二人だけの秘密
「あら慧ちゃん、いらっしゃい」
爆豪家を訪ねれば、また光己さんが出てくれた。
「…あの、勝己くんは…」
「勝己なら荷造りしてるよ。慧ちゃんはもう終わった?寮入るんだよね?」
聞きたかったことを先に喋られて、拍子抜けした。騒ぎの中心だった勝己くんを寮に入れるのを許してくれただなんて。
「入ります。荷造りはまだですけど…その、勝己くんがどうなるのか、気になって」
「気にしてくれてありがとうね。荷造り中だけどどうする?上がってく?」
「…邪魔かもしれないんで、帰ります」
「勝己が慧ちゃんのこと邪魔だなんて言ったら殴っておくから。いらっしゃい」
「や、でも、」
勝己くんに会いたい気持ちがあったせいで、光己さんの力に抗えなかった。
「勝己ー、慧ちゃん来たわよ!」
「そこ置いとけ!」
「物じゃないんだから!」
部屋にたどり着く前から声をかけたおかげで、光己さんが部屋のドアを開けても前みたいな暴言が飛んでくることはなかった。
「スーパー行ってくるから、家から出るんじゃないよ」
「出ねぇわ、はよ出てけ」
「…、二人きりだからって変な気起こさないでよ?すぐ帰るから!」
「さっさと出てけクソが!!」
勝己くんの部屋はクーラーがきいて涼しかったけど、勝己くんは荷造りで動いていたせいか、暑そうに額に汗が滲んでいた。
「何しにきた」
「勝己くんが寮入るか知りたくて」
「メールで聞けや」
「……あと、勝己くんに会いたくて」
素直に言えば、ハッと鼻で笑われた。勝己くんのそういうとこ嫌い。
「寮入りゃ毎日会えんだろが」
前言撤回、勝己くんのこと好きです。そうなの、その通りなの、寮に入れば毎日勝己くんに会えるし授業が終わったあともずっと一緒に居ようと思えば居られるし、同じ屋根の下で暮らすんだよ。
「同じ寮なの嬉しい」
「クソが。寮なんか他のモブがうるせぇわ」
「モブって。皆一緒でも楽しいよ」
「いいのかよ。毎日会える代わりにこんなことできなくなんだぞ」
勝己くんは私の手を引いて、身を屈めて唇を重ねた。意地悪なこと言わずに普通にしてくれれば普通に嬉しいのに。勝己くんは意地悪だ。
「…たぶん、皆に隠れて、内緒でするの楽しいと思う」
正直なことを言ってみれば、勝己くんは悪そうな笑みを浮かべて私をベッドに座らせた。
「同感だな。あのモブどもに俺らの関係ばらすんじゃねぇぞ」
「ん、」
返事をする間もなくまた唇を塞がれて、ふわふわとした気持ちになる。好きだとかそういう言葉は一切交わしていないけど、勝己くんの性格的に、これだけ手を出してくることに意味がない訳がない。私だって、好きだからこそ、触れていたい。
「…聞かれたら、内緒って言った方がいい?」
「内緒の方が楽しいってお前が言ったんだろ」
「ふふ、じゃあ隠しとくね?」
「顔に出るからすぐばれるわ」
勝己くんと居られるだけでめちゃくちゃ嬉しいし楽しいから、たぶん私の態度と表情でばれると思う。それならそれでいいけど、秘密の関係ってのもちょっとスリルがあって、わくわくする。
「どうせ内緒にするなら、隠し事は大きい方が楽しいよなぁ?」
「へ」
体を押されて、背中からベッドに沈んだ。
「覚悟してこいって言ったよな」
「…冗談じゃなかった?」
「俺がくだらねぇ冗談言うわけねぇだろ」
勝己くんに見下ろされるのは、ドキドキするし、私のことしか見えていない感じがして悪い気はしない。でも、男子高校生をなめちゃいけないという父の言葉や、変な気起こさないでと言った光己さんの言葉を思い出すと、私は今とんでもなく危ない状況におかれている気がする。
「嫌なら個性使えよ。俺を止められんのはお前のソレだけだ」
そんなの解ってる。昔から、勝己くんの意地悪も暴力も100%防いだし、トラックに突っ込まれたのだって防いだくらいだ。ベッドの上の勝己くんを止めるくらい、雑作もない。
「…おい、ほんとに使うんか」
「心の準備が…」
「何日ありゃ準備できんだよ…!」
目の前で動きを止められた勝己くんが凶悪な顔でドスを聞かせた声を出す。そんなこと言われたって、心の準備のしかたがわからない。
「…好きって、言って欲しい」
「あ?そんくらい言わなくてもわかんだろ」
「…うん、勝己くん、私のことめちゃくちゃ好きだと思ってると思う」
「殺すぞ」
意外にも、勝己くんの頬が赤くなったように感じた。半分くらい冗談のつもりだったが、どうやら割りと当たっていたらしい。それがわかっただけでも心がすっと軽くなって、個性の使用をやめた。
「…勝己くん、いつから私のこと好きだったの?」
「わかんねぇのかよ」
「結婚しよって言ってくれたよね。あのときもう、好きだったんだよね」
「…覚えてたんか」
勝己くんは眉間にシワを寄せ、私の体に覆い被さってきた。なんとなくそれが照れた顔を隠しているだけのように思えて、可愛くて勝己くんを抱き締めた。
「忘れてたけど、この前思い出した」
「忘れんなボケ」
「…忘れて欲しくなかったんだ?」
もしかしてあの約束、まだ有効なのかな。興味本位で聞いてみれば、勝己くんは少し体を起こし、私の顔を見てきた。
「当たり前だろ」
不機嫌そうな顔をして、唇が合わせられる。勝己くん、昔っからずっと、私のこと好きだったのか。私が結婚に興味すらなく、友達すら全然居なかったあの頃から。
「これ以上待つ気はねぇぞ」
「…でも、光己さん帰ってきちゃうよ」
「いっつも二時間くらい帰ってこねぇわ」
「ん、でも、こ、心の準備が、ひっ」
個性は使わず手で抵抗していたら、がしっと胸を掴まれた。
「寮入ったら周りにあいつら居んだから、こんなことできなくなるぞ」
「…だったら、高校卒業してからで」
「これ以上待たねぇって言っただろうが」
怖い声を出しながら胸を揉まれた。勝己くんのことが怖くてしかたがないけど、好きな人に触られるのは嫌ではないし、興奮もした。
「慧…」
わざわざ耳元で囁かれ、ぞくっとする。怖いけど、勝己くんに愛されたい。服の中に入ってくる熱い手を、止めることなんてできなかった。
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