恋話
「…みんな何してるの?」
「あぁ、好みのタイプの話してたんだよ」
シャワーを浴び終えてリビングに戻ってくると、月刊ロマンスや卒業アルバムが置かれていたから質問したのだが、そんな答えが返ってくると思わなかった。
「京極も混ざるか?ほら、座れよ」
そんな話題に私を混ぜないで欲しいのだが、堀先輩に座れと言われたから座らせていただいた。
「ちなみに京極はどんな奴がタイプなんだ?」
「えっ」
それは、なんだ?彼氏にするなら、という意味で??
「…王子、やってるときの、鹿島くん」
「やっぱそうだよな、あいついい顔してるもんな〜」
堀先輩が嬉しそうだ。堀先輩も鹿島くんの顔大好きだしなぁ。えっ、てことは堀先輩と私はライバル?
「けど鹿島なんか彼氏にしたところで、あいつの周りに女は絶えないぞ?つらくねーのか?」
「だから王子やってるときの一途な鹿島くんがいいんです」
「そういうことか」
お泊まりを選んだ罰なのだろうか。恥ずかしい話をさせないでほしい。
「京極、これ」
「え、何?」
野崎くんが、私が今日買った夢野先生の新巻を差し出してきた。買った袋のまま放置してたから見つかってしまったのか。
「余計なことかもしれんが、サインしておいた」
「えっ!?」
単行本を開いてみれば、京極椿さんへ☆いつもありがとう!というコメント付きでサインが書かれていた。請求したくてもできなかったサインを、自ら書いていただけるとは。
「夢野先生ありがとうございます!!めちゃくちゃ嬉しいです!!野崎くんの友達になれてほんとよかった!千代に感謝っていうか世界に感謝するレベルで嬉しい!大事にするね!一生夢野先生のファンだから一生漫画描き続けてね!」
野崎くんの手をとって勝手に握手をしてしまうほどテンションが上がったのだが、他のみんなも居ることをふと思い出して我に返った。
「京極って素でそういうテンションにもなるんだな。鹿島のとりまきみたいなはしゃぎ方だったぞ」
「だ、だって好きなんですもん!」
「野崎が?」
「そう!いや、違います!夢野先生が、です!!!」
慌てて訂正したせいか、堀先輩に笑われた。ていうか全力で否定してごめん野崎くん。
「なら俺のために夜更かしで恋話でも聞かせてもらいたいところだな」
「そっっ、そんなの、語れるほどないよ!?」
「些細なことでも鹿島の話でも何でもいいんだぞ?何かあるんじゃないのか」
「…無い!!私は寝る!!」
「どこで寝るつもりだ?」
よくよく見てみれば、部屋に敷いてある布団は三枚。そして野崎くんのベッドが一つ。
「悪いな、うちに布団はこれだけしか無い。こうなったら寝ずに恋話するしか無いな」
「ひ、ひどい…!」
「話続けるならそっちの寝室行ってくれよ。俺もう眠くなってきた」
「俺も…」
「何!?まだ寝かせないぞ!?みんな起きろ!喉乾かないか!?何か温かいものでも飲むか!?」
「うるせー!寝させろよ!」
みんなが寝てしまったら私はほんとにどこで寝ればいいんだ。野崎くんをどかしてベッドで寝る訳にもいかないし、やはり千代のことが気がかりで変なことはできないし。
「野崎先輩、俺達に何かして欲しいことでもあるんですか?」
「お泊まり会ネタでも描こうかと思って」
そうなるとまみこと和歌がお泊まり会するのか?そこにいる私とは?お泊まり会に不良が乱入?いやいや少女漫画でそんな過激な展開はよろしくない。
「じゃあ野崎先輩のためにがんばって恋愛系の話をしてみましょう!」
「しょうがねぇな…何かそれっぽいこと言うか…」
私が聞いていて大丈夫な話なのだろうか。すごく逃げ出したい。
「若松はあのローレライとどうなんだ?」
「はい!まだ会えていません」
えっ、若松くん結月のこと好きなの?会えてないってことはローレライが結月って解ってないってこと?ここにも可哀想な未来の被害者がいたなんて。
「京極は好きな奴とかいないのか?」
「わ、わたし!?」
夢野先生の新巻を読んでやり過ごそうとしていたのに、堀先輩が話を振ってきた。そんなこと聞かれても、答えは無い。
「し、強いて言うなら…」
「誰だ?」
「鈴木くんの幼馴染みの龍之介くん、ですね」
「鹿島じゃないのか」
「ライバルが多いし、かっこよすぎて無理です」
というか鹿島くんは女だから、まず選べない。選んではいけない。
「龍之介くん、かっこいいんですよ。応援団の団長なんですけど、普段キリッと真面目な顔してるのに、鈴木くんと二人の時とか笑顔がすっごく可愛くて!硬派に見えるのに女の子が苦手でわたわたしちゃうところとか、」
「わかった、もういい、ありがとう」
せっかく恋話をしたのに堀先輩に止められてしまった。まぁいいか。
「あと恋の話っつったら佐倉か」
「佐倉先輩がどうしたんですか?」
「ちょうどいいから聞いてみようぜ。おい野崎!」
しかし野崎くんの返事は無く、恋話を始めさせた張本人のくせに、既に眠っていた。
「あー…起きねぇなぁこりゃ」
「俺がベッドまで運ぼうか?」
「あっ、この中なら俺が一番力あると思うので、俺やりますよ!」
「なっ、言ったなてめぇ!なら腕相撲で勝負だ!」
「えっ!?」
なぜか力比べが始まってしまい、私の出る幕が無くなってしまった。仕方がないから眺めていたら、知らない間に私も寝落ちていた。
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