おまけ


「あっ、おはよう左右田くん遠野さん!昨夜はお楽しみだったみたいだね!」

最後の朝食を食べるためにレストランに集まって、左右田くんと喋っていたら狛枝くんが爽やかな笑顔でそんなことを言ってきた。

「なっ…テメーら高校生の分際で不健全なことしてたのか!?」
「し、してねーよ!!狛枝いい加減なこと言ってんじゃねーよ!!」

近くにいた九頭龍くんがキレてきて少しびびる。それにしても狛枝くん、何を見たんだ。

「え?おかしいな。砂浜で手を繋いでらーぶらーぶしてたの、左右田くんたちだと思ったんだけど…違ったかな」

完全に私たちだし、否定の言葉が出てこなかった。恥ずかしいという理由を除けば否定する意味もないし、認めるしかなかった。

「和一ちゃん、意外とやる男だったんすね!」
「うっせ、うっせ!!」

唯吹ちゃんは私たちの関係を知ってたくせにひゅーひゅー言うし、タチが悪い。

「狛枝あんたねぇ、二人を僻むのも解るけど、二人の甘い思い出を皆の前で言うことないでしょ」

真昼ちゃんの一喝で、唯吹ちゃんは手で口を隠した。すごい、唯吹ちゃんが黙るだけで大分静かになる。

「僻む?僕が?どうして?」
「はぁ?あんた空ちゃんのこと好きだったんじゃないの?」
「あぁ…それは違うよ。僕は遠野さんだけでなく、ここにいる皆のことを平等に好きだからね」

意味も解らず、真昼ちゃんも首をかしげてしまう。

「僕はね、希望の象徴である左右田くんと遠野さんがくっつく手助けをしただけだよ」
「はぁ?邪魔してたの間違いだろうが」
「そうかなぁ?左右田くん、僕が言うまで遠野さんへの気持ちに気付かなかったくせに」

左右田くんはバツが悪そうに口をつぐんでしまった。まさか本当に、私たちの関係は狛枝くんの手助けありきの事態だったのか。

「僕が遠野さんが好きだって言った途端に怒るんだもん。そんなに好きならきっと僕という障害を乗り越えることすら容易いだろうと思って、君の希望を試させてもらったんだ。君たちのおかげで希望が繋がる瞬間を見れて、僕は本当に嬉しいよ」
「…悪趣味」
「そうかなぁ?君たちが左右田くんと遠野さんを祝福する気持ちと、何が違うのかな?」

手のひらで転がして、期待通りの事態にさせて、よかったね!と喜ぶ狛枝くんと、おめでとうと祝福してくれる皆では、人間としての質が違うよ。

「狛枝くん」
「ん?」
「左右田くんのこと、焚き付けてくれてありがとう」
「どういたしまして!こちらこそ、素敵な希望をありがとう!」
「それと、狛枝くんの言動のおかげで左右田くんがどんなにいい男なのか再確認できたから、ほんとに感謝してるよ」
「それはよかった。左右田くんと末長くお幸せにね」

狛枝くんが駄目な男であるという皮肉を込めて言ったつもりだが、狛枝くんにそれは伝わらなかったらしい。

「オメーなんかに言われるまでもねぇよ」

そうだよ、もう狛枝くんに口出しされなくても、私は左右田くんと、幸せになるんだから。

「僕だから言うんだよ?僕が、超高校級の幸運だから」
「は?」
「君が遠野さんから目を離したら、きっと僕の運でいつでも寝取ってしまうと思うから、気を付けてねってこと」
「こえぇこと言うんじゃねーよ!!」

左右田くんはびびったのか、さっさと飯食おうぜ!!と言って狛枝くんから離れた場所へと私を連れていった。
左右田くんはきっと、気付いていない。狛枝くんの運で寝取るということは、狛枝くんがそれを望んでいるということだ。狛枝くんはああ言ってるけど、きっと、私を好きだと言ったことには特別な気持ちがあったんだろう。それに私が気付いたところで、何もしてあげられないけど。


「凪斗ちゃん元気出してほしいっす。修学旅行最後の朝食なんすから、元気に食べて元気に帰るっす!」
「僕は元気だよ?」
「強がりっすねー!唯吹、凪斗ちゃんのそういうところだけは嫌いじゃないっす!」
「あはは、ありがとう」

私は狛枝くんに口出しされなくたって、左右田くんと一緒に、私たちのペースで歩んでいくんだから。



 終

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