何もかもが煌めいて
イルミネーションが綺麗だと雑誌で紹介されていた都内の公園に来てみれば、カラフルに光る立派なクリスマスツリーが堂々と立っていた。薄く積もる雪に光が反射して、綺麗に煌めいていた。
「綺麗〜……」
「そうですね…写真やテレビなんかで見るよりも、大分」
どうせ皆、恋人かイルミネーションに夢中だろうと思い、茨くんとの距離を詰める。くっつきすぎとか鬱陶しがられているかもしれないが、どうせ最後だし許してほしい。
「寒いですか?」
「ううん、大丈夫。茨くん寒い?」
「えぇ、少し」
そう言われても私にできることは少なくて、少し迷ったけど茨くんの腕に抱き付くようにしてくっついた。これで少しは温まるといいんだけど。
「…普通の人は、こんな風にクリスマスを過ごしていたんですね」
「そうだね、みんなラブラブで幸せそう」
周りでイルミネーションを見ている他のカップルたちも、にこにこ幸せそうにして笑いあっている。クリスマスはいつも家族と過ごすかアイドルのイベントに関わるかしていたので、私もこんな風に誰かと過ごすのは初めてだった。
「…そうですね、これも幸せの形ですね。自分の見てきた世界は、広いようで狭かったのかもしれません」
「私とデートして視野が広がった?」
「ええ。貴方と過ごして、見たことのないものをたくさん見られました。自分の馬鹿みたいなお願いを聞いて頂いて、本当に感謝していますよ」
「どういたしまして。…例えば、何が見えるようになったの?」
クリスマスにいちゃつくカップルの姿とか、町中に漂う甘くて暖かい雰囲気とかかな。Edenはクリスマスも年末もいつも仕事で忙しそうだから、町中の一般人の姿は目に入らないだろうし。
「クリスマス独特の甘ったるい愛情とかですかね。恋人同士の様子だけでなく、親子のそれもそうです。自分、サンタからのプレゼントなんて貰ったことも無かったですし、ケーキすら与えられてこなかったので」
「へ、じゃあクリスマスにプレゼント貰うの、私が初めてだったりするの?」
「ファンの方やEdenの皆様からは貰ってますがね。その他でわざわざ自分のためにクリスマスプレゼントをくれたのは貴方が初めてですよ。とても嬉しいです」
そういうことなら、もったいないとか言って指輪を突き返そうとした私の行いは贅沢なワガママだったのかもしれない。貰えたことを素直に喜べばよかった。
「貴方からは色んなことをしていただいて、振り回してからかって、それでも優しくしてもらえて。初めはとんだお人好しなのかと思っていましたが……貴方の優しさはそれだけではないと感じるようにもなりました。愛してくれてありがとうございます」
私に向けて柔らかく微笑んでくれる茨くんの目はとても優しくて、見ている私の胸が締め付けられた。私はそんな風に思って貰えるような無償の愛を与えた覚えはない。私はただ、依頼された仕事をまっとうするという使命と、見返りが欲しくて優しくしていただけだ。愛したとか、そんな綺麗なものではない。
「…お礼を言うのは、私も一緒だよ。すごく貴重な経験ができてるし、茨くんの色んな姿も知れて、嬉しかった。大事にして貰えて嬉しいよ。ありがとうね」
これではなんだか別れの挨拶みたいじゃないか。感謝を口にしたらなんだか涙腺が緩んでしまい、イルミネーションがぼやけて見えた。
「明日は、お仕事?」
「そうですね、ライブに向けてレッスンもありますし普通に出勤ですよ」
「ライブ楽しみだなぁ。サイリウム4本持ってくね」
「ふふ、やる気満々ですね。貴方に応援されたら全員活気に溢れますよ」
「そうかな?じゃあ茨くんも私が応援してるとこちゃんと見つけてね」
「席の場所は解っていますからね、見つけられますよ」
見てくれるんだったら、ずるいけど応援うちわ作って持っていこうかな。アイドル七種茨のファンサをファンとしても受けてみたい。
「…今後のライブも、観たいと思って頂けるならその時はきちんと仰ってくださいね。チケットくらい用意できるので」
「そ…そ、それは、ずるくない?いいの?」
「ライブに同じESで働くプロデューサーを呼ぶことに文句を言われる筋合いは無いですよ」
「そっかぁ…そんなこと言われたら、絶対毎回甘えちゃうよ」
「構いませんよ。貴方が客席からライブを観た感想もお聞きしたいですしね」
ほんとにプロデューサーとして呼ばれる感じだけど、絶対ファンとして楽しんじゃうよ。そのくらい解っているだろうに呼んでくれるのは優しさだろう。
「…あまり遅くなる前に、そろそろ帰りましょうか。体が冷えて風邪を引いてもいけませんし」
「…そうだね」
本当はもっとこうしてロマンチックな雰囲気を味わっていたいけど。時間がそれを許してくれない。
「お疲れのようならタクシーを呼んで家までお送りしますが…どうします?俺としては、もう少し芹と話しながら帰りたい気持ちもありますが」
「…私も、まだ…茨くんといたい」
「…では、駅まで歩きましょうか」
少しでも長く、茨くんとの思い出を増やしたい。ここであっさりタクシーに乗ってしまえば運転手が気になって会話なんかできないし、絶対に後悔してしまう。
手を繋いだまま歩き始めるが、なんとなく歩行速度が落ちてしまう。クリスマスが終わることに未練しかない。
「芹。今日は本当に楽しかったです、ありがとうございました」
「へ…、わ、私も楽しかったよ、すっごく。プレゼントとかびっくりしたけど、あの、嬉しかった」
「喜んで頂けたのなら幸いです。ファンサなら得意なのですが、恋人を喜ばせるのはなかなか頭を悩ませましたよ」
「ごめんね?忙しいのに仕事じゃないことで悩ませちゃって…」
「色々して頂いたお礼ですからね、悩みもしますよ」
私のために考えてお礼をして貰えたということは、恋人役という仕事をきちんとこなせてきたということだろうか。良かった、役に立てて。見損なわれなくて。
「家まで送ってもよろしいですか?」
「え?いいけど…茨くんの家、ここからだと電車反対方向じゃない?」
「夜道は危ないですからね。クリスマスで浮かれた芹が駅から家まで無事に辿り着けるか心配なんですよ。貴方を無事に家まで送り届けたらそこからタクシーを飛ばすので、俺のことはお気になさらず」
「…そういうことなら、お願いしようかな」
「ええ、喜んで」
駅に着いたら手を離そうなんて思っていたけど、結構人が多くて、はぐれないようにか茨くんも手を離そうとはしなくて、改札に行くまでずっと手を繋ぎっぱなしだった。やっと離した手は、急に寂しくなってしまうし寒さを感じるようになってしまう。
電車に乗り込めばそこそこ人が乗っていて、座れもしなかった。人を避けるために茨くんに身を寄せれば、行き場の無い手をまた握られた。茨くんを見上げるとじっと私を見つめていて、なんだか恥ずかしくなって赤面してしまう。電車内だから周りの人を気にして、目立たないようお互い声も出せないし、緊張感もある。今2人きりだったら、今日はありがとうなんて言って思い切り抱き付いてしまうのに。手にしか触れられないのがもどかしい。
- 24 -
←前・次→