確かな気持ち
翌日、常闇くんの様子がおかしかった。黒影をうまく操れないようで、黒影が大きくなりすぎたり逆に全然大きくならなかったりで、大変そうだった。
「常闇!集中しろ!」
「くっ……御意!」
「アイヨッ!」
私の不安は的中してしまったみたいだ。だからと言って、本当に私のせいで調子が悪いのかどうかまでは解らないけれど。けど、私のせいだったらいいなって、思ってしまう。
常闇くんのことばかり見ているわけにもいかず、私は私で特訓に集中した。
常闇くんの調子が悪いのも1日経てばどうにか直るだろうなんて思っていたのだが、そんなことはなかった。常闇くんは二日間連続で調子が悪く、先生に注意をされていた。このままいくと本当に仮免試験が危うい。
「常闇くん、ちょっといい?」
夜、ご飯を食べ終えても結構みんな共有スペースに残って喋っていた。その中で常闇くんを呼び出すとい
うのはなかなかハードルが高かったけど、このままほっておくことはできなくて、皆の視線を感じながらも呼び出した。
「ごめん、今大丈夫だった?」
「問題ない」
共有スペースみたいに皆居るところでは話づらいし、寮の外まで連れ出した。夏だけれど、日は沈んでいて夜風があって暑さはましだった。ゆっくり話したかったから、石段に腰かけて、常闇くんには隣に座ってもらった。
「昨日も今日も調子悪そうだったから、心配で」
「…平気だ。集中力に欠けていただけで、調子が悪いわけではない」
「常闇くんが集中できないの…私が変なこと言ったのって関係してるのかな」
自惚れんなよと言われること覚悟で聞いてみた。しかし常闇くんからは返事が無い。まずいことを聞いただろうかと不安に思ってしまう。
「……正直言うと、そうだ」
ぽつり、と呟かれた言葉で、胸が高鳴った。私の、私なんかの言葉で、常闇くんに影響が出るなんて。常闇くんにとったらいい迷惑かも知れないけれど、私の存在が常闇くんに影響を及ぼせているのだと思うと、申し訳ないけど嬉しかった。
「だからこのままでは、集中することができないからはっきりさせたい」
「…はっきり?」
何をはっきりさせたいのか、期待も込めて聞き返してみた。常闇くんの方に顔を向ければ、赤い瞳と視線が交わった。
「あぁ。…俺は、ずっと前から明星のことが、好きだ。だから、明星の言動にいちいち振り回されてしまう。明星が俺と仲良くしたいと言ったことが、俺と同じ気持ちなのか、知りたい」
好きだと、常闇くんの方から言ってもらえた。夢なんじゃないかと思ったけど、激しく脈打つ心臓が、手のひらにじわりとかいた汗が、現実のものとしか思えない。
「違うのなら違うと言ってほしい。そしたら俺は、諦めて…せめて友達として接していきたい」
「わ…私も、と、常闇くんのこと、好きだよ」
緊張してしまったけど、うまく伝えられたようで、常闇くんは目を大きく見開いた。
「ごめんね、いつも中途半端なこと言って惑わせて。私、常闇くんの気を引きたかったの」
「そんなことしなくても、俺は明星のことばかり考えていた」
「…そっか、嬉しい。私もね、最近ずっと、常闇くんで頭いっぱいだった。…へへ、なんか素直に話すの照れ臭いね」
自分でも信じられないくらい顔が熱くて、体温の上昇も感じる。常闇くんの顔色が解らないせいで、私ばかり照れているんじゃないかと疑ってしまう。
「…両想い、でいいんだよね」
「あぁ…そうだな」
じっ、と常闇くんと見つめあう。好きだと思った人と、両想いになれるなんて。私、大してできた人間でもないのに、好きになってもらえるなんて。
「あの、常闇くんさえよければ…お付き合い、しませんか?」
「…俺で、本当にいいのか?」
「常闇くんじゃないと嫌だよ。私がこんなにドキドキして、好きだって、傍に居たいなって思うの、常闇くんだけだもん」
きっかけは些細なことだった。物静かな常闇くんに、隣が落ち着くと言われ、ちょっとドキッとして、でも私も常闇くんの隣が落ち着いて、もたれて寝てしまっても怒られなくて。常闇くんの優しい声色も、隣に居てくれる優しさも、全部好きで、もっと常闇くんに近付きたくなる。
「常闇くんは…私じゃ嫌?」
「嫌なわけ無いだろう!…俺も、明星としか、そんな関係にはなりたくない」
嬉しい。このまま真っ赤な顔を見せ続けるのは恥ずかしかったけど、隣に置かれていた常闇くんの手に触れ、握ってみた。常闇くんはそれを拒むことはなかった。触れても許される関係は、心地よかった。
「明星が傍に居てくれるなら、もう心配無い。特訓にも集中できる」
「ほんと?…もしね、また私のせいで調子悪くなるようなことあったら、言ってね。協力するから」
「明星も、何かあったら俺に言ってくれ。必ず力になってみせる」
「ふふ、ありがとう」
本当に嬉しくて、幸せだと思った。これからずっと、常闇くんの傍に居られる。ただちょっと、独り占めしたいだとか、欲が出てきそうなことだけが嫌だった。
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