転校生さん



「どうも!新設されたプロデュース科に転入しました山田楓です!以後お見知りおきを!!」

私はやけくそだった。
普通に私立の高校に通って普通の生活をしていただけのはずなのに、三年生になると同時になぜか私立夢ノ咲学院に転校することになっていた。
悪いことさえしなければ、この先の進路に悪影響は全く与えさせない上、権力で進路を良い方向へ持っていけるだなんていう甘い誘惑に乗ってしまった。

「Amazing!まさか貴方とまたお会いできる日が来るなんて!お久しぶりですねぇ!」

ホームルームの間静かにしていた日々樹渉は、休憩時間に入った途端に騒ぎ出して近寄ってきた。

「あら、どちら様?」
「冗談が酷いお人ですねぇ!貴方が観劇に毎回来てくれていたのは知ってるんですからね!」
「…知ってたんだ」
「勿論です!私の視力は5.0あるので客席のどこにいても見えてますからね」
「ご冗談を」

入学早々に奇人と会話してしまったせいか、回りの視線が痛かった。渉くんとは中学の時の同級生なのだが、いまだにこんな犬みたいにワンワンと近寄ってきてくれるとは思っていなくて驚いた。
夢ノ咲学院に入ると聞いて、アイドルになってしまうならもう遠い存在になるんだなと思っていた。中学のお遊びみたいな演劇部で、一緒に全力で演技して騙しあったりして遊んだ仲も、アイドルになった渉くんは忘れてしまうんだろうと思っていた。
だからこそ、ここに、プロデュース科に転入するという報告も、できなかった。

「これから、またよろしくお願いしますね。困ったら私が魔法で助けてあげますから、いつでも頼ってください」
「…ありがとう、よろしくね」

二年間、ただ遠くから見守ることしかできなかった渉くん。五奇人と呼ばれ傷付けられているときも、私は何もできなかった。でもこうして手の届く距離にまた来れたのだから、渉くんが困ったときは今度こそ私が、魔法なんか使えないけど、助けてあげたい。


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