御子柴実琴


「なんかごめんな、勝手にバラしたみたいになっちまって…」

野崎君の家からの帰り道、みこりんに謝られた。そんなことよりも、二人で並んで歩くのが久々で、嬉しくなる。

「別にいいよ、秘密にしたかったわけじゃないし。心の準備さえできればすぐ話すつもりだったもん」
「まさか何も知らないであそこまで尋問されるとはな…」
「…みこりん、私ばっかり撮ってたの、本当に無意識だったの?」

みんなが居るときには聞けなかったから、聞いてみた。するとみこりんは頬を赤く染めた。

「初めは…物珍しさで撮ってたんだけどな。演技中じゃない顔まで撮ってんのは、無意識だった。つーか、野崎のカメラで意識的に京極ばっかり撮ってたら絶対変な風に思われるだろ」
「って考えてたのに、気付いたら私ばっかりになってたんだ?」
「うっ」

大分前からみこりんが私のことを見ててくれたなんて。こんなことならもっと早くみこりんにアタックしても良かったかも、なんて思ってしまう。

「…私もね、ずっと前からみこりんのこと見てたんだよ。みこりんは気付いてなかったかもしれないけど、一年の時から、朝たまに同じ電車に乗ることあったからちらちら見てたの」
「…気付いてたよ」
「えっ、嘘」
「…あんまり人には言わねぇことだけど、俺大人しい奴がタイプなんだよ。ギャルゲでいうところの、図書委員ポジションみたいな。京極は見た目大人しかったし、…可愛かったし、ちょっと気になってた」

みこりんの目に留まるような優等生しててよかった!!髪明るく染めたりとかしてたらダメだったんだろうね!

「野崎の家で会って感動したけどよ、それ以上にショックすぎてひどかった。黙ってたらタイプだったのに不良な中身は無理だと思ったしな」
「…誤解が解けてよかったよ。あのイメージのまま誤解されて過ごしてたら、みこりんに避けられて今こんな風に会話することも隣を歩くこともできなかっただろうね」
「まぁな。野崎に感謝ってところか…」

私が千代と友達で、千代が野崎くんに惚れていて、野崎くんが少女漫画家だったからこそみこりんと出会うことができたんだ。
野崎くんと千代には頭があがらない。

「野崎って京極が望むような大魔王みたいなの書けるのか?あいつのことだから高飛車な女王みたいな悪役が限界な気するけど」
「私もそれは気になってる…。王子を殺せる器のキャラとか書けるのかな」
「どうだろうな。つーかそんなに鹿島のこと殺したいのかよ」
「…だって、鹿島くんは完全なる王子顔な訳だし、今後王子しかやらなさそうでしょ。そんな王子を殺せるのって私くらいじゃない?私にしかできないことがあるなら、やりたいもん」
「ふーん…」

それを成功させられるかは、野崎くんの脚本と私の演技力に任せられている。演技の練習頑張らないと。

「それにさ、何人でもなれる鹿島くんのお姫様になれなくても、みこりんにとってただ一人のヒロインになれたから、部活でヒロインになれなくてもいいか〜って思って」
「…京極がそれでいいなら、俺がずっとお前だけの王子様でいてやるよ」
「…永遠のラブハンターとか言ってたのはどの口かな?」
「う、うっせ!その話はもういいだろ!」

恥ずかしくて茶化してしまったけど、私はとても幸せだった。大好きなみこりんが、ずっと王子様でいてくれると言ってくれたんだ。

「へへ、ごめんね。…大好きだよ、みこりん」

好きな人に好きだと言える。好きな人の隣に居られる。それだけで嬉しいのに、みこりんは更に、私の手を握ってくれた。

「…俺も好きだよ。わざわざ言わせんな」

夢野先生の作品で不良にされたって、部活で悪役にされたって、大好きなみこりんの世界の中では永遠にヒロインであり続けたいな。

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