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現世へ行ってきます、と報告を受けてから、既に一ヶ月が経っていた。数週間で帰ると聞いていたので、もう帰ってきていてもおかしくないのだが、幸実ちゃんは十一番隊に姿を現さなかった。
たびたび隊員の誰かが「幸実ちゃんまだかよー」と呟き、ため息が連鎖する毎日だった。一ヶ月もそんな日々が続くとさすがに耳にタコができて、僕もイラついていた。
「阿散井、幸実ちゃんは?」
「し…知らないっすよ」
「今どこ?」
「…聞いてないっす」
「嘘をつくな」
僕は気が付いていた。幸実ちゃんの名前が出されるたびに、阿散井が物思いにふけっていたことに。
「何があったのか吐いて」
「…言うなって言われてるんすよ」
「誰に?何を?」
「だから、言えないんですって」
でかい図体の癖に慌てやがって。そんな弱気で隠し通せると思ってるのか。
「現世で何かあったんだよね?」
「…言えないっす」
「何事も無かったら、隠すことすら無いはずだしね。もう帰って来てるんでしょ?」
「…い、一応」
「それで、今どこにいるの?」
「…そんなに、気になるんすか?」
質問に質問で返され、頭にきて阿散井の脛を蹴ってやった。
「答えて」
「いてて…。…四番隊っすよ」
嫌な予感は当たるもので、四番隊と聞いて血の気が引いた。言うなってのは、きっと幸実ちゃん本人から言われたことなのだろう。僕に隠したいほどの、大怪我でもしたのだろうか。
「行ってくる」
「待ってくださいよ!」
「どうして?」
「夏目が…誰にも、会いに来て欲しくないって」
「僕もダメなの?」
「なんで自分だけオッケーだと思うんすか」
ムカついたから、もう一度阿散井の脛を蹴った。僕を苛立たせないでくれ。
「阿散井は会いに行ったの?」
「…行ってねぇっすよ。来るなって言われたんで」
「それ何日前の話?」
「えっと…、三日前っす。伝令神機で、連絡あって」
「今日は会いに来るなって言われてないんだろ。行ってくる」
「ちょっ…弓親さん!」
僕が心配してたこと知っておきながら、帰ってきても何も言ってこないなんてひどいじゃないか。そんなにひどい怪我なら尚更お見舞いに行きたいし、ほっとくことなんてできやしない。
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