パジャマ



「へへ、夢野先生の新巻…」

部活が終わってから、私は学校近くの本屋に来ていた。雨でも降りそうな空だったけど、発売日に漫画を買う幸せを逃すわけにはいかなかった。
しかし本屋を出るときには、既に雨が降りだしていた。外に出たらすぐにびしょ濡れになりそうなほどに。天気予報を確認しない私は本当に馬鹿だと思う。
とりあえず、駅よりも近い、野崎くんの家に向かうことにした。コンビニで傘でも買おうかと思ったけど、漫画を数冊買って財布が薄くなってしまったため、傘なんかにお金を使いたくなかった。野崎くんに傘を借りて帰ろう。

ピンポーン
と呼び鈴を鳴らせば、野崎くんが出てきてくれた。

「ずぶ濡れじゃないか。あがってくか?」
「いや…あの、ね、傘を借りようと、思って…」

豪雨の中を全力で走ったせいで息が切れる。

「ちょっと待っててくれ」

とりあえず玄関に入れてもらうと、野崎くんはそう言って部屋の奥へと行ってしまった。しかし何やら、奥から人の声がする。そして、足元には見たことのある靴が何足もあった。
少しすると、野崎くんは奥からタオルを取って戻ってきた。

「今日みんないるの?」
「あぁ、電車が止まってみんな帰れなくなったからな」
「え」

野崎くんは私の頭にタオルを乗せてくれた。
電車が止まっているということは、私も帰れないじゃないか。それなのにこんなところへ来てしまうなんて。

「…まぁ、立ち話もなんだし、どうぞ」

奥へと行けば、やはり見慣れた三人がいた。堀先輩に若松くん、そしてみこりん。

「京極も避難してきたのか」
「…お、お邪魔します」
「お、おい…野崎、まさか京極まで泊めるのか?」

泊まり?もしやみなさんお泊まりなのか。電車が使えないならそうなるか。いやしかし、男四人とお泊まりって、そんな、貞操観念もくそもない。

「わ、私やっぱり帰るよ!こんなとこいられない!」
「タクシーでも呼ぶのか?」
「はっ…お金が無い」

タクシーに乗るような所持金があったら傘が買えたよ。

「堀先輩たちが構わないって言うなら、一人くらい増えても俺は問題無いですけど」
「いや、俺はいいけどよ…若松は?」
「俺も別に構わないですよ。雨の中追い出す方が酷じゃないですか。ね、御子柴先輩」
「いっ…いいのか!?こいつ女だぞ!?つーか、京極もそれでいいのか!?」
「私は…」

傘を借りて徒歩で帰ったとして、何十分、いや何時間かけて家に着くんだろう。そんなに豪雨の中にいたら、せっかくここまで守ってこれた漫画がダメになってもおかしくない。
だがしかし、ここには男が四人もいるし、ここは野崎くんの家だし、野崎くんとお泊まり…。千代に殺される。

「着替えなら、パジャマとセーラー服、好きな方を選んで良いぞ」
「そういう問題!?」
「今回はちゃんと京極に合わせたまみ子の清純派白ワンピースも用意しておいたぞ」
「なんで私に合わせたかな!?着ないよ!!」

しかし野崎くんのこの私を女子扱いどころか資料扱いしてくるこの感じ、安心感がある。どうしよう。

「でも帰れないんだから、どれか着るしかないだろ。制服濡れちまってるし」
「…そうですね」

なんだか泊まること前提で話が進んでしまっている。この状況なら仕方がないよね?大人しくパジャマを借りよう。

「なんかすみません、男だけで楽しむお泊まり会にお邪魔してしまって…」
「気にしないでください!むしろ女性が居てくれた方が華やかでいいですよ!」

優しい若松くんの言葉に慰められながら、野崎くんから資料用パジャマを受け取った。以前これを着たとき、転んでみこりんに倒れこんだなぁ、と無駄なことを思い出して恥ずかしくなる。

「シャワー浴びるなら、先に上着だけでもかけておこうか」
「あぁ、ありがとう…」

ずぶ濡れになったし、ジャケットは明日クリーニングに出そうかな。ジャケットを脱いで野崎くんに渡した。

「あ」
「ん?」
「下着透けてるぞ」

ド直球で忠告をされ、顔が熱くなる。そういえばこの人、デリカシー無いんだった。
急いでパジャマを胸に抱えて隠したが、みこりんたちも何やら気まずい雰囲気を醸し出している。

「ご忠告ありがとうございます!!」

デリカシー無いのによく少女漫画なんか描けるものだ。私は逃げるように風呂場へ向かった。

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