普通の人のように



ショッピングとか言うからてきとーなお店をなんとなく見るだけのつもりでいたのに、私が普段買うよりも高めの服屋に連れていかれ、これとかどうです?試着してみてくださいよ、なんて着せかえ人形にされていた。
言われるがままに色々着てみたら、彼女さん何でも似合って素敵ですね、なんて店員のお世辞に対して自慢の彼女ですからね、なんてお世辞合戦が繰り広げられていてたじたじだった。
自分の服に着替えて試着室を出たら何やら茨くんがお会計をしていて、びっくりして駆け寄ればさっき試着した服が何枚かレジを通されていた。

「な、なぜ!」
「なぜと言われましても…プレゼント以外に買う理由があるとお思いで?」
「いや、だって、そんな、えぇ?」
「心配しなくとも、荷物にならないように郵送の手配を済まして置きましたので大丈夫ですよ。時間も迫っていますしご飯にしましょうか」

混乱しているうちに手を握られ、店員さんからはありがとうございました〜と気持ちいい挨拶をいただいた。

「も、申し訳ないよ…」
「そう思うなら、きちんと着てあげてくださいね」
「うん…そうだね、ありがとう。せっかくなので、出勤時の服に取り入れてみます…」
「ええ、ぜひ。着ているところを見せに来てくださいね」

女性陣、そういうとこの変化にめちゃめちゃ鋭いからその服どうしたの?かわい〜〜!とか何か色々聞いてきそうだ。これはもう冬のボーナスで浮かれて買ったことにしよう。それしか逃げ道がない。
ぐるぐると考え事をしている間に、茨くんが予約していたらしいレストランに連れていかれるが、そこもまたなんか良い雰囲気で高そうで格式高い感じが私をびびらせてくる。
個室に通されて、メニュー表のよくわからないカタカナの料理名に混乱していたら茨くんに笑われてまいってしまう。

「もうちょっと庶民に寄せてください…」
「すみません、見栄を張ってしまって。自分もよくわからないので適当に注文しますね」

本当にわからないのか、茨くんはメニュー表の上から二つを注文していた。適当すぎる。
他愛もない話をしながら料理を待って、運ばれてきた料理は見るからにお高そうでオシャレで、今後たぶん誰と付き合ってもこんなデートしないだろうなと思わされてしまう。

「すみません、食べる前に写真撮りますね」
「どうぞどうぞ。Edenの皆に自慢する?」
「それはちょっと難しいですね、自分用ですよ」

茨くんは料理の写真を撮ったあと、私にまでスマホを向けてきてシャッターを切った。不意打ちとか絶対まぬけな顔してたでしょ。

「撮るなら撮るって言ってよ!」
「どうぞと仰いましたよね?嫌なら許可をしないことですよ、勉強になりましたね?」
「一休さんじゃないんだから…。じゃあ私だって撮りたい。いいよね?」
「ええ、特別ですよ、どうぞ」

仕返しのつもりでスマホのカメラを向けたのに、画面に映る茨くんは相変わらずかっこよくて、つい録画ボタンを押してしまう。

「おや、シャッターではなく録画開始の音が鳴った気がしますが、どういうおつもりで?」
「え、ばれた?」
「当たり前じゃないですか。まったく、こんな明らかなデート動画が世に流出したら責任取って貰いますからね〜?」
「まだクビになりたくないんで気を付けます…」
「おや?仕事を辞める程度で責任を果たせるとお思いで?責任取って結婚に決まっているでしょう」
「んへっ!?」

意地悪な笑顔をしてきたと思いきやスマホを奪われ、録画は停止された。

「個室とは言え奇声はあげないでくださいよ?ほら、ご飯も冷めてしまいますし食べますよ」

画面をオフにされたスマホを返され、平然としている茨くんに対して動揺する。

「いただきます…」
「からかいすぎました?ご飯をのどに詰まらせないように気を付けてくださいね」
「そんなドジじゃないです」

茨くんはたびたび私をドジっ子扱いしてくるが、別に私はドジじゃない。茨くんが罠を仕掛けまくるから何回もハマってしまっているだけで。
緊張して料理の味がなんとなくしかわからない状態で食べ進め、味なんかよりも茨くんの食事姿を目に焼き付けることに専念した。もうデートなんてできないしこんなお高い料理も食べられないだろうけど、打ち合わせと称してご飯に誘うくらいはこれからも許してほしい。


「このあとはイルミネーションでも観に行きましょうか」
「うん、観たい!毎年クリスマスライブばっかいってたから、ちゃんとイルミネーション見るの初めてかも」
「楽しみですね」

