君が隣にいる世界



左右田くんとの関係は変わったものの、特別恋人らしいことをすることもなく、おでかけがデートへと名称変更されたくらいだった。私も左右田くんも、臆病者で、恥ずかしがり屋だった。


「とうとう明日で終わっちゃうね…」
「まぁいいんじゃねーの。採集は疲れるし、この島にも飽きてきたしな」

私たちの関係のことは日向くんと唯吹ちゃんくらいにしか話していなかったけど、もう最後だし他のみんなにもバレていいかと思って、夜に二人で砂浜まで来て星を見ることにした。夜にデートなんてしてこなかったから、新鮮だった。

「学校始まったらこんなに遊んでばっかいられねぇだろうけど、もっと、色んなとこ行って遊ぼうぜ」
「うん、楽しみにしてる」

学校なんて別に好きじゃないからどうでもよかったけど、左右田くんやみんなのおかげで、楽しみに思えた。きっと希望ヶ峰学園には、面白い人たちがたくさんいて、退屈することもないだろう。何より、私のことを大事にしてくれる左右田くんがいる。

「…いつか、ロケットできたら、乗らせてね」
「あたりめーだろ。二人乗りにして一緒に乗ってやんよ」
「えー、左右田くん乗り物苦手でしょ?」
「う、うっせ!出来上がる頃には乗れるようになるからいいんだよ!」

意地を張る左右田くんがかわいくて、ついからかってしまう。せっかくだからもう少しだけからかおうと思って、左右田くんの手を握った。びくっと肩が跳ねる姿もかわいくて、笑みがこぼれてしまう。

「あ…あんま調子に乗ってっと、喰っちまうぞ」
「わっ」

握った手をぐいっと引かれ、左右田くんとの距離が近くなる。夜で暗いのに、左右田くんの頬が染まっているのが解った。

「…左右田くんなら、いいよ」
「えっ」

左右田くんに近付かれるのも触れられるのも、全然嫌じゃない。むしろわくわくして、楽しくなってくる。手を繋ぐ以上のことをされてもいいかなと思って、目を瞑った。握っている手に汗をかいてくるし、胸がドキドキする。待っている時間がすごく長く感じて、目を開けてしまおうかと思ったら、熱い手のひらで頬を撫でられ、一瞬だけ、唇に柔らかいものが触れた。
目を開ければ近くに真っ赤に染まった左右田くんの顔があって、恥ずかしくて目なんか合わせられなかった。

「…帰るか」
「…もう?」
「いや…これ以上遠野と二人きりで居たら、なんかやばそう。俺が」

和一ちゃんだって男子なんすよ!という唯吹ちゃんの言葉が脳裏に浮かぶ。ヤバイことをするのはさすがにヤバイなぁ、と漠然としたことを考えて、ちょっと物足りなかったけど、帰ることに同意した。

「修学旅行が終わったらさ、二人でもっと色んなところに行って、色んなことして、たくさん思い出作ろうね」
「色んなこと…」

コテージまでの道のりを、左右田くんと手を繋いだまま歩いた。手汗をかいてしまったのが気になるけど、それよりも、左右田くんに触れていたかった。

「私、左右田くんのことそういう目で見始めたら、毎日どんどん、少しずつ、左右田くんのこと好きになってる気がするんだ」
「そっ…そうか」
「…引いた?」
「…引かねーよ。俺も同じだっつーの…」

左右田くんの言葉にいちいち心をくすぐられて、馬鹿の一つ覚えみたいに左右田くんのことを好きだなぁと考えてしまう。恋愛に毒されすぎているようにも思えたが、自覚してしまった気持ちに歯止めは効きそうにない。きっとこれからも、私は左右田くん色に染められていくのだろう。

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