私の日々樹渉
好きだよ、と渉くんと想いの確認をしあったことがまるで夢のようで、一夜明けてもまだ信じられずにいた。昨日の出来事は私の夢か幻覚で、渉くんがあまりにもいつも通りだったらどうしよう。そんなことされたら、怖すぎて二度と自分から渉くんに声をかけられない気がする。
なんだか夢うつつなまま朝の支度を終えて外に出れば、家の前の道路に渉くんがいた。
「おはようございます!今日も良いお天気ですね!」
「お、おはよう!どうしたの、私のお迎え?」
「そうですよ、あれから貴方のことばかり考えてしまって、1秒でも早くお会いしたかったので、来ちゃいました」
照れ臭いことは周囲に聞かれないようにちゃんと小声で話してくれて、それがなんだか囁かれているような気分になって恥ずかしくなる。よかった、昨日のことは夢でも幻覚でもなかったんだ。
「ありがとう、私も早く渉くんに会いたかった」
「ふふふ…☆ 愛ですねぇ。今すぐ抱き締めたいくらいですし、手を繋いで登校したいところですが、人目があるので我慢しますね」
「そ、そうだね、我慢…」
我慢しなくて良い場所だったら手を繋がれるし抱き締められるのか。渉くんはスキンシップが激しい方だし、友達という壁も無くなったし、2人きりになるタイミングがあったらとんでもないことになるのでは。
「…一晩、考えてみたんですけど。私たちのことを英智に話しませんか?」
「えっ」
「黙っていても英智にはばれてしまうかもしれませんし、僕に隠し事?なんて攻められたら参ってしまいますしね。……それに、可愛い彼女ができたと自慢もしたいですし」
ぶわ、と顔が熱くなるのを感じる。可愛いだとか何だとか、渉くんが私に向ける言葉が演技でないことを解った上で聞くとすんなりと受け入れられるし、照れ臭い。
「…英智くんだけだよ?」
「ええ、もちろん。皆のプロデューサーなわけですし、あまり他にばれない方がいいのは確かでしょうね。変に気を遣われるのも仕事に支障が出そうですし。今まで培ってきた演技力で、ちゃんと隠してくださいね?」
「うん、気を付ける…」
とは言え、自分でも信じられないくらいに渉くんのことを意識してしまうし、緊張すらしてしまう。昨日までの自分が恋愛感情を無視することにどれほど徹底していたことか。
「せっかくこうして朝から貴方と仲良く登校して気持ち良く1日を始められることですし、今日は私も真面目に授業でも受けてみましょうかね」
「えっ、珍しい」
「せっかくなので、お昼も一緒に食べたいですし、帰りもご一緒したいんですが…いかがでしょう?」
なんだかおねだりをされているような雰囲気で、渉くんが可愛く思えてしまう。私がダメだと言うはずがないのに。
「私もそうしたい。…できることなら、毎日でも」
「ふふふ、愛ですねぇ。楓の紡ぐ言葉で私の心が愛で満ち満ちていくのを感じます!」
「は、恥ずかしいこと言わないでよ」
「口にしないと伝わりませんからね?楓にはなるべく、私の愛をできる限り伝えていきたいと思っています。言わずに後悔した悲しみはもう味わいたくありませんので」
「それは…そうだね」
黙って待っているだけでは掴めない幸せはあるし、むしろ不幸とまで思ってしまうこともある。
渉くんとのことも、プロデューサーとしてのことも、どちらの幸せも私は掴みとりたい。貪欲に、欲しい幸せは全部手に入れたい。
「それと…一応言っておきますが、貴方に好意を持っているようなアイドルたちが他にも見うけられますが……なびかないでくださいね?いけませんよ、そういうお誘いに乗ったりしたら」
「え、何それ。心配しなくても大丈夫だよ、渉くん以外のことそういう感じで見てないから」
「そうですよね、すみません、楓のことを信じていないわけじゃないんですよ?ただ、見ていて危なっかしいことも多々あったので…気を付けて頂きたいだけです」
私が思い出せるのは主に薫くんの言動くらいなものだけど、なびくわけがない。ただでさえプロデューサーとして、アイドルに手を出したくない状況で、渉くんを口癖通りに私の日々樹渉にしてしまったのだから。渉くんが居てくれるのに、他の人とどうにかなるわけがない。
「心配してくれてありがとう。私も…貴方の山田楓、だからね」
「……それ、絶対に他の人に言って欲しくないですけど…、私が口癖のように言ってしまうので貴方にやめろとは言えませんね」
「も〜〜、心配しすぎだよ?渉くんにしか言わないってば」
なんかここ数日で渉くんの弱々しい言動をたくさん見た気がする。私のせいなんだけど、渉くんが私に心を許してくれたということに思えて嬉しくもなってしまう。
「もちろん、信じていますよ。愛する楓の言うことですからね」
「…照れる」
「そこは私も愛してる!って返して欲しいところですが」
「は、恥ずかしいよ……ちゃんと好きだから、勘弁して」
昨日の今日でいきなり上手に愛を伝えろと言われても、私はそんなに器用じゃない。彼女役だと割り切れば常にそのように振る舞えるだろうけど、私はなるべく今までどおりの自然体で渉くんと付き合っていきたい。
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