茨くんも楽しみにしてくれているのだとしたら、嬉しくなってしまう。
ご飯も食べ終わって喋っていたら、茨くんが思い出したようにポケットから箱を取り出した。

「プレゼント、本当はちゃんと用意してありました」
「へ?」
「服は日頃のお礼ということで、こちらが本当の、恋人七種茨からのプレゼントであります」

コップに添えていた右手を引っ張られ、箱から出された指輪を薬指にはめられた。小さなキラキラの宝石もついているし、心臓がばくばくとうるさくなった。

「こ、これ、」
「心配しなくとも貴方が重みを感じるほどの値段はしていませんよ。とは言え、そこらの高校生や何かがはめるような安物でも無いので普段使いもできますよ」
「ゆ…指輪ってだけで、重いんですけど」
「…やはりそうですかね。いや、迷ったんですがね、貴方がうちで眠りこけた時に指のサイズは10本とも測ったのですが、手首などは測り忘れてしまって正しいサイズでプレゼントできるものが他に無かったんですよ」

サイズの解るものしかプレゼントできない気持ちはめちゃめちゃわかるけど、ていうかそれ最初から指輪しかあげるつもり無いから指しか測ってないってことでしょ。そんな前からこの計画たててたの?

「…さ、さすがに、あの、やばいので、別れる時に返します」
「返されてももう返品もできませんが……」
「…で、でも、そりゃこんな良いもの貰えるなら嬉しいけど、こんなの身に付けてたら茨くんのこと忘れられなくなっちゃうじゃん…!?」
「ほう」

私が変なことを口走ったのか、茨くんはまた意地悪い微笑みを浮かべる。怖いんですけど。

「それは都合が良い呪いのような物ですね。世の恋人たちはそのために身に付ける物をプレゼントし合うんでしょうかね」
「…そうだとしたら、私も呪いをかけることになる」

こうなったらもう自棄だ。バッグから、茨くんのために用意したプレゼント包装された箱を取り出して、茨くんに差し出した。

「これは……?」
「私から、メリークリスマスの呪いです」

私がプレゼントを用意したことがそんなに意外だっただろうか。茨くんは目を丸くさせて、私を一瞥してから包装を解いて中身を取り出した。

「ブレスレット…ですか」
「好みじゃなかったら、使わなくてもいいから」
「とんでもない、ありがたく使わせて頂きますよ。大好きな芹が自分のために選んでくれたものですからね」
「…そういうこと言われると、私も指輪めちゃめちゃ大事に使うしかないじゃん…」
「おや、ぞんざいに扱うつもりだったのですか?」
「もったいなさすぎて大事に飾っておこうかと……」

万が一にも失くしても困るし傷がついても困る。大事な想い出として、綺麗に飾ってしまおうかと思ったのに。
茨くんなんて早速ブレスレットを腕につけ始めるし、私も指輪をきちんと使うしかない。

「仕事中はしなくても構いませんが、オフの日くらい使ってみてくださいね」
「…わかったよ、使うよ、なかなか無い茨くんからのお願いだもんね」

私だって、茨くんが本物の恋人だったら指輪なんて死ぬほど喜んでいるに決まってる。喜びきれないのは、これをどんなに大事にしたところでこの関係は終わってしまうし、いつか茨くんに本物の恋人が出来てしまった時にもこの指輪が存在し続けていることだ。私の行き場の無いこの感情が、形として残ってしまう。

「そろそろ行きましょうか。遅くなるとどんどん冷え込みますし」
「そうだね」

もっとゆっくり、いっぱいお話してもっと一緒に居たいけど、クリスマスはあと数時間で終わってしまう。私は明日も仕事だし、茨くんもレッスンなど有るだろうし、あんまり拘束するべきではない。
コートなどを身に付けて荷物をまとめて個室を出れば、茨くんは会計をせずに出口へと向かう。ちょっと、と引き留めれば既に会計済みだと言うし、お店の人にもありがとうございました、と見送られる。ほんとに人の隙を突くのが上手すぎるというか、仕事ができるというか。

お店の外に出ると、軽く雪が降っていて、うっすらと雪が積もりそうな雰囲気だった。

「ホワイトクリスマスだ…」
「ロマンチックですね」

なんて言いながら微笑んで私の手を握ってくれる茨くんが眩しくて、つい目をそらしてしまう。

「こんな風に恋人と手を繋いで普通の人のようにクリスマスを過ごすことができるなんて、考えたこともありませんでした」
「そうなの?茨くんかっこいいしモテそうだし、やろうと思えばいつだって……現にこうしてできてるし」
「そうですね、でも決して簡単ではありませんでしたよ。自分、女性の気持ちなんて全く解りませんからね」

