君に届け
大好きな切島くんと付き合うようになってから、一つだけ引っ掛かることがあった。それを聞くたびに胸がざわっとして、少しだけ落ち込む。前と同じで、嫉妬してるだけなんだけど、クラスメイトに嫉妬してる自分が、嫌だった。
「…切島くん、あの、ちょっとだけ、気になることがあるんだけど、言っていい?」
放課後二人きりの帰り道で、切り出した。私のテンションの低さのせいか、切島くんは「どうした?」と心配そうに聞いてくれた。
「あの、ね、切島くんさ…その、梅雨ちゃんのこと、梅雨ちゃんって呼ぶでしょ?…それは別に、構わないんだけど、梅雨ちゃんが梅雨ちゃんなら、私のことだって、その、名前で、呼んで欲しいなって…思ったんだけど…」
自分だって切島くんのこと切島くんって呼んでるくせに図々しい。でも、私より他の女の子と親しげに呼び合うんだったら、私だってそうしてほしい。
「心音」
呼ばれたことに反応して顔を向ければ、少し恥ずかしそうな切島くんと目が合った。
「なんか、照れ臭いな」
「あ、ありがとう!嬉しい!」
「おっ、おう!そんな喜んでくれるならいくらでも心音って呼ぶって」
切島くんはにこにこしながら私の頭を撫でてくれる。もやもやしてること、ちゃんと言って良かった。
「私も…鋭児郎くんって、呼んでいい?」
「いい!」
「え…鋭児郎くん」
「おう!うわ、なんかすげぇ新鮮!」
下の名前で呼び合うなんて、ほんとのほんとに恋人らしくてむずむずする。みんな切島くん…鋭児郎くんのこと名字で呼んでるから、今のところ、私が知る限りは私だけの特別な呼び方だ。
「…なぁ、俺も一ついいか?」
「ん?なに?」
「…手、繋ぎたいんですけど」
鋭児郎くんは顔を真っ赤にさせてそんなことを言ってきた。こんな個性なのに、距離をつめて、触ろうとまでしてきてくれるなんて。
「鋭児郎くんがいいなら、いいよ」
そうは言うものの、自分から手を握るのはなんだか恥ずかしくて、私はただ鋭児郎くんに手を差し出した。鋭児郎くんはその手をぎゅっと握ってくれた。力強くて大きくて、ただの握手をしたときとは比べ物にならないくらい緊張して、ドキドキした。
「…個性のこと、解った上で手繋いでくれるの、すごく嬉しい」
「心音が無闇に個性使わないの知ってるし、まぁ読まれたとしてもそんな困ること考えてないしな。今だって、めっちゃ嬉しくてやばいとかしか考えてねぇし」
鋭児郎くんは照れくさそうに笑いながら、繋いだ手に少しだけ力を込める。私が本当に読心の個性を使っていないかどうかなんて鋭児郎くんには解らないのに。言い切ってくれるのは、私を信頼してくれているからだろう。
「私、絶対鋭児郎くんの心勝手に読んだりしないから。だから、その、何かあったらちゃんと言ってね」
「あー、じゃあ一個だけ言いたいことある」
「えっ…な、なに?」
「俺の心、読んでみてくれよ」
ドキッとした。戦闘でも何でも無いときにわざわざ人の心を読んだことがなくて、手に汗が滲んだ。
「でも、」
「いいから」
鋭児郎くんが何を思っているのか、本心を覗き見るのは怖かった。でも優しい鋭児郎くんが意地悪で心を読めなんて言うとは思えなくて、怖かったけど意を決して個性を使った。
「わっ!」
心を読んだ瞬間、びっくりしすぎて鋭児郎くんの手を振り払ってしまった。鋭児郎くんの、私を好きだと思う気持ちが勢いよく私の中に流れ込んできて、心臓がうるさいくらいに騒ぎだした。
「わ、悪い、嫌だったか?」
「そ…そうじゃなく!ほんとに驚いただけで…!」
手を振り払ってしまったせいか鋭児郎くんは少し眉尻を下げた。弁解しようにも胸はドキドキするし顔は熱いし、落ち着けない。
「あの、でも…ありがとう!私、この個性使ってこんなに嬉しくなったの、初めて。私も、鋭児郎くんのことほんとに好きだよ、大好き」
鋭児郎くんの想いにつられたせいか、私も躊躇わずに想いを伝えられた。
「俺も、すっげー好きだ」
二人して赤い顔をして、今度はどちらからともなく手を繋いだ。
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