満たされる
「あー!慧ちゃん!久しぶり!!」
入寮初日、学校に着いて他の子と話していたら、背後から私を呼ぶ声と、駆けてくる足音が聞こえてきた。振り向けば上鳴くんで、今にも私に飛び付いてきそうだったから、1メートルくらいの距離のところで個性で動きをとめてやった。
「なんで止めるんだよ!」
「勢いがありすぎたから」
「久々の再会のハグじゃん!」
「馬鹿じゃん」
一緒に居た響香ちゃんが、イヤホンジャックで上鳴くんに爆音を流してお仕置きしていた。同時に少し離れたところで爆発音も聞こえていたから、勝己くんも怒ってくれていたのかもしれない。嬉しい。
「だって、慧ちゃんあれから何も連絡くれねーし、俺からしてもしつこいとかやかましいとか思われそうでできなくて、慧ちゃんの生存確認できなかったから…」
そういえば何かあったら連絡しろと言われていた気がする。勝己くんと会えた時に報告だけでもしておけばよかった。でも、上鳴くんにも心配してもらえていたのは、ほんとに嬉しい。
「ごめんね、私もう元気になってる。心配してくれてありがとね。私まだまだ頑張るから」
「…爆豪と何かあった?」
「いつも通りだよ」
ドキリとしたけど隠しておいた。勝己くんと男女の関係になったとか、恥ずかしさがありすぎて言えない。
入寮初日は、最初から切島くんたちが勝己くんを助けに行ったことを連帯責任で先生に叱られた。そのあとは自分達の部屋を片付けるように言われ、それぞれの部屋に行き、部屋に届いていたダンボールを開けていった。動くのも暑いから、個性を使って物を配置させていけば、めちゃくちゃ早く部屋作りが終わってしまった。
やることもなく、なんとなく部屋の配置図を見てみれば、勝己くんの部屋は四階だった。遊びに行こうにも、男子寮のエレベーターを使わないと行けないし、他の男子にそのエレベーターに乗る姿を見られたくない。そうなると、必然的に外から遊びに行くしかなかった。
私は窓から外に出て、個性を使って勝己くんの部屋まで飛んでいった。しかしそこに勝己くんの姿は無くてがっかりした。けど近くから声だけはして、その声の聞こえる方に行ってみれば、なんだか暑苦しい見た目の部屋に、切島くんと勝己くんがいた。
「勝己くん、切島くんの部屋手伝ってるんだ?」
「うわっ!びっくりした!」
「あ、ごめんね。暇だったから来ちゃった」
「のこのこ男の部屋に来てんじゃねぇよボケ」
「怒んなよ」
勝己くんの部屋より先に切島くんの部屋に来てしまったわけだし、嫉妬してるのかな。別にまだ窓の外だから部屋に入ってすらいないけど。
「私手伝おうか?すぐ終わるよ」
切島くんの部屋にある半開きのダンボール数個を念力で開けてあげれば、それだけでも切島くんは感心してくれた。
「助かる!ありがとな!」
「うん」
さすがに自分の体を浮かせたまま他の物を個性で動かすのはちょっと疲れると思い、窓枠に座らせてもらってお手伝いをした。
三人でやったらほんとに早く片付いた。寮の共有スペースに行って皆と集まらないかと誘われたけど、勝己くんに話があるから部屋に来いと言われてしまったので、私は切島くんの誘いを断って勝己くんの部屋に行った。
「てめぇ他の男の部屋に入ってんじゃねぇぞクソが」
わくわくしながらついていったのに、勝己くんの部屋に入れば胸ぐらを掴まれた。突然すぎてびっくりした。
「ご、ごめん。勝己くんに会いたかったから…」
「それ言えば絶対俺が喜ぶとでも思ってんのか」
「そこまで単純だとは思ってないけど、ここまで来た理由他に無いし…、だめだった?」
予想外に怒られて、ちょっとへこむ。
「実際、私手伝ったから早く終われたじゃん。予定より早く勝己くんと喋れて私は嬉しいよ」
「俺のこと大好きかよ」
「うん、大好き」
恥ずかしかったけど素直に言えば、勝己くんの眉間のシワと私の胸ぐらを掴む力が弱くなった。
「だったら二度と俺以外の部屋に行くな」
「…女の子のとこはいいよね?」
「好きにしろ」
ぐいっと胸ぐらを引き寄せられ、勝己くんの唇が触れた。切島くんの部屋に入ったこと、許してもらえたみたいでよかった。
「寝るから付き合え」
「へ」
勝己くんは私をベッドに押し倒し、隣に転がり込んできた。
「眠い。ここに居ろ」
変なことはしないんだ、とほっとしたようながっかりしたような気持ちでいたら、体を勝己くんに抱き締められた。
「…暑くない?」
「抱き枕は黙ってろ」
窓は全開で風は多少あるけど、密着して暑くないわけがない。勝己くんの汗のにおいがするし、きっと私だって汗臭い。申し訳なく思うけど、勝己くんは気にしていないのか、より私にすり寄ってきて、私の幸福度が上がっていく。
「勝己くん」
「あ?」
「好き」
「…襲うぞ」
そう言う割にはただ強く抱き締めてくるだけで、何もしてこなかった。ただ寄り添っていられるだけでも幸せで、心が満たされた。
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