友達以上恋人未満



翌日、昼過ぎに人が訪れた。宅配便ですと名乗るから疑問も持たずにドアを開けたら、居たのは上鳴だった。

「ヒーローが嘘つかないでくれるかな」
「嘘じゃねーし。ほら、お届けもの」

そう言って上鳴が目の前に掲げてきたのは、少しお高いけど美味しいと有名なケーキ屋の箱だった。

「宅配ありがとう」

お礼を言いつつそれを受け取り、ドアを閉めようとしたら上鳴は慌ててドアをこじ開けた。

「待てって!まじでケーキ届けにきただけだと思ったか!?」
「違うの?」
「ちげーよ!昨日の話の続き!」
「でしょうね。近所迷惑だから騒がないで」

騒がしい上鳴を招き入れて、ドアを閉めた。

「つーか宅配便って言われて確認もせずドア開けるなよ。もっとセキュリティ安全なとこ住もうぜ」
「私が存在するだけでセキュリティ最強レベルでしょ」
「自信満々かよ」

ヒーローの私が居れば私の身は完全に守れるに決まっている。ただ、出掛けている間のこの家の安全は守れないけど。

「コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーラ」
「そんなの無いです」
「そういうと思って買ってきた」
「え、じゃあ私も飲む」

喋りながらお皿やコップを用意していれば、上鳴は勝手に座ってテレビをつけていた。ケーキの箱を開ければ甘い香りがして自然と笑顔になった。

「なぁ、もう本題話していい?」
「どうぞ」

自分と上鳴の前にケーキを置いた。コーラも机に出しておいてくれたから、それをコップに注いだ。

「俺さ、薄井と付き合いたい」
「本気?」
「付き合ってくれるなら本気で薄井のこと大事にする」
「今までの彼女には本気になれなかったの?」
「…好きだったけど、わかんね。すぐ他の女の子のとこふらふらしちゃったってことは、本気じゃなかったのかもな」

自分が本気かどうかもわからなかっただなんて。それってほんとに好きだったって、言える状況だったのか。

「私、上鳴と付き合ったとして、上鳴に傷つけられるようなことあったらすごく悲しいと思うだろうし、友達にも戻れなくなると思う。上鳴とはずっと仲良くしていたいから、これってすごい賭けだと思うの」
「付き合うなら一生だし、別れるなら縁も切れるってか」
「一緒に居て落ち着くってだけなら、私は上鳴と友達でいたい」
「…俺さ、薄井が無理って言うなら、なんかもう一生誰ともまともに付き合えないと思う」
「そんなことないでしょ。私よりいい女なんてそこらじゅうにいるよ」

上鳴は本気で悩んでいるのか、手のつけられていないケーキを見つめてため息をつく。辛気くさいのが嫌だったから、上鳴のケーキを一口ぶんすくって、上鳴の口の前につきだした。ちらりとこちらを見て、ぱくりとそれを口に含んだ。

「…薄井のこういうさりげなく可愛いことしてくれるとこ、昔からめちゃくちゃ好きだった」
「昔こんなことした覚え無いけど?」
「落ち込んでる時に飴くれたり、ジュースくれたりしたよな。去り際に頭撫でてきたりとか、さりげなく優しかった」
「まぁ私ヒーローだし」
「…他の皆にも優しかったしな」

そんなこと上鳴にしたのかどうかなんて覚えていない。でも覚えていてくれたってことは、上鳴にとっては嬉しかったんだろう。

「薄井のおかげで元気出して、別れそうな彼女と無理やり仲直りしてたんだよな。今考えたら、別れて薄井の魅力に気づくべきだったな」
「気づくの遅かったね」
「遅かった。でもやっと気付いたから、手にいれたい。つーか、まじでなんで彼氏居ないんだよ。世の中の男の目は節穴かよ」
「上鳴と一緒だね」
「ほんとな!」

別に、全員が節穴なわけではなかった。私だってヒーローやっててそこそこ人気はあるし、誘われることはある。でもどうしてもときめかなくて、付き合おうという気になれなかった。今回の上鳴みたいに、ためしに付き合おうと言われて付き合ったこともあったけど、ときめかなくて別れてしまった。

「薄井は彼氏にしてほしいこととかしてほしくないことってあるん?」
「浮気してほしくない。ヒーロー以外の女の子と二人で遊んでほしくない」
「ヒーローならいいのか」
「場合によるけど」
「あ、はい」

ヒーローだったらわりと正義感あるし、上鳴が彼女持ちだと知れば手は出さないだろう。ばれたとき、ヒーローとしての信頼感に関わってくるし。

「ていうか、総じて私を傷付けないでほしい」
「…薄井、なんか誰かに傷つけられた?大丈夫か?」
「大丈夫だよ。純粋に幸せに生きたいだけ」
「まじ?じゃあ俺が薄井のこと幸せにしてやれればオールオッケーって感じ?」
「そうなるね。できる?もちろん私のこと幸せにしてくれるなら、私もお返しはするよ」
「できる!絶対幸せにする」

上鳴はアホだから、具体的に何をするかなんて思い付いていないだろう。それでも漠然と幸せにすると言い切ってくれるのは気持ちがいい。

「結婚を前提にお付き合いって話になるけど、大丈夫?」
「あー…じゃあ、薄井じゃなくて幸って呼ばなきゃな」

結婚だとか重めの言葉を使えば怯むかと思ったのに、意外とポジティブでほっとした。なんだかこのまま上鳴に人生を捧げてしまうことになりそうだ。

「じゃあ私も電気って呼ぼうかな」
「えっと…これってもう付き合うってことでオッケー?」
「ひとまずそういうことで。私のことちゃんと好きになったら好きって言ってね。私も言うから」
「好きになるのが後ってめっちゃ違和感」
「好きでもないのに付き合おうとか言ったの電気じゃん」
「あっ、名前呼びめっちゃ良い好き…」

電気の好き判定はめちゃくちゃ軽かった。なんだか不安だけど、後戻りはできない。

「電気って意外とちょろいね」
「ちょろくて悪かったな」

電気は私のケーキの苺にフォークを刺した。さっき私がしたように私に食べさせるのかと思いきや、電気はそれを自分の口に葬り去った。

「あ!ばか!返せ!」
「ん、返す?ちゅーする?」
「しません!」

電気は口に苺を含んだままにこにこしながら聞いてきた。口うつしはハードルが高い。

「冗談だって。ほら、あーん」

いらついていたら、電気は自分のケーキの苺をフォークで私に差し出した。

「最初からそうしてよ」
「え、幸あーんてされるの好きなん?」
「…嫌いじゃないかも」

にこにこしながら食べさせてくれるのは気分が良いし、友達の関係だったらこんなやりとり絶対しなかっただろう。早速友達の関係を崩しにかかる電気に感動すら覚えた。

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