夏祭り



「祭り!?行く!!」

千代に誘われたから大喜びしてみたものの、着付けに時間がかかってしまい、待ち合わせ時間に行けなかった。
大幅に遅れると思ったから後で合流するとだけ連絡をして、急いで家を出た。

「すごい人だ…」

千代と結月に電話をかけてみるが、この祭りのうるささでは電話に気付かないようだ。このまま誰にも出会えなかったら普通に泣きそうだ。
みんなを探しながら一人で寂しく歩き回っていたら、ポンと肩を叩かれた。千代だと思って笑顔で振り向けば、知らない人だった。

「お嬢さんかわいいね、一人で祭り来てるの?」
「俺らと一緒に遊ばない?」

無駄な笑顔を振り撒いてしまった。みんなを探そうと思って無視して歩き出したのだが、今度は腕を掴まれた。

「無視なんてひどいじゃん?一人で寂しくないの?」
「は、離してください」
「怒らないでよ〜さっきみたいな笑顔の方が可愛いよ」

力で勝てるわけないし、どうしよう。いつもみたいに不良演技したらドン引きして離してくれるかな?それとも、逆に怒らせちゃうかな。

「おい、俺の女に勝手に触んじゃねぇよ」

悩んでいたら、誰かに肩を抱き寄せられた。

「あぁ?な、なんだ、男連れならそう言えよ…」

そのおかげで、ナンパ男たちは悔しそうに離れていった。

「気を付けろよ」
「え、あ…」

その人も、私を助けるだけ助けて離れていこうとした。しかしその人の声も後ろ姿も、どう考えても私の知ってるあの人で、離れないように咄嗟に手を握った。

「みこりん!」

ビクッと肩を跳ねさせて振り向いたのは、やっぱりみこりんだった。

「助けてくれてありがとう!それに、やっと会えた!」
「えっ、お前…京極、だよな?」
「…え、浴衣だから解んなかった?」
「…おう。浴衣…似合ってるな」
「あ、ありがとう」

つい照れてしまうのは、みこりんもいつもよりかっこよく見えてしまうせいだろうか。着物素晴らしい。

「つーか、手離せよ恥ずかしい…佐倉たちに見られたらどうすんだ」
「あ、ごめん」

この前はみこりんから手握ってきたくせに。

「みんなは?」
「気付いたらはぐれてた。…せっかくだし、二人で回るか?」
「う、うん!」

遅れたおかげでかっこいいみこりんに助けられ、みこりんと二人でお祭りを楽しめる。みんなと回るのもいいけど、こういうデート気分なのもドキドキして楽しい。
…いや、デート?これもしかしてデートなの?二人で、って、デート以外の何物でもなくないか。あのみこりんと、私なんかが?
考え事をしていたら歩くのが遅れていたみたいで、みこりんに置いていかれそうになった。

「み、みこりんっ」

呼べば気付いて立ち止まってくれたから、急いで駆け寄った。浴衣と草履のせいで、動きづらさ半端無い。

「今日だけだからな」

そう言ってみこりんは、私の手を握ってくれた。見られたらどうするとか言っておきながら、みこりんはやっぱり優しい。

「何か食うか?」
「…食べたいけど、もうちょっと後でいいよ」
「腹へってないのかよ」
「…だって、片手塞がっちゃってるから食べれないもん」

素直な気持ちをぶつければ、みこりんは赤面した。

「た、食べたいなら離せばいいだろ」
「だから、食べるのは後でいいってば」
「…そうかよ」
「うん」

今日だけって言われちゃったし、それならデートを楽しみたい。千代たちに見られるようなことがあったら、どうにかしてごまかしてあげないといけないけど。

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