毒されている



バイト中のニキくんに一言いれて、また社員食堂の隅っこの席でご飯を食べてそのままノートパソコンで仕事に取り組んでいた。
そういうことをしているとよくアイドルたちに相席されて仕事の速度は落ちるのだが、コミュニケーションは取れるし情報収集にはもってこいで、新しい閃きもあったりするからやめられない。

「またこんなとこで働いてるんすか?」
「あ、お疲れ。お昼遅いね?ここ座る?」
「午前の仕事が長引いちまって。お邪魔しますよ」

ジュンくんはお昼を乗せたトレイを机に置いて、目の前の椅子へと腰かけた。天ぷらうどんの美味しそうな香りがしてきて、このまま晩ごはんまでここに居座っていたら後で食べようと思った。

「今度は何の仕事に追われてるんすか?」
「んーと、バレンタインのコラボ企画と、fineのツアーと、ドラマティカの…あ、これは秘密のやつだ、聞かなかったことにして」
「はいはい、別に誰にも言いませんよぉ。バレンタインのは誰の仕事なんすか?」
「迷ってるんだよね〜、どうにかしてこはくくんに可愛い仕事を振りたいからクレビにお話持ってこうかと思うんだけど、可愛い方向にするには燐音くんが可愛くない…っていうと語弊があるけど、その、燐音くんとバレンタインか…って感じで」

セクシーでかっこいい大人のイメージで行くなら燐音くん似合うしクレビで良いんだけど、私はまだこはくくんをセクシー路線に持っていきたくない。まだ、身長が伸びきるまでは可愛い路線におさめたいのだ。

「迷うならEdenにしてくれてもいいんすよ?ナギ先輩もチョコレート好きですし、悦びますよ」
「うーん、たしかに…。一回茨くんに話持ってってみようかな。Edenの仕事に口を出していいのかわかんないけど…」
「先にナギ先輩にプレゼンしてやる気にさせちゃうのも手かもしれないっすよ」
「ふむ、それも有りかも」

仮にナギさんがやる気になってくれても茨くんがやりたくない仕事だったらすごい怒られそうだけど。

「最近、どうなんすか?」
「あ、体調?もう元気だよ、毎日定時に帰らされてちゃんとご飯食べていっぱい寝てるので」
「今までちゃんと食べずに睡眠削ってたんすか…そりゃ倒れますよ。ていうか、それじゃなくて、茨とのことっすよ」

まさか聞かれると思わなくてドキッとする。あのときジュンくんに話さない方が良かったかな。

「まぁ、順調かな」
「撮影終わったら、それも終わりなんすよね?」
「もちろんだよ、終わったらそのまま続ける意味は無いからね」

自分で言葉にしてみて、悲しくなってしまう。全部仕事のための付き合いだったんだから、仕事が終わったら付き合いも終わりだと、何度も頭では言い聞かせてきたんだけど。

「…仲良くなったのは事実なんだから、終わったからといって関係が断たれる訳じゃないんすよ。だから、情が移って別れたくないとか言わないでくださいよぉ?出社すればいつだって会えるんすから」
「わかってるってぇ」

本気で好きになったりしないでとジュンくんに前も言われたことを思い出す。それは茨くんとの約束でもあるし、2人にも言われてしまったら守るしかないだろう。

「今まで通り…よりも仲良くしてくれるなら嬉しいけどね。こうやってジュンくんとご飯食べておしゃべりする感じくらいにはさ」
「…ま、そのくらいするでしょうよ。普通に仕事仲間として、友達として?」
「だといいなぁ。仲良くなれた気がしてるのも全部演技だったとか言われたら流石に私でも傷付くかも」
「はは、そこまで鬼じゃないと思いますけどねぇ?」

そう、せめて、他の人たちと同じような関係にはなれると思いたい。仕事仲間でもいいから、友達でもいいから、前のような最低限の仕事のやり取りしかしないような仲までは戻りたくない。

「芹さんはだいぶ茨のことがお気に召したみたいっすね」
「今まで茨くんのこと全然知らなかったからってのもあるけどね」
「だとしても、ちょっと妬けますねぇ。あんたと過ごす休日、結構好きだったのに。最近はめっきりゲーセンにも来なくなりましたし?偽物の恋人に何か言われたんでしょうけど、オレからしたら大事な時間を奪われたようで寂しいもんっすよ」

ぶわ、と変な汗が出るのを感じる。今何言われた?嫉妬?いや、友達としてだよね。私との時間、そんな大事に思ってくれてたんだ。

「…仕事とか言って付き合うの、ほんとずりぃっすよ。依頼された側のあんたに言ってもしょうがないんすけど」
「…そ、そだね」

ずるいって、茨くんに言いたいってことだよね。ってことは、ジュンくんだって付き合いたいって言いたいってこと?え、何?私と?あ、それとも手口がずるいってだけで他の女の子の可能性もあるか、あるよね。

「落ち着いたら、またオレとゲーセンとか喫茶店とか付き合ってくださいよぉ」
「ん、もちろん。しばらく行ってないから腕は落ちてるかもしれないけどね…へへ」
「オレも勝ち確のゲームじゃ物足りないっすけど、ちゃんと戦ってくれるなら許してあげますよ」
「お、煽ってるね?受けてたつからね?」

前は誰に何を言われても、おいしいセリフありがとうとかファンサありがとうとか尊いとか思って過ごしてきたけれど、恋愛のお勉強をしてしまったせいで、人の言葉を敏感に受け取ってしまう自分がいた。ジュンくんの言葉にそういう意味が込められているのかどうか、真偽は定かではないが、やめてくれと思ってしまった。茨くんとの関係なんて偽物だしもうすぐ終わるものなのに、どうしても茨くんの顔が脳裏にちらついてしまうから。


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