彼女役



「みこりんが…告白?」

千代の話によると、今朝みこりんが他校生に告白をされていたらしい。

「日常茶飯事じゃなくて?」
「今日のはすごい熱心でね、何言っても食い下がらないからみこりんが、彼女いるから!って言ったら、それなら彼女連れてきてください!ってことになって、」
「みこりん彼女いるの!?」
「いや、いないけど。そう言えば食い下がると思って言ったみたいなんだけど、なかなか手強くて。だから誰かに彼女役を頼むみたい」

彼女がいない、と聞いて安心してしまった自分がいた。みこりんに彼女が居ようが居まいが、私には関係ないはずだ。しかし、なんだこの胸のもやもやは。

「私には野崎くんがいるから彼女役なんてできないし、鹿島くんにできないか聞いてみるって、朝言ってたよ」

鹿島くん?あ、そっか女だったね。いやいや、でも鹿島くんに頼むくらいなら私に頼んでくれてもよくない?みこりんの周りで一番そういうの任せやすくない?

「でも鹿島くん、彼女って言うより彼氏って感じだよね。彼女の演技なら椿の方が上手にできそう!」
「そうだよね!あとでみこりん見かけたらそう言っといて」
「今行けばいいんじゃないの?」
「え」

千代はたまに意外な行動力を発揮する。私の腕を掴んだまま、G組の教室へと連行した。

「みこりーん!」
「あっ、千代ちゃん!私だってパッド詰めれば女らしくなるよね!?」
「何の話!?」

鹿島くんは胸がどうとかそういう次元で男らしいわけではないと思うけど。

「それより、みこりんの彼女役、椿がやってくれるって」
「椿ちゃんが?私よりは適任だね!小さくて可愛いし、椿ちゃんが御子柴の彼女だなんて、御子柴にはもったいないくらいだよ」

鹿島くんはナチュラルに私の手をとりそんなことを言う。もう恥ずかしいこと言わないでほしい。

「じゃあ悪いけど、今日の放課後ついてきてもらってもいいか?」
「あ、うん。いいよ」
「椿ちゃん部活どうする?修羅場に巻き込まれたから今日は休むって堀ちゃん先輩に伝えておこうか?」
「あー…そうだね。修羅場になったら学校戻ってこれないだろうし…」
「じゃあ私から伝えておくね」
「うん、よろしく」

相手がどんな子か解らないけど、修羅場にはなりたくないなぁ。



「その子、駅に居るはずなんだよね?」
「朝そう言ってたからそのはずだ」
「ふーん…見せつけるために、恋人っぽく手でも繋いでおく?」
「は!?」
「冗談だよ」

半分本気で言ってみたけどね。照れるみこりんが可愛い。
しかしみこりんは、仕返しなのか自棄なのか、私の手を握ってきた。

「こっ、このくらいしないと信憑性が無いからな…」
「そ、そうだね…」

しかも指全部絡めて、俗に言う恋人繋ぎというものをされてしまった。みこりんの手の大きさ、指の太さが普通の繋ぎかたよりもよく解る。そのせいで、めちゃくちゃ照れ臭い。

「あ、居た…」

セーラー服の女の子が、こちらを見てすぐ目を見開いた。まぁ好きな人が彼女を連れてきて手まで繋いでいたら驚くだろう。ごめんね、恋路を邪魔してしまって。

「ほ、本当に彼女いたんですね。すみません、疑ってしまって…」
「気にすんな、解ってもらえりゃそれでいい。これで諦めてくれるだろ?」
「はい…。貴方みたいな素敵な人には彼女くらい居て当然ですもんね。彼女が綺麗な人でよかったです。諦めがつきました」

さりげなく私まで褒められてちょっと良い気分だ。

「ご迷惑おかけしてすみませんでした。さようなら」

彼女だと言うのは嘘だから、申し訳ない気持ちになった。だが私が気にしたところで、みこりんにあの子と付き合う気が無いのだから仕方がない。こうするしかなかったのだ。

「大人しめで可愛い子だったのに、断ってよかったの?」
「好きでもないのに付き合ってもしょうがねぇだろ」
「…みこりん、好きな人いる?」
「…どうだろうな」

そんな真っ赤な顔で言われたら、いるって答えてるようなものじゃないか。みこりんにこんな顔させるのは誰なんだろう、なんて、見知らぬ誰かに嫉妬心を抱いてしまった。

「まぁ俺は、プレイボーイだからな。一人の女に縛られたりしねぇよ」
「そっか。…それは残念」
「え?」

みこりんが本気で言ってるのか、照れ隠しの言葉を吐いてるのかは私には解らない。でも本当に、このまま女の子たちにチヤホヤされるだけの状態をみこりんが望んでいるんだったら、私にできることは何もない。ただ、みこりんを囲むモブの一人にしかなれやしないんだ。

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