くんとの会話を無理やり切り上げた。そして、もう席につくところの爆豪くんの元へと近寄った。
「爆豪くん、」
「あ?」
「この前、ありがとう。私お礼言ってなかった」
「…どうでもいいわ」
爆豪くんがどうでもいいとか思っていたって、私にとっては重要なことだ。
「ほんとに、ありがとう。爆豪くんのことだから困ることとか無いと思うけど…何かあったら、私も力になるから、言ってね」
「テメェの助けなんざ無くても生きていけるわ。つーかせめてそのクマ治してから出直してこいブス」
「ブッ……」
お礼を言っただけなのにブス呼ばわりされるなんて思わなかった。別に自分のこと可愛いとは思ってないけど、ブスだとも思っていなかった。ショックだった。
「つ、次言ったら本心読むからね…」
「はぁ?調子乗んな、心からブスだと思っとるわボケ」
「うっ」
爆豪くんに言い返せない緑谷くんの気持ちを理解できた。女子にすらこんな態度で来るとは。
「喧しいから帰れ」
「…はい」
私はクラスの中でも大人しい方のはずなのに喧しいだなんて。爆豪くんの暴言なんか気にするだけへこむだけだと思い、私は大人しく自分の席へと戻った。
切島くんは席で上鳴くんと喋っていたけど、視線だけは私に向いていて、視線が交わった。それもすぐにそらされてしまったし、もやもやしながら席について、ノートをうつす作業に戻った。
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