ナイショの話
「常闇くんおはよ!」
「おはよう」
朝から常闇くんに会えるのが、寮だから当たり前だけど、嬉しくって笑顔になる。昨夜は楽しくて嬉しくてなかなか寝つけなかったんだけど、朝は早く目が覚めた。それはもちろん、常闇くんに会いたくて。そんなこと、恥ずかしくて口には出せないけど。
今日もいつも通り特訓が始まったけど、常闇くんの昨日までの不調は嘘のように無くなって、意のままに黒影を操っていた。先生にも感心されていたし、私も、見惚れてしまった。それに、このタイミングで調子が良くなるというのは、やはりあの不調には私がそれほどの影響を及ぼしていたのかと思ってしまう。申し訳ないけど、そこまで常闇くんの思考を私で埋められていたのかと思うと、嬉しい。
「なぁ明星、昨日常闇と何かあったん?」
晩御飯も食べ終わったので部屋に帰ろうとしていたら、こそっ、と上鳴くんに話しかけられた。
「何か…?」
「うん、何か」
上鳴くんの表情は別に何かを探ろうとしているようではなくて、純粋な疑問として聞いてきているみたいだった。
「あったと言えばあったけど」
「やっぱり?なんかさ、常闇いきなりめちゃくちゃ調子良いし、つーか機嫌がいいっつーの?朝からそうだから、昨日の夜何かあったかと思ってさ」
私だけでなく、他の人から見ても常闇くんの機嫌が良くなっていたらしい。私のおかげかな?って常闇くんに聞いてしまいたい。
「で、何があったん?内緒にするから教えて」
上鳴くんはわくわくした顔で聞いてくる。浮わついた話を期待しているようにも見えるし、素直に話してしまいたい。でも上鳴くんがほんとに秘密にしてくれるとは限らないし、ていうかこれは秘密にしなきゃいけないことなのだろうか。私は声を大にして言いたいくらいだけど、ひゅーひゅー言われるようなことになったら常闇くんが嫌がりそうだ。
「え、まさか明星、常闇と人には言えないようなことを…!?」
「そっ、んなの、まだ早いよ…!」
「えっまだ?まだって何?俺それ詳しく聞きたい」
しくじった、ついまだとか言ってしまった。こんなのほぼ自白しているようなものじゃないか。上鳴くんは引き下がる様子もないし、恥ずかしくなってきて顔が熱く感じた。
「…付き合うことに、なりました」
上鳴くんは目を丸くして驚いて、一気に笑顔になった。
「やったじゃん、おめでと」
「へへ、ありがと」
騒がず、周りにはばれないような声量で祝ってくれた。ほんとに秘密にしてくれるんだ。
「よし、祝いのハイタッチ!」
にこにこしながら両手の平を私に向けてきた。ぱん!と手のひらを合わせれば、音のせいか三奈ちゃんらが振り返った。
「びっくりした、上鳴がビンタされた音かと思った」
「なんでだよ!そんな悪いことするかよ」
「上鳴のことだから無理やり可愛い子に手を出したんかなーって」
「しねーわ!」
三奈ちゃんの言いがかりはひどいけど、笑ってしまった。
「じゃあなんでハイタッチなんかしてたの?」
ギクッとした。今はまだクラスのほとんどの子が共有スペースにいるし、常闇くんもいるし、ここで話せば間違いなく話題の中心になってしまう。
「明日も朝からがんばろうぜ!的な。芦戸もする?元気でるぜ!」
「静電気浴びせられそうだからいいや」
「ひでぇ!」
なんとか上鳴くんのおかげで話をそらすことができた。ありがたい。
「じゃあ瀬呂ハイタッチしようぜ!うぇーい!」
「うわっ、バチバチしながらこっち来んな!」
上鳴くんは手のひらを軽く光らせながら瀬呂くんに向かっていった。注目が全て上鳴くんに集まって安心しつつ、常闇くんを見てみたら目があった。せっかくだからお話したくて、そちらへ向かった。
「常闇くん、今日すごい調子良かったよね」
私はさりげなく、空いていた常闇くんの隣に腰かけた。
「あぁ、思った以上にな」
それって、私との関係に不安が無くなったからなんだよね。元通りの調子よりももっと良くなったってことは私の影響がそれほど大きかったってことでいいのかな。もう私、常闇くん相手だとどんどん自惚れてしまう。
「何か良いことでもあったのか?」
近くにいた切島くんが、なんだか心なしかにやにやしながら聞いてきた。
「まぁな」
「へぇ、よかったな」
二人の間に挟まれなんだか気恥ずかしいけど、そんな私の様子を見て切島くんも全てを察したらしい。深く聞かずに納得してくれた。
「あの調子なら仮免試験も怖くねーな」
「そうだね。私も置いてかれないようにがんばる」
「特訓の様子を見た限りでは問題無いだろう」
「えっ、見てたの?」
特訓中に常闇くんが私のことを見ていてくれただなんて。びっくりして思わず聞き返してしまった。
「無論」
表情一つ変えず即答されて、嬉しくて、けど見ていてくれたことが気恥ずかしくて、頬が熱くなった。
「常闇そーいうとこ漢らしくて良いよな」
「そう思う…」
切島くんが全部聞いているのに常闇くんってば顔色も変えないなんて。例え変わっていたとしても、黒くてよくわからないんだろうけど。
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