clap



拍手ありがとうございます!
短編のスピンオフ作品(他キャラ視点)です。
現在三種類ランダム表示。

立花仙蔵スピンオフ(潮江文次郎目線)
尾浜勘衛門スピンオフ(久々知兵助目線)
田村三木ヱ門スピンオフ(佐竹虎若目線)

コメント、感想等いただけるととても嬉しいです。お返事はRe:にて書かせていただきます。





こちらのスピンオフ
田村三木ヱ門/百発の弾丸
佐竹虎若視点






ここはぼくの郷里の佐竹村内、射撃練習場である。

「それでは田村くん、撃ちたまえ」

師匠である照星さんの低い声が練習場に響いた。
集中して学園の先輩である田村三木ヱ門先輩の射撃を見なきゃいけない。それなのにぼくはそわそわしてそれに全く集中できなかった。
そんなぼくの気持ちも知らずに、田村先輩は的をまっすぐに見据えた。息を止めず、静かに吸って一瞬のうちに引き金へ手を掛けた。

――バァン

お見事、弾丸はど真ん中に命中だ。
田村先輩はふう、と軽く息を吐き立ち上がった。どうだと言わんばかりの涼しい笑顔でこちらを見る。さすがにきちんと見ていませんでした、なんて言うことが出来ずぼくは声をあげた。

「さすがです、先輩……」

「ありがとう」

ぼくがそわそわしているのに照星さんは気が付いたのだろう。僅かに眉間に皺を寄せると後ろを振り返った。

「田村くん、見事だ。……少し休憩にしよう」

そう言うと照星さんは火縄銃を軽々と持ち上げてどこかへ言ってしまう。そういえば照星さんは練習前に父ちゃんから時間が空いたら来てくれと呼ばれていたっけなんて思い出す。
静かに練習場を去っていくのも本当にかっこよくてその広い背中を見つめる。
照星さんを見届けてからやっと田村先輩の横へ腰かけた。

「虎若、どうした?午後の練習はずいぶんとそわそわしているじゃないか」

田村先輩が心配そうにこちらを覗き込んだ。
ぼくはその言葉にやや気まずく感じながら、ちらと後ろを振り返る。
そこには大きな針葉樹の木があった。
今は何の気配もないそこを見ていれば先輩は恥ずかしげに笑った。

「彼女、来ていたのかい?」

「……は、はい。ずっとそこで見てましたよ」

ぼくの顔にはかあと血液が集まるのを感じながらそこへ指をさした。佐竹村には田村先輩と同じ年の娘さんがいる。
血が繋がっているわけじゃないけれど近所に住んでいる彼女は本当の姉のようだった。
そのお姉さんはどうやら田村先輩に想いを寄せているようで、ぼくたちが練習しているところを度々見に来ている。
つい先程までそこの木に隠れている気配があった。
それがあまりにも熱い視線なものだから、ぼくに向けられていないとわかっているのにどこか落ち着かずに、練習に身が入らないでいた。

「……そっかあ」

照れたように言う田村先輩。ぼくはずっと思っていたことを聞く。

「先輩はなんでお姉さんに声をかけないんですか?」

「なんで、か……」

そういうと先輩は首を捻った。
ぼくの勝手な想像では意中の女のひとにどんどん話しかけに行きそうな先輩なのだ。
それなのに、元々接点がないし、とか彼女も仕事で忙しそうだし、とか珍しく口ごもっている。
いつもはあんなに自信たっぷりの田村先輩が小声でもごもごと言っているのだ。こんなところは学園で見たことがなくて、そのもどかしさにぼくは立ち上がった。

「もう、いつも自信たっぷりな先輩はどうしたんですか!お姉さんもあんなに田村先輩を見ているのに!もう、ばーっと行ったらいいんですよ!」

腰に手を当てて思わず説教してしまう。
先輩はそれをぽかんと口を開けてこちらを見ていた。先輩が来る度に隠れてこそこそ見ているお姉さんも、見ているのが分かっているのに黙っている先輩ももどかしいったらありゃしないんだ。
ひとりで帰る度に田村さんは来ないんですか、なんて聞かれれば鈍感なぼくだって気が付くさ。むしろ気が付いてないって思ってるのお姉さんだけなんじゃないかなって思う。

