理想の女の子
「うまくいかねー!」
私の友人のヒーローが、今日もまた酒を飲みながら荒れていた。
「上鳴が私のこと誘うときっていっつも荒れるよね」
「だって俺の愚痴聞いてくれるの薄井しかいねぇもん!」
「瀬呂とかいるじゃん、切島とか」
「あいつら俺が話しても無視する!」
たぶんそれは上鳴の愚痴の内容がいつも同じで、上鳴に学習能力が無いせいだ。今日もさっきまで瀬呂と切島と響香も一緒に呑んでいたけど、明日早いからと言ってお開きになってしまい、話し足りない上鳴に私だけつかまってしまったのだった。
「そりゃね、同じこと繰り返してたら無視もするさ」
「俺は頑張ってんだって!でも同じになっちゃうだけで!」
「はいはい、それで今回の反省点は?」
上鳴はヒーローになってから、少しずつ知名度を上げ、好感度を上げ、モテていた。顔が良くて明るい性格だからか、雑誌やらテレビ番組やらにもよく呼ばれていて、芸能人の知り合いを増やしていた。そして、そのへんの女優やモデルと付き合うことが多々あった。
「今回はまじで俺が反省することねぇもん」
「じゃあなんで別れたの」
「俺束縛されんの嫌いだし、ってかヒーローが束縛されてたら人助けできねぇじゃん。そこわかってくれなかったし。俺悪くない」
上鳴はすねたように唇を尖らせる。そりゃあ上鳴みたいなモテる男と付き合ったら、よその女にとられないよう束縛もするだろう。短期間に熱愛写真を色んな女と撮られている上鳴が悪いと私は思う。
「もうちょっとさ、相手選びなよ」
「選んだよ!今回の子まじで可愛かったし、尽くしてくれるし、料理うまいし、すげぇよくて…でもスマホ勝手に見るし、女友達と会わせてくれねぇし、仕事に理解無いし…」
「どうせ色目使われて出会ったその日にお付き合いとかしてんでしょ」
「んんっ」
「図星かよ」
高校生の頃は上鳴もちゃらかったけど可愛くて純粋なとこあったのに、いつの間にこんな男になってしまったのか。上鳴も嘆いてはいるけど、過去に付き合った彼女たちも可哀想だ。
「だってよぉ、例えば薄井だって、轟が色目使ってきたら誘いにのるだろ?」
「…まぁ、顔は好きだし、のるかも」
「だろ!?俺守備範囲広いから、可愛い子に誘われたらすぐ調子に乗っちゃってさぁ。ほんとは俺だってまともに女の子と付き合いたいんだよ」
今までのがまともじゃなかった自覚はあるのか。
「可愛くて、おっぱい大きくて、色白で、ご飯おいしくて、仕事に理解あって、束縛しなくて、浮気もしなくて、真面目に俺の話聞いてくれて、優しい女の子居ないかな」
「何それ、私じゃん」
私も酒が回っていたのだろう。普段なら絶対自分を可愛いだなんて言わないが、ぽろっと冗談半分で返事をしてしまった。しまった、なんて思っていたら上鳴は私の顔を凝視していた。
「ほんとだ…めちゃいい女居た」
「ありがと」
「…薄井って彼氏居ないよな」
「居ないよ」
上鳴をその気にさせてしまったのかもしれなくて、少し焦る。友達としか思ったことはないし、もしこのまま、そういう流れにされたとしても、無理だと思う。
「俺とかどう?顔は良いし、仕事もできるし、そこそこ強いから薄井のこと守れるよ」
「私も強いから守ってもらう必要は無いかな」
「可愛くねぇ」
「それは残念、上鳴の理想から外れちゃったね」
「あっ、いや待って、性格可愛くなくても顔可愛いしアリだって!」
性格可愛くないとか直球で言われるの普通に腹立つんだけどな。
「俺は割りとマジで薄井のことアリだからさ、俺と付き合ってみない?嫌になったら振ってくれていいから。薄井とだったら、まともに付き合える気がする」
「…やだよ、すぐ手出して来そうじゃん」
「それが理由なら薄井がいいよって言うまで絶対手出さない」
「他の女の子とデートもするでしょ」
「…薄井が真剣に俺と付き合ってくれるんなら、やめる」
今までそれができなかったのに、この男がそれを実現できるのだろうか。できないから今までの彼女たちが怒るし束縛もひどくなっていったんだろう。
「私のこと好きじゃないでしょ」
「…考えたことなかった」
「私もだよ」
「でも、今考えてみたら、他の誰より将来が想像できるっつーか、まじでずっと一緒に居られる気がするんだよな。よく考えたら俺が一番一緒に居て居心地いい女の子薄井だし」
嬉しいことを言われているのはわかるが、それは友達だからじゃないのか。私だって上鳴と居るの居心地いいよ。だって友達だし。
「俺と付き合うの嫌?」
「…上鳴もさ、ちゃんと考えなよ。酔ってるから私でいいかなって思っちゃうだけだって。一晩置いた方がいいよ」
「…じゃあ、薄井も、俺でいいかどうか考えといてくれよ」
「うん」
上鳴からの愚痴は口説き文句となり、お互いに一晩考えるということで話はついた。まぁ私は特に何も考えることなんてない。一晩考えた後の、上鳴の言動次第だ。
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