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短編のスピンオフ作品(他キャラ視点)です。
現在三種類ランダム表示。

立花仙蔵スピンオフ(潮江文次郎目線)
尾浜勘衛門スピンオフ(久々知兵助目線)
田村三木ヱ門スピンオフ(佐竹虎若目線)

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こちらのスピンオフ
立花仙蔵/白椿
潮江文次郎視点






 自室、日の当たる壁際にて。

「仙蔵、街へ出掛けるの?」

「ああ、そうだ」

 おかしい……俺は読みかけの本を閉じる。同じ組で同室である立花仙蔵の様子をちらと見た。

「ならば実習の為のかんざしを買ってきてくれないかい?」

「いいだろう。実習内容は?」

「武家の娘の変装だよ」

 只今、同室である立花仙蔵の目の前にいるのは不運大魔王との呼び声が高い六年は組善法寺伊作である。それが部屋前で仙蔵に頼みごとをしている。
 おかしいと思うのは伊作の頼みごとの内容ではない。立花仙蔵という男が他人の頼みごとを安請け合いすることだ。

 最近、六年生の課題は女装実習が多い。武家の娘や街娘、商人の娘や踊り子にいたるまでその内容は多岐に渡っている。正直俺にとってやりにくい授業なのだが、教師陣の意向には逆らえまい。
 そう言った実習や試験が増える中で、同輩どもはこぞって仙蔵に女装用の小間物調達を依頼していた。
 最初に言いだしたのはろ組の連中だったと思う。そう言った店に入りにくい、とひと足先に授業のあったい組に頼みにきたのだ。
 立花仙蔵は六年生の中で群を抜いて女装の成績が良い。頼りたくなるのも頷ける。
 しかし、奴は易しい男ではない。人の頼みごとを損得抜きで請け負うことはないのだ。
 今回も勿論断ると思ったが、小間物屋への遣いだけは今のようにひとつ返事で承諾していく。

「文次郎、どうした。おまえも何か頼むか?」

 いつの間にか伊作は部屋の前からいなくなっていた。機嫌のよさそうに消えゆく足音だけが耳に入る。
 仙蔵はと言えばいつも通りに余裕そうな笑みでこちらを眺めていた。

「いらん。……人の頼みごとをお前が聞くとは珍しいと思ってな。前も留三郎や小平太の遣いで小間物屋へ行っていただろう」

 手間賃は取るぞ、などと言ってのける仙蔵に俺はそっけなく返す。

「ほう、よく見ている」

 よく見ているものか。あれだけ頻繁に頼まれごとを受けているのを見ていれば誰だって気が付くし不審にも思うだろう。
 そういった視線を送ると仙蔵は耳を疑うような言葉を落とした。

「……小間物屋に落としたい相手がいてな」

 しゃあしゃあと言う仙蔵。あまりにけろりと白状するものだからこちらが間抜け面を晒してしまう。

「お前、何を言ってるんだ?まさか忍者の三禁……」

「白い椿だ」

「ハァ?」

 意味の分からないことを言いながら仙蔵は懐に手を入れた。そこから巾着を取り出す。その中には柄鏡が随分大事そうに仕舞われていた。
 白い椿が一輪描かれたものだった。

「椿を愛でたくてな。色とはまた別の話よ」

 まるで愛しい女を見るような目でそれを見る。同輩の新たな一面を覗いてしまった気がして妙な罪悪感と背徳感が押し寄せた。

「忍者の三禁に好い人を愛でてはならぬというのはないだろう?」

「溺れてしまえば同じことだ」

 毒付いて見せれば、彼は困ったように口を歪めた。この男がそれまでに入れ込む女子はいったいどのような奴なのだろうか。想像しようにも全く浮かばない。

「いずれ連れて来よう。……私の手に落ちればな」

 仙蔵のことは同輩連中の中でも知っている方だと思っていた。
 もともと感情や素性をべらべら話す方ではないが、空気というものは察せられる。しかし、現在奴から感じ取れたのは今までに見たことのないものだった。

「随分自信がないようじゃないか」

 珍しく強気でない仙蔵にこれは好機と反撃してみる。いつも焙烙火矢や軽口でやられっぱなしは悔しいものだ。

「そうだな。私の存在を覚えてもらっていないからなあ……」

「あのお前がか?」

「文次郎、随分失礼な物言いじゃないか」

 色恋事に興味の薄い俺から見ても、仙蔵は女に好かれると思う。
 告白なんてものも頻繁にされているし、そう言う類には事欠かない男だ。それは同輩や後輩たちが羨むくらいに。
 その仙蔵が休みの度に街に出て、わざわざ会いに行っている女に存在すら覚えてもらっていないなど信じられた話ではない。

 俺の態度に仙蔵は怪訝そうな顔を向ける。慌ててこほんと咳払いを打った。

「まあ良い。お前と話していると折角の出掛ける時間が減る」

 そう声を落として仙蔵は女物の着物に手を掛けた。

「お前、女子に女の格好で会いに行くのか?」

「……店は割と敷居が高くてな」

「いや、贈り物するのに入る奴もいるだろう」

 ぼそりと言えば、仙蔵は驚いたというようにこちらを見た。
 いや、その顔をしたいのは俺の方だ。
 まさか、よもや。立花仙蔵という男がそんなことにも気が付かなかったのか。

「文次郎」

「ああ?」

「次の女装の試験は私が化粧をしてやろう」

「いらねーよ」

 ならばお前は落第だな、などと再び毒のある言葉を吐いて仙蔵は長い髪を結い直している。
 さらりと流れる髪を見て、その所作でどれだけの女を惑わしてきたんだかと心の中だけで毒を返す。
 その男が冷静さを欠けさせるほどの女、か……やはりどんな奴か想像もつかないでいれば仙蔵が戸に手を掛けた。

「行ってくる」

「ああ」

 奴はどんな顔で出て行ったのだろう。そしてどんな顔で街へ行くのだろう。
 いつか見える白椿の君を想像しながら俺は明日図書室へ返さねばならない本を広げるのだった。