「……虎若の言う通りだな」

「え、ええ……そ、そうですよ」

自分が強気で言ったのにもかかわらず、あまりにすんなり頷くものだからぼくはたじろいだ。
いつもあまりぼくの話を聞いてくれない田村先輩がぼくの言う通りだと言った。これは事件だと瞬きを繰り返す。

「九十」

「きゅうじゅう……?」

「なんの数字だか分かるか?」

ぼくは首を横に振った。それを見た田村先輩は得意気に、にいと口の端を上げた。

「私が彼女の前でど真ん中を打ち込んだ回数だ」

「そ、そんなに……」

数えていたんだ、と先輩はおっしゃった。ぼくがお姉さんの気配に気が付く前から先輩は気付いていらっしゃったのだ。
唖然とするぼくに先輩は座れ、と土を叩いた。それにならって隣に座り直した。

「彼女は佐竹衆の娘さんだ。中途半端に彼女に話しかけることはできないよ」

先輩が真っ直ぐと見据えた先には射撃練習用の的がある。それを射るような鋭い目で見ている。
赤い目がきらり、と日に当たって光った。

「あの的へ百、打ち込んだら話しかけるつもりなんだ。その位できるようじゃなきゃ私にあの子を口説く権利もないさ」

「たむらせんぱい……」

決意の固い表情に、ぼくはごくりと息を飲んだ。
ぼくが心配する必要なんてこれっぽちもなかった。先輩はとっくにお姉さんのことを想像よりうんと真剣に考えてくれていたのだから。

「せんぱい!かっこいいです!」

そう言えば、当たり前だ、と帰ってくる。
風がそよそよと吹いて、その涼しさからすぐに夕時になるのを感じる。
今日は宴会があるって言っていたっけ。村の女衆が随分張り切っていたなあ、と空腹を感じたお腹をさすった。

「あ」

「なんだい?虎若」

思わす上げた声に、先輩は振り返る。その顔は綺麗で、火器の扱いが得意なひとには見えなかった。

「先輩がお姉さんと結婚したら佐竹に来るんですか?」

「けけ、け、結婚って……!」

慌てる先輩はまるで百面相だ。さっきまでは凛々しく話していたのに今は顔を赤くしている。
確かに、まだ結婚なんて早とちりだったかもしれない。しかし、佐竹衆のみんな……父ちゃんや照星さんまで田村くんが佐竹衆に来たらいいな、なんて話しているものだからそう考えてしまうのが通りだ。

「そしたら先輩もぼくの事、若太夫って呼ぶんですかね?」

「あーのーなー!」

なんだ、佐竹衆のみんなはぼくの事を若太夫っていうから呼ばれるかなあって思ったのに。そんなことを考えていれば頭に先輩の手が乗せられた。荒くわしゃわしゃと撫でられる。

「私がお前を若太夫と呼ぶのはずっとずっと先の話だ。卒業するまでは後輩だからな」

そう言うと田村先輩が立ち上がる。遠くからは照星さんが戻ってくるのが見えていた。

「先輩!そしたらぼくも父ちゃんが照星さんを呼ぶみたいに田村殿って呼ぶかもしれませんね!」

そう聞けばなに言ってんだ、とくつくつと喉を鳴らす。
見上げれば、先輩はまっすぐまっすぐ前を見据えていた。
この先、田村先輩の赤い瞳を忍術学園を卒業するまで追うことになるのだろうあ。いつか越えてみたいな。なんて考えながら立ち上がった。
そこでああ、と気付かされる。
きっとお姉さんはこのまっすぐな瞳に惹かれたんだ、と。
的を見つめる、まっすぐでどこか挑戦的な表情だ。
色恋沙汰なんてぼくには良く分からないけれどこうして火縄銃を扱う先輩は、いつも自信たっぷりで自慢話をしている時よりかっこいいもの。

「さあ、夕食前にもう少し訓練をしようか」

「はい!お願いします」

父ちゃんや照星さんの言う通り田村先輩が佐竹村に来て一緒に過ごす日々はきっと楽しいのだろうなあ、そんなことを考えて夕飯前の訓練に臨むのだ。
遠くではお姉さんたちが準備をしているのだろう。煮ものの良い香りがしていた。