見透かされて
クリスマス当日、紅月のライブと茨くんとのデートが楽しみすぎてあまり寝付けないまま早起きしてしまった。24日がRa*bitsのライブだったこともあり、どうせ疲れて遅くまで寝るだろうと踏んで美容院の予約も入れていなかったことを後悔する。初めてのクリスマスデートだし、どうせなら普段より綺麗にしている姿で茨くんに会いたかった。だからといってクリスマス当日に枠が空いている美容院が見つからず、自力でセットするしかなかった。
紅月のライブ会場に行くとクリスマスだけど和っぽさもあり、見事にクリスマスらしさと融合していて綺麗だった。これがあんずちゃんプロデュースかと思いジェラシーを感じてしまう。
「おやおやぁ?可愛らしい方がいると思ったら芹さんでしたか。奇遇ですね」
「へ、日々樹先…輩?」
「そうです、貴方の日々樹渉です…♪」
特徴的なしゃべり方で声をかけられすぐに日々樹先輩だとわかったのだが、見上げてみればいつもの長髪もみつあみも無くて、切ってしまったのかと驚いた。しかしすべて帽子の中に収めているだけだとわかって安堵した。
「日々樹先輩も見に来てたんですね」
「はい。本当は英智が来るはずだったんですが家の用事で来られなくなってしまいまして、チケットが無駄にならないように代わりに私が来たんです。まさか貴方に会えるとは思いませんでしたよ、お一人ですか?」
「そう、一人。なんか、私が誰にサイリウム振るのか、人に知られるの気恥ずかしくて…迂闊にESの子を誘えなくて…」
「そういえば同業者に囲まれた場ではユニットカラーばかり光らせていましたね。今日はどうするんです?紅月の赤ですか?」
紅月も3人とも好きだけど、今日はプロデューサーではなく一人のファンとしてここにきた。だからわざわざ、ユニットカラーのみを振り続ける気分ではなかった。
「…緑」
「ほう!敬人くんですか、良いですね。私も今日は英智の代わりなので両手で緑を振るつもりでしたよ、お揃いですね」
茶化されなくてほっとする。今日は心置きなく蓮巳先輩を多めに応援しよう。どうせ向こうから私の顔までは認識できないだろうし。
「しかしクリスマスに芹さんと会えるなんて、デートみたいでドキドキしちゃいますねぇ。今日はなんだかいつもよりおめかしをしてより愛らしい格好ですし」
「そ、そうですか?変じゃない?」
「ええ、とっても可愛いですよ。というより、お綺麗ですよ。このあとfineの方たちと一緒に姫宮家でクリスマスパーティーをするのですが、芹さんも一緒に行きませんか?」
「んええっ、め、めちゃめちゃ行きたい……けど、外せない用事が……あぁ…」
クリスマスらしいおめかしをした桃李くん、生で見たかった。fineのみんなが仲睦まじく過ごすところを眺めたかった。とはいえ、今日の予定を変更するわけにはいかない。非常に残念だ。
「ふふふ、意地悪を言ってすみません。余りにも可愛らしいので、つい。このあとはデートの予定でしょう?もしライブではしゃいで髪型が崩れてしまったら直して差し上げますので、仰ってくださいね」
「ありが……や、ちが、デートとかでは、」
「誰にも言いませんのでご安心を。お相手の方のために可愛くしてきたのでしょう?愛ですねぇ、これぞAmazing…☆」
図星すぎてこれ以上の否定ができなかった。日々樹先輩の言う通り、茨くんに可愛いと思われたくてしてきたことだ。
「プロデューサーとはいえ、恋をしても良いと思いますよ。アイドルだって、昔アイドルに恋をしたから同じようにアイドルになって輝いているものです。貴方も、恋をして、愛を知って、今まで見えなかったものが見えるようになるかもしれません。恋で得たトキメキを仕事に昇華させれば、より愛に満ち溢れたプロデュースができるようになるかもしれません。何事も経験ですからね」
経験をしないとわからないから、茨くんも私に恋人ごっこを依頼してきたのだ。茨くんが何か得られたかは私にはわからないが、少なくとも私は、得られるものがあった。
「…日々樹先輩は、恋をしたことありますか?」
「ふふ、立場上、恋バナは人のいない所でお願いしますね」
「あ、すみません」
「いえ、今度ゆっくりお話しましょうね。今日の貴方のデートのことも聞きたいですし」
あぁ、今度聞かれてしまうのか。日々樹先輩のことだから、私から話さない限りは深く踏み込んできたりはしないだろうけど。
「…デートのこと、他の人には内緒ですよ?」
「ええ、貴方の育む愛に茶々をいれたりしませんよ」
愛を育んでいるとか、そんな大層な感情ではないのだけれど。でも普段から愛だ何だと言っているだけあって、日々樹先輩からはその辺りの配慮に優しさを感じる。
「うまくいったらお祝いさせてくださいね」
「…応援してくれてるんですか?」
「もちろんですよ」
「相手が…アイドルでも?」
怖かったけど、小さな声で聞いてみた。日々樹先輩は目を丸くしてみせたけど、すぐに笑顔を見せてくれた。
「アイドルという立場にいながらクリスマスを貴方と過ごすと言うなら、それは相手の方も相当貴方を愛しているのではないですかね?芹さんからお誘いになったんですか?」
「…ううん、向こうから」
「おやぁ、それはそれは…ふふふ、今度詳しく聞かせてくださいね?身近な人のリアルな恋バナを聞く機会なんてそうありませんからね、楽しみにしておきます」
日々樹先輩はご機嫌そうににこにこしてくれるし、なんだか恥ずかしくなってくる。私がこれ以上茨くんとどうにかなる未来なんて期待も想像もしたくないのに、もしかしたら、なんて淡い気持ちが沸きそうになる。
「そろそろ席につきますね。私のチケット、関係者席のものなので。ライブが終わったら来てください、身だしなみの確認をしてあげます」
「あ…ありがとうございます、お願いしますね」
「今からはちゃんと紅月のことを考えてあげてくださいね。それでは、また後で」
日々樹先輩はひらひらと手を振って、舞台に近い前方の席へと向かっていった。私は自力で当てたチケットなのでそんな良い席ではなかったが、真ん中くらいで遠すぎない位置だったのは幸いだ。
席についてからもそわそわして落ち着かなくて、スマホの電源を切る前に、『今から紅月のライブ始まる!』と茨くんに送ってみた。
1分と経たずに震えたスマホの画面には『冷えないように気を付けて楽しんでくださいね』と表示された。コートのポケットにカイロがあることを思いだし、ライブが始まるまでそれを握っておくことにした。
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