そう言う割には私を手のひらの上で転がすのがお上手だったように思えるんだけど。これも何かで勉強して努力した結果だということだろうか。

「貴方の気持ちも、解ったようで解っていませんし。恋人関係って難しいですね」
「…そうだね」

私の気持ちなんて、解られなくていい。恋人役の八坂芹としての気持ちだけ解ってくれれば、それでいい。

「芹は…仕事と恋愛、両立できそうでした?」
「んん…うーん…、人による…としか。茨くんだから、仕事中にも連絡取れたし会えたし、ご飯も行きやすかったけど。他の業界の人とか、身近でもすれ違いばっかりとかなったらきっと、両立できないと思う。…茨くんは?」
「…今のところ、貴方のことしかそういう目で見たことが無いので何とも言えませんね。こういう機会でもないと他の女性に言い寄られても落ちる気はしませんし、仕事だけで充分であります」

私以外のこと恋愛対象として見たことないの?それって今のところ私しか彼女候補居ないみたいなものだよね。いやでも仕事だけで充分って言ってるし、私ですらいらないと言われているようなものか。あぁだめだ、深く考えたくない。

「近いうちに、芹との仕事もしてみたいですね。プロデュースお願いしてもよろしいですか?」
「えっ!!わ、私で、いいの?」
「良いからお願いしているんですよ。またEdenではなく七種茨個人でのお仕事のつもりですが」

仕事人間に仕事を任されるなんて、責任重大すぎる。相変わらずEdenには指一本触れさせてくれないようだが、茨くんと働かせてくれるだなんて。

「しばらく一緒に過ごしてみて自分の魅力は知って頂けたでしょうし。逆に貴方の仕事ぶりに対して自分も信頼できましたし。アイドルとプロデューサーとしても良い関係を築けたと思うのですが、いかがでしょう?」
「…それは、思う。恋人する前は、茨くんのことほとんど舞台の上の姿しか知らなかったから」

今知っている茨くんが、本当の茨くんとも言い切れないところもあるけれど。

「一緒に仕事をして、もっと俺の魅力を知って、引き出してくださいね。期待していますよ」
「期待までしちゃうかぁ」

恋人役に私を選んだのはこういう思惑が初めからあったのかもしれないな。間近で七種茨を感じて、プロデューサーに茨くん自身では見つけられないような魅力を見つけさせ、それを武器に変えさせる目的が。

「…期待には、応えなきゃね」

こんなに近くで、どの女性よりも茨くんに触れていっぱい見てきたんだ。茨くんの魅力はたくさん見つけたし、いっそ他の女性には隠しておきたいくらいだが。でも茨くんはそれを武器にして戦うことを望んでいるし、隠してしまっては茨くんを裏切ることになる。
プロデューサーであるが故に茨くんと仲良くなれたのに、プロデューサーであるが故に、踏み込んではいけない壁がある。茨くんの望まないことをして金輪際一緒に仕事をして貰えなくなっても悲しいし、距離感がわからない。

「まぁ仕事のことはデートが終わってから考えましょう。今は俺のことだけ考えていてくださいね」

繋がれている手を、そのまま茨くんの着ているコートのポケットに入れられた。外気と違って暖かくて、より茨くんとの距離も縮まった。

「自分も今は、貴方のことだけ考えていたいので」

本当か嘘かわからないような言葉で胸が踊る。今日の残りの数時間くらい、立場なんて忘れてしまいたい。私だって、茨くんのことだけ考えていたい。このままずっと手を繋いで、イルミネーションを観て、同じ家に帰って、2つ買ったケーキを一緒に食べて、茨くんの分のケーキを味見したりとかしてみたいし、夜は一緒に眠りたい。そんな幻想、思い浮かべない方が幸せなくらいだ。

「私もう、ずっと前から茨くんのことしか考えてないよ」
「…俺のこと好きすぎでは?」
「よく知ってるね、大好きだよ」

毎日、毎晩、好きだと言い続けてきただけあり、好きという言葉がわりと簡単に出るようになってしまった。言うたびに照れるくらいの方が可愛げがあったのだが、仕方がない。

「俺も芹のことが大好きですよ」

きっともう、2人きりで好きだと言って貰える場面はそんなに無い。今日出来る限りの想いを演技に乗せて伝えて、茨くんからも偽りの愛をたくさん浴びよう。

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