恋せよ乙女
初恋は実らない。そんなこと誰が初めに言い出したのかなんて知らないし知りたくもないが、私は今、初恋というものをしてしまっている。
学院の頃の先輩で、恋次くんを通じて知り合った、超絶かっこいいエリートな檜佐木さんだ。顔つき怖いよ、なんて言う女の子たちもいるが、檜佐木さんは話してみると意外と優しくて、時折笑顔も見せてくれるような人だった。
「おっす星野」
「ひゃっ!?」
背後から突然声をかけられてびっくりする。振り向けばそこには、今の今まで思考を占領していた檜佐木さんがいた。
「こ、こんにちは!お疲れさまです」
「お疲れ。こんなとこでどうかしたのか?」
こんなとこ、というのは九番隊の隊舎だ。私は残念ながら檜佐木さんとは違う隊の配属なので、よそ者なのである。
「檜佐木さんに会いに…じゃない、その、檜佐木さん、か東仙隊長に渡さなきゃいけない書類があって、持ってきました」
「そうか、遠いのにわざわざありがとな」
檜佐木さんに会いに来ただなんて失言をしそうになり、顔が熱くなる。ありがとな、と微笑む檜佐木さんの顔が見てられなくて、目線をそらしてしまう。
「檜佐木さんに会えてよかったです」
「え」
「これ、どうぞ」
封筒を檜佐木さんに手渡しする。つまらないけど、これで用事が終わってしまったので帰らなければならない。
「それじゃ、失礼しますね」
軽く頭を下げ、帰ろうとしたのだが「待て」と声をかけられ足止めされてしまった。
「…どうかしました?」
「あー…その、今から昼休憩か?」
「は、はい」
「よかったら一緒に行かねぇか?俺も仕事一段落ついてんだよ」
「ぜ、ぜひ!」
っていうことは檜佐木さんと二人でご飯? そんなの、嬉しすぎる。何週間ぶり、何ヵ月ぶりだろう。今日の私は運がいい。
「これだけ執務室置いておきたいから、ついてきてくれ」
「はい」
檜佐木さんと二人で、というシチュエーションだけで嬉しくてわくわくしてドキドキする。こんな気持ちになるのは檜佐木さんが初めてだ。
「何か食いたいものあるか?」
「…カツ丼」
「恋次みたいな解答だな」
あぁしまった、オムライスとか可愛いもの答えればよかった。仕事して重いものが食べたくなるくらいお腹が空いているのだから許してほしい。
「カツ丼の美味い店連れてってやるよ」
「…すみません、可愛げなくて」
「気にすんな。俺も腹減ったからガッツリ食いたいし」
本当は、そんな優しい檜佐木さんの手料理が食べたいです。なんて、口が避けても言えないんだけど。
- 1 -
←前